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エトランゼ
ロンドン日記から(1)
著者: 常田正
所属機関:
ページ範囲:P.1117 - P.1117
文献購入ページに移動×月×日朝 朝食に行って驚いた.数十人の日本人観光客がどこからわき出して来たのかと思う程うようよ屯(たむろ)していた.朝食を待っているのだ.昨夜の顔見知りの給仕の案内で席につく.観光団の中のひとりのお爺さんが,「ここへ座(すわ)ってもいいですか」と聞く.「どうぞ」お爺さんが座る.給仕が小生の注文を運んでくる.「コーヒー・プリーズ」とお爺さんが声をかける.給仕は無視する.「この爺さん,何だってこんな所に座っていやがるのだ」とそっぽを向いてつぶやいていた.給仕の後姿に「コーヒー・プリーズ」とお爺さんは叫ぶ.壮年の観光団員が若い添乗員をつるし上げている.添乗員はマネージャーを探し求めて馳けずり回る.給仕達は知らん顔.団員達はそわそわと立ったり座ったり.添乗員に文句を言ったり,給仕に勝手に注文したり.添乗員は顔を蒼白にし,額にあぶら汗が光る.やがて「時間です.バスが表に来ています.もう飛行機の時間がありませんからバスの方に急いで下さい」と添乗員の悲痛な声.イギリスのホテルは朝食つきのはずなのだが,一行はついに朝食にありつけずに出発せねばならなかった.
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