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文献詳細

雑誌文献

検査と技術17巻6号

1989年05月発行

文献概要

感染症の検査法 Ⅱ 感染症各論

[5]腸管感染症—伝染病型と食中毒型

著者: 相楽裕子1 松原義雄2

所属機関: 1東京都立豊島病院感染症科 2東京都小平保健所

ページ範囲:P.629 - P.637

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はじめに1,2)
 各種病原体がヒトの腸管に侵入・定着・増殖することによって起こる疾患を,腸管感染症と総称する.臨床像からは急性下痢症を主徴とする感染性腸炎と,腸チフスのように本質的に菌血症を起こす全身感染症に分けられる.いずれも汚染食品や水を介して感染することが多いので,food-borne diseaseとも呼ばれるが,腸チフス・パラチフスはチフス性疾患として感染性腸炎とは別に扱われる.一方,細菌性食中毒は個々の症例からみれば急性胃腸炎像を呈するものが多く,腸管感染症の範疇に入れられる.同じく感染性腸炎型であっても,従来伝染病と食中毒は定義上も患者取り扱い上も厳密に区別されてきた.すなわち,赤痢菌(Shigella)やコレラ菌は少ない菌量(104〜5)で健康者でも感染発症させるvirulence(伝染力)をもちヒトからヒトへ二次感染を起こす可能性があるため,わが国では法定伝染病として強制隔離する体制がとられてきた.他方,後者は食品の中で増殖した比較的大量の生菌(106〜8)の摂取によって発症し,通常は二次感染を起こさないものとされ,届け出の義務はあるものの患者の強制隔離は要求されていない.しかしながら,近年,検査技術の飛躍的な向上とともに新しい食中毒起因菌あるいは腸炎起因菌が次々に明らかにされ,また従来の食中毒起因菌についても研究が進むにつれて,食中毒起因菌でも条件しだいで少数の菌量で感染発症し,ヒト-ヒト感染,水系感染を起こしたり,逆に伝染病起因菌でも発症にはかなり大量の菌を必要とすることが判明した.したがって,筆者らは伝染病と細菌性食中毒という法律上の区別よりも,菌種によって取り扱いを考えて対処している.
 伝染病起因菌が検出されると,その感染性に対して過敏になるが,わが国では患者は伝染病隔離施設に収容されるため,患者の糞便を介する二次感染に注意すれば十分である.表に腸管感染症の病原体とその臨床像をまとめた.本稿では便宜的に,法定伝染病病原体を伝染病型とし,Clostridium difficileを含むその他の腸管系病原体を食中毒型としてまとめることにする.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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