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文献詳細

雑誌文献

検査と技術17巻9号

1989年08月発行

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トピックス

癌遺伝子と白血病

著者: 高久史麿1

所属機関: 1東大医学部第三内科

ページ範囲:P.1241 - P.1242

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 癌遺伝子は正常なヒトの細胞内に存在する遺伝子で,レトロウイルスの中に組み込まれる過程で活性化されてRNA腫瘍ウイルスになる.最近になって,RNA腫瘍ウイルスが関与しない動物の腫瘍や,ヒトの癌で同じく癌遺伝子が活性化されており,その活性化が腫瘍の出現や進展に密接に関与することを示す所見が多く発見され,癌遺伝子は多くの癌の研究者の注目を集めるようになった.
 癌遺伝はすでに40種類近くが発見され,またヒトの腫瘍における癌遺伝子の活性化の機序もさまざまであるが,ヒトの白血病で見いだされている活性化された癌遺伝(oncogene)はもっぱらras on-cogeneである1).ras oncogeneにはN-ras,H-ras,K-rasの3種類があるが,その中でもN-rasの活性化が見いだされる場合が多い.ras oncogeneの活性化はヌクレオチドが1個置換したone pointmutationによるものであり,そのmutationの場所もヒトの白血病や前白血病状態と考えられているmyelodysplastic syndrome(MDS)ではもっぱら12,13,61番目のアミノ酸コドンに限られている2,3).ヒトの白血病におけるrasoncogeneのone point mutationは,最初ヒト白血病細胞からDNAを抽出し,それを培養したNIH3T3 fibroblastに入れ(trans-fect),そのfibroblastの変形をみるいわゆるtransfection assayによって行われ,その後より高い検出感度を得るためにヒトのDNAをtransfectしたfibroblastをヌードマウスに移植し,形成された腫瘍のDNAを調べるというinvivo selection assayが行われるようになった.いずれも非常に時間がかかるうえ費用,手間の点を考えてもとうてい臨床検査として一般化することは不可能であった.しかし,ヒトの白血病やMDSではone point mutationの場所が決まっているため,その部位のヌクレオチドにmutationのあるras oncogeneのoligomerをあらかじめ作り,それを標識してmutationの有無をSouthernhybridizationで見つける際のプローブとして用いる方法が導入されて,mutationの有無の検索が非常に簡単に行われるようになった.さらに,患者の白血球のDNAの中でras oncogeneの12,13,61番目に該当するDNAを含んだoligomerをpolymerase chainreaction(PCR)と呼ばれるDNApolymeraseを使った方法で100万〜1000万倍に増幅させ,増幅させたoligomerを用いて上述の標識したoligomerをプローブとしてmutationの有無を調べる方法が開発され,PCRのための自動機器も作られて,ras oncogeneのmutationの有無を以前に比べるとはるかに容易にかっ高い感度で検索することが可能となった4)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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