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文献詳細

雑誌文献

検査と技術2巻11号

1974年11月発行

文献概要

病気のはなし

目の病気

著者: 船橋知也1

所属機関: 1慈恵医大眼科

ページ範囲:P.16 - P.19

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 お江戸の昔には,目の見えなくなる病気をソコヒと名付け,瞳孔が白く濁っている場合を白ゾコヒ(白内障),緑色を帯びているのを青ゾコヒ(緑内障),そして,黒い瞳のままで視力がなくなっている時を黒ゾコヒ(黒内障)と名づけていました.ところが,ちょうど,日本では尊皇攘夷でテンヤワンヤのころ,ドイツにヘルムホルツというノゾキ魔的天才が現れて,眼の底をノゾク検眼鏡を造りました.世界で初めて眼底を見られた人は彼の奥さんでした.このオモチャはアッという間に眼科医の間に広がり,黒ゾコヒといわれていた病気が,さらに,たくさん,たくさんの病気に分類されることとなりました.これに追い打ちをかけて,ツァプスキーが細隙顕微鏡を考案し,その後,視野計,眼圧計,隅角鏡,網膜電図,眼底写真機,その他,モロモロの光学機械,眼機能検査機械など,ぞくぞくできて,眼の病気だけでも404病をはるかにしのぐ盛況となり,私など30年勉強しても,まだ学成りがたい始末です.
 ここで眼底カメラについて,一言,物申します.このごろ,××検診などと銘をうち,眼科医以外の人が,眼底カメラで人様のオメメの底を,病的所見があろうがなかろうが,パチパチ,へたな鉄砲も,数打てばまだ同情の余地もあろうが,1眼に1枚くらい写真を撮り,それで眼底病があるとかないとか愚民をまどわす,オコガマシキ次第.まずもって眼底と印しましても広うござんす.1枚や2枚の写真でコト足りるそんなケチなものではござんせん.眼底の後極部だけでも,少なくとも5枚の写真は必要であります.そのうえ,眼底の写真像は用いたフィルム,光量,光の射入方向,瞳孔の大きさ,老若,その他,モロモロの条件によって,女の心のように同一の眼底が全く変わって見えるものであります.ですから眼底カラー写真1枚持って来て,"これでこの患者さんの眼底病を診断してください"といって来られるかたには,"私は非才でできません"と正直に申し上げて,お引きとり願っているしだいです.
 眼底カラー写真は,あくまでも,検眼鏡で発見した眼底の異常所見を記録し,以後の病勢の推移を検討する具として存在価値があるのであるということを銘記していただきたい.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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