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動物毒—伝説と事実
著者: 宇仁茂彦1 西尾恭好2
所属機関: 1大阪市立大学医学部医動物学教室 2大阪市立大学医学部生物学研究室
ページ範囲:P.88 - P.92
文献購入ページに移動紀元前30年8月29日,クレオパトラはエジプト王の王冠を戴き,王の装束を身につけ,黄金の寝台に横たわった.無花果を盛った籠を侍女カルミオンより受け取り,その中に秘めてあった2匹のアスプ(エジプトコブラ)を胸に這わせた.これがクレオパトラの最後といわれている.オクタビアヌスはローマでの凱旋パレードに連れて帰るために,クレオパトラを絶対に死なせてはならないと考え,前もってヘビ毒の専門家を従えていたとも記されている.この謎の死には毒蛇がよく描かれているが,毒蛇説を疑う歴史家も多い.
15世紀ごろからヨーロッパではタランチュラに咬まれると舞踏狂になるという言い伝えが広まった.大形の毛深いクモが生息していたイタリアのタラントという町で,ある教団が熱狂的なダンス(タランテラ踊り)をして騒いでいた.その口実として,その人たちはクモに咬まれたためであると説明していた.そのために,この大きなクモはタランチュラと呼ばれるようになり,毒グモであると思われてしまつた.実は,その地域には毒性の強い小さいゴケグモがともに生息していた.タランチュラはめったに人を咬まないし,それによって死亡したという記録はない.
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