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病理検査こぼれ話
モルペーとしてのピュシス
著者: 内木宏延1
所属機関: 1福井医科大学病理学第2講座
ページ範囲:P.255 - P.255
文献購入ページに移動 何やら難しいタイトルですが,最近,病理学について考えたことを以下に書いてみたいと思います.『ロビンス』と言うアメリカの病理学の教科書の冒頭に,病理学の中核を形成する疾病の4つの側面として,①疾病の原因,②疾病発生のメカニズム,③病理形態学的変化,④機能異常と臨床症状の発現,の4項目が挙げられています.これらは病気について学ぶときの大切な枠組みで,病気は①〜④の順に発症してきます.言うまでもないことですが,病理組織・細胞診の役割は,③を通して疾病の本態を明らかにすることにあります.読者の皆さまも勉強が進むにつれてしだいに気づかれることと思いますが,われわれ病理学に携わる者が病理組織・細胞診をするとき,今,顕微鏡下に見えている形態の中に病気の本質が必ず現れている,と半ば無意識に前提し,その本質を明らかにしようと努力します.最近,私の友人の哲学者S**先生の著作を読んでいて,この病理学的行為の哲学的基礎をはたと見いだし,目から鱗が落ちる思いをしました.ギリシャの哲学者アリストテレスが,『自然学』という著書の中で,ピュシス(真理が立ち現れること)の3つの様態を述べているそうですが,彼はその中で最も重要なものとして,モルペー(形態)を挙げているそうです.つまり,“真理は形態としてわれわれの前に立ち現れる”ということでしょうか.単純にして明快なアイディアですね.
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