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ラボクイズ
3月号の解答と解説
著者: 高橋裕樹1 今井浩三2
所属機関: 1札幌医科大学医学部第一内科 2札幌医科大学
ページ範囲:P.339 - P.339
文献購入ページに移動解説:本例は食事摂取後,歩行などの軽微ながら身体を動かした直後に蕁麻疹や血圧低下,呼吸困難などの症状を呈しており,病歴からは食物依存性運動誘発アナフィラキシー(food-dependent exercise-induced anaphylaxis,以下FEA)が疑われる.FEAは特定の食物摂取後,運動により全身の蕁麻疹や血圧低下,呼吸困難,意識障害などのアナフィラキシーを呈する疾患であり,食物アレルギーと運動誘発アレルギーとの境界に位置する.本症は1979年Maulitzが甲殻類摂取後に発症する運動誘発アナフィラキシーとして症例報告し,1983年にKiddがFEAという名称を提唱し,疾患概念が確立した.わが国では1983年に久志本が第一例を報告以降,これまでに150例以上の報告がみられている1).稀少な疾患として社会的認知度も高くはないが,学童の突然死の原因の一つとして重視されており,また神奈川県内の中学生・高校生を対象とした疫学調査では頻度は0.012%,8,300人に1例の有病率と報告されている2).男女比は2:1で男性に多く,平均発症年齢は22.5歳,原因食物としては小麦が最も多く(42%),次いでエビ(20%),イカ(5%)の順であった.診断は通常の食物アレルギーと同様,詳細な問診の上に,アレルゲン同定のため,抗原特異的IgE抗体のRAST(radioallergosorbent test,放射線アレルギー吸着検査)による測定と皮内テストとを行うが,陽性率はIgE RASTが70%,皮内テストが93%とされている.負荷試験(誘発試験)の陽性率は必ずしも高くなく(60%),アナフィラキシー出現に際し,複数の増悪因子(過労,高温,入浴,アスピリン使用など)の関与が指摘されており,本症例ではアルコール摂取が挙げられる.カニ摂取後の運動,または飲酒後の運動では蕁麻疹は誘発されなかったが,カニ・アルコール摂取後の運動で症状の再現をみた3).アルコールは血管拡張・透過性亢進作用があり,ヒスタミンなどのケミカルメディエーターの作用を増強させる可能性がある.また自律神経機能の変調を介してアレルギー反応を修飾する機序も考えられる4).
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