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文献詳細

雑誌文献

検査と技術33巻6号

2005年06月発行

文献概要

Laboratory Practice 生理 超音波像の読みかた

甲状腺―良性疾患

著者: 宮本幸夫1

所属機関: 1東京慈恵会医科大学放射線医学講座

ページ範囲:P.524 - P.530

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はじめに

 甲状腺超音波診断はその歴史も長く,甲状腺の画像診断における各種のモダリティのうちでは群を抜いた診断精度を有することはよく知られている.しかしながら,わが国においてはその診断精度に比して,甲状腺超音波診断があまり評価されていないという現実がある.こうした乖離を生ずる主たる原因は,画像診断あるいは甲状腺診断に携わる医師の不勉強によることは自明ではあるが,そのほかにも原因がないわけではない.

 その一つは,超音波検査が甲状腺の異常を捉えすぎるということにある.他のモダリティに比して抜群の空間分解能を有する超音波検査では,1~2mm程度の腫瘤を捉えることも容易である.したがって,良悪性を問わず甲状腺疾患の検出率においては飛び抜けた精度を有し,甲状腺超音波診断の世界では,異常の全くない甲状腺に遭遇することのほうがむしろ稀といってもよいほどである.もちろん,甲状腺異常所見の検出率は,高ければ高いに越したことはないのではあるが,このことが,かえって治療の必要性を考えるうえで,しばしば,臨床の現場に混乱を招く事態を生じせしめている.敷衍しよう.濾胞状腺癌に代表されるがごとく,甲状腺疾患のうちには病理的にも良悪性の鑑別が極めて困難な疾患があり,また一方では,格別治療の必要性を有しない疾患も数多く認められる.したがって,超音波検査において極めて高頻度に認められる甲状腺異常所見のすべてに関して,良悪性の鑑別や治療の必要性について検討を加える必要が生じるとなると,結果的に臨床現場における煩雑性と混乱とは大変なものとなる.超音波検査による甲状腺検診に関して,多くの専門家が二の足を踏む所以である.

 甲状腺超音波診断における評価の乖離を生むもう一つの原因は,超音波診断が主として形態学に基づくものであり,甲状腺機能を評価することに関しては,必ずしも十分な能力を有していないことにある.もっとも,現時点においては,CTやMRIといった超音波と並ぶ代表的な画像診断モダリティと超音波検査とを比較した場合,CTやMRIが超音波検査より優れた甲状腺の機能評価能を有しているわけではないことは周知の事実である.一方,超音波検査ではドプラ検査(Doppler examination)のような血流評価をはじめとするさまざまな機能評価法が開発されてきているため,機能評価における超音波検査の欠点も,現在では少しずつ改善されつつある.

 いずれにせよ,超音波検査は空間分解能的にも他のモダリティを凌駕し,甲状腺機能を評価するうえでもCTやMRIより優れた診断能を有するため,甲状腺診断の現場においては,CTやMRIの占める役割が極めて小さなものになりつつあることは銘記されたい.特にMRIに至っては,原則として石灰化を評価しえないことや,CTに比して空間分解能が低くかつ正常甲状腺が特異的な濃度(信号強度)で描出されないといった理由から,甲状腺診断に寄与するものが極めて少ないことは容易に想像されよう.おそらく現時点では,腫瘍の転移や浸潤を含めた広範囲な検査を対象とする以外,これらのモダリティの有用性は極めて低いものと考えてよいように思われる.まして,甲状腺の良性疾患を対象として限定した場合,転移や広範な腫瘍浸潤を診断する必要性もないため,これらのモダリティが臨床に寄与する役割はほとんど皆無となり,少なくとも前述の三つのモダリティのうちでは,甲状腺画像診断は超音波診断の独擅場といっても過言ではなかろう.故に,こうした背景を踏まえると,甲状腺良性疾患において,他のモダリティと超音波検査との所見の違いを比較検討すること自体にはあまり意味はないともいえる.したがって本来ならば,画像診断における他のモダリティとの比較も交えながら甲状腺良性疾患の超音波診断の現状について解説を試みるべきなのであろうが,本稿においては,他のモダリティが極めて有用である場合を除き,あえて超音波に特化して,良性甲状腺疾患の画像診断におけるその有用性と展望について解説する.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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