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文献詳細

雑誌文献

検査と技術34巻11号

2006年10月発行

文献概要

増刊号 新しい臨床検査・未来の臨床検査 各論 4.腫瘍マーカー

3 テロメラーゼ活性

著者: 神森眞1 田久保海誉2 上西紀夫3

所属機関: 1東京大学消化管外科・代謝栄養・内分泌外科 2東京都老人総合研究所老年病のゲノム解析研究チーム 3東京大学消化管外科.代謝栄養・内分泌外科

ページ範囲:P.1237 - P.1239

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 はじめに

 染色体の末端に存在するテロメアは細胞分裂,活性酸素被曝やexonucleaseにより短縮する.末端複製の問題により,培養細胞では細胞分裂ごとに約50~200bpずつ短縮する.テロメアの伸長はテロメラーゼおよびテロメラーゼに依存しないメカニズムにより行われる.多くの癌(細胞)組織ではテロメア伸長酵素であるテロメラーゼを発現しているが,対応する正常組織よりもテロメア長は短縮していることが普通である.テロメラーゼは一種の逆転写酵素であり,テロメラーゼ構造の鋳型となるRNA成分(human telomerase RNA component,hTERC)と,触媒サブユニットであるhTERTからなる.hTERCは普遍的に発現しているが,hTERTはテロメラーゼ活性と並行して発現していることが多い.

 現在までに,ほぼ全身臓器組織に発生した肉腫を含む悪性腫瘍のテロメラーゼ活性が報告されているが,概略として悪性腫瘍の80%以上が陽性である.このことは,テロメラーゼの発現が癌化過程におけるきわめて重要なステップであることを示している.しかし,正常消化管上皮の幹細胞でも,7日以内の組織交代時間を考慮すると,テロメラーゼが陽性であることが想像できる.食道上皮(特に基底層の細胞での発現が確かめられている)は実際にテロメラーゼを発現している.加齢などによりテロメアの短縮した細胞は,テロメアのキャップ機能の喪失(テロメア長がM1-M2に至って短縮すると喪失するといわれている),染色体の不安定性の増加,染色体の癒合にいたる.これは発癌過程の初期で生じると考えられる.この段階では癌抑制遺伝子として知られているp53は機能することなく細胞分裂は可能であり,最終的には細胞の形質の変化や癌のイニシエーションを引き起こす.さらに細胞分裂を可能にするためには安定したテロメア長の維持が必要であり,テロメラーゼが発現すれば,癌に進展し発育する.しかし,発現のないときには,細胞はテロメアが機能せず細胞回転の停止か,形質変換した細胞はアポトーシスに至る.これらのテロメアの機能不全による効果は,p53に部分的に依存しているが,機能不全が高度になると,p53とは独立した経路によるアポトーシスにより腫瘍の成長を抑制すると考えられている.Rb遺伝子(癌抑制遺伝子の1つで,Retinoblastoma感受性遺伝子の意味である)やmutant p53を培養系線維芽細胞に導入すると,一部の細胞はテロメラーゼを獲得しM2クライシス(細胞がテロメラーゼを獲得して生き続けられるテロメア長の限界点)を越えて不死化することが知られている.つまり,テロメラーゼは,テロメアの蓄えが使い果たされたときに生じる2つの応答,すなわち,複製に伴う細胞の老化と増殖の危機をテロメアの長さを維持することにより予防する.これらのことからも,テロメア短縮とテロメラーゼの獲得は,老化と癌化に密接な関連をもつといえる.よって,癌の補助診断法としてテロメラーゼもしくはhTERT発現の測定は有用であるといえる.

参考文献

1) 神森眞,田久保海誉:テロメア研究最近の進歩,老年医学 41:365-368,2004
2) 田久保海誉,本間尚子,仲村賢一,他:テロメア,テロメラーゼと発癌;細胞 37:17-21,2005
3) 神森眞,仲村賢一,田久保海誉:話題:テロメア変化から老化を探る;ファルマシア―薬の科学 41:949-54,2005
4) 清宮啓之:テロメアを対象とした癌分子標的治療;上原記念生命科学財団研究報告集 17:323-325,2003

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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