文献詳細
文献概要
増刊号 新しい臨床検査・未来の臨床検査 各論 7.病理検査
1 HER2(免疫組織化学とFISH)
著者: 梅村しのぶ1
所属機関: 1東海大学医学部基盤診療学系病理診断学
ページ範囲:P.1332 - P.1335
文献購入ページに移動 はじめに
HER2/neu遺伝子が発見されたのは1981年である.HER2蛋白質は細胞膜貫通型の増殖因子受容体であり,細胞外からの細胞増殖刺激はMAPK, Akt kinaseシグナル系を介して伝達される.HER2遺伝子増幅の臨床的意義は大きく,予後因子としての意義と治療感受性・適応決定因子としての意義が挙げられる.HER2遺伝子増幅のある乳癌患者の予後は特にリンパ節転移陽性症例で不良である.近年,転移再発乳癌のみならず原発性乳癌についても抗HER2抗体療法の有効性が報告され,HER2検査の重要性がますます高まっている.現在進行中の原発性乳癌に対する抗HER2抗体療法(Trastuzumab)の治療効果に関する臨床試験としては,NSABP-B31,NCCTG(N9831),BCIRG006,HERA studyがあるが,昨年のASCOにおいてNSABP-B31-NCCTG(N9831)合同中間解析およびHERA trialの中間報告として,原発性乳癌術後補助療法におけるTrastuzumab併用の優位性が報告された.また,第9回St.Gallenコンセンサス会議において,HER2遺伝子増幅の有無がリスクカテゴリーに取り上げられたことから,今後原発性乳癌についてもHER2検索が求められることとなろう.
HER2検査に関して,2005年いくつかの注目すべき論文が報告された.一つは,2000年ASCOでMass Rらが報告したIHC法とFISH法とによる検討結果を論文にしたものである.このDybdal,Massらの報告は,623例のホルマリン固定パラフィン包埋切片を用いた検討で,Clinical Trial Assay(CTA;clone 4D5+CB11)として知られている抗体を用いた検討である.FISH法によるHER2遺伝子過剰発現の頻度は3%(IHC;0),7%(IHC;1+),24%(IHC;2+),89%(IHC;3+)と報告しており,この頻度はHER2検査(IHC,FISH)の一つのスタンダードとして知られている.IHC法,FISH法それぞれに利点があるが,FISH法をgold standardとしたときのIHC法の感度,特異度のばらつきについては,多くの報告がある.ばらつきの原因は,一つはIHC法2+の割合であり,もう一つはIHC法2+症例のFISH法陽性率の違いである.IHC2+症例の割合は12.7~39.5%,2+症例におけるFISH陽性率についても,17.9~48.1%と幅がある.これは抗体の特異性の特徴,方法論の的確性,判定の精度,各施設における患者層の違いなど複合的な要因によると考えられる.
もう一つの精度管理上の重要な流れとしては,臨床試験登録に際して,各施設検査室(local laboratory)における結果と登録管理施設(central laboratory)における結果との整合性に関する報告である.NSABP-B31において,検査室で扱っている症例数が多い登録施設(local)ほど,登録管理施設(central)の結果との一致率が高かったと報告している.また,BCIRGの経験からは,登録管理施設(central)において,モノクローナル抗体clone10H8を用いたIHC法による結果のカテゴリー別のFISH法による陽性率は,5.4%(IHC;0),14.5%(IHC;1+),80.6%(IHC;2+),98.9%(IHC;3+)と報告している.各登録施設(local)の結果のなかでFISH法が登録管理施設(central)との一致率が最も高かった.
以上のように,HER2検査の臨床的意義はますます重要となってきている.
HER2/neu遺伝子が発見されたのは1981年である.HER2蛋白質は細胞膜貫通型の増殖因子受容体であり,細胞外からの細胞増殖刺激はMAPK, Akt kinaseシグナル系を介して伝達される.HER2遺伝子増幅の臨床的意義は大きく,予後因子としての意義と治療感受性・適応決定因子としての意義が挙げられる.HER2遺伝子増幅のある乳癌患者の予後は特にリンパ節転移陽性症例で不良である.近年,転移再発乳癌のみならず原発性乳癌についても抗HER2抗体療法の有効性が報告され,HER2検査の重要性がますます高まっている.現在進行中の原発性乳癌に対する抗HER2抗体療法(Trastuzumab)の治療効果に関する臨床試験としては,NSABP-B31,NCCTG(N9831),BCIRG006,HERA studyがあるが,昨年のASCOにおいてNSABP-B31-NCCTG(N9831)合同中間解析およびHERA trialの中間報告として,原発性乳癌術後補助療法におけるTrastuzumab併用の優位性が報告された.また,第9回St.Gallenコンセンサス会議において,HER2遺伝子増幅の有無がリスクカテゴリーに取り上げられたことから,今後原発性乳癌についてもHER2検索が求められることとなろう.
HER2検査に関して,2005年いくつかの注目すべき論文が報告された.一つは,2000年ASCOでMass Rらが報告したIHC法とFISH法とによる検討結果を論文にしたものである.このDybdal,Massらの報告は,623例のホルマリン固定パラフィン包埋切片を用いた検討で,Clinical Trial Assay(CTA;clone 4D5+CB11)として知られている抗体を用いた検討である.FISH法によるHER2遺伝子過剰発現の頻度は3%(IHC;0),7%(IHC;1+),24%(IHC;2+),89%(IHC;3+)と報告しており,この頻度はHER2検査(IHC,FISH)の一つのスタンダードとして知られている.IHC法,FISH法それぞれに利点があるが,FISH法をgold standardとしたときのIHC法の感度,特異度のばらつきについては,多くの報告がある.ばらつきの原因は,一つはIHC法2+の割合であり,もう一つはIHC法2+症例のFISH法陽性率の違いである.IHC2+症例の割合は12.7~39.5%,2+症例におけるFISH陽性率についても,17.9~48.1%と幅がある.これは抗体の特異性の特徴,方法論の的確性,判定の精度,各施設における患者層の違いなど複合的な要因によると考えられる.
もう一つの精度管理上の重要な流れとしては,臨床試験登録に際して,各施設検査室(local laboratory)における結果と登録管理施設(central laboratory)における結果との整合性に関する報告である.NSABP-B31において,検査室で扱っている症例数が多い登録施設(local)ほど,登録管理施設(central)の結果との一致率が高かったと報告している.また,BCIRGの経験からは,登録管理施設(central)において,モノクローナル抗体clone10H8を用いたIHC法による結果のカテゴリー別のFISH法による陽性率は,5.4%(IHC;0),14.5%(IHC;1+),80.6%(IHC;2+),98.9%(IHC;3+)と報告している.各登録施設(local)の結果のなかでFISH法が登録管理施設(central)との一致率が最も高かった.
以上のように,HER2検査の臨床的意義はますます重要となってきている.
参考文献
1) Hicks DG, Tubbs RR:Assessment of the HER2 status in breast cancer by fluorescence in situ hybridization:a technical review with interpretive guidelines. Human Pathol 36:250-261,2005
2) Bilouw M, Dowsett M, Hanna W, et al:Current perspectives on HER2 testing:a review of national testing guidelines. Mod Pathol 16:173-182,2003
3) Umemura S, Sakamoto G, Sasano H, et al:Evaluation of HER2 status:for the treatment of metastatic breast cancers by humanized anti-HER2 monoclonal antibody (trastuzumab) (Pathological committee for optimal use of trastuzumab). Breast Cancer 8:316-320,2001
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