icon fsr

文献詳細

雑誌文献

検査と技術34巻7号

2006年07月発行

文献概要

トピックス

遺伝性ミトコンドリア病の発症抑制

著者: 佐藤晃嗣1 林純一1

所属機関: 1筑波大学大学院生命環境科学研究科

ページ範囲:P.707 - P.709

文献購入ページに移動
 ミトコンドリア病とは

 ミトコンドリアは真核生物の細胞内に存在する細胞内小器官であり,細胞内で必要なエネルギーの約90%を酸化的リン酸化によって生成している.ミトコンドリアの内部には,独自のゲノムであるミトコンドリアDNA(mtDNA)が細胞当たり数千~数万コピー存在しており,呼吸鎖酵素複合体のサブユニットmRNAとその翻訳に必要なtRNA,rRNAをコードしている.ミトコンドリアに存在する蛋白質は数千種類に及ぶといわれているが,酸化的リン酸化の中心を担う電子伝達系の蛋白質サブユニットは,核DNAとmtDNAとの両方にコードされており,そのどちらに異常が生じてもエネルギー産生の低下を招くことになる.ミトコンドリアの機能異常に起因する疾患を総称して「ミトコンドリア病」と呼んでいる.このミトコンドリア病は核DNAとmtDNAの両方が原因となりうるが,臨床ではmtDNAの突然変異が原因となっているケースが多い.その理由としては,ミトコンドリアはエネルギー産生に伴い活性酸素種を大量に生じる酸化的ストレスに富む環境であり,内部に存在するmtDNAはその影響から突然変異を生じやすいということが挙げられる.実際,mtDNAの突然変異率は核DNAの十数倍と非常に高いことが知られている.

 ミトコンドリア病のいわゆる三大病型として知られているのがCPEO(chronic external ophthalmoplegia),MELAS(mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis and stroke-like episodes),MERRF(myoclonus epilepsy associated with ragged-red fibers)である.CPEOには欠失突然変異型mtDNAが,MELAS,MERRFにはtRNA点突然変異型mtDNAが見つかっている.また3大病型以外にもレーバー病(Leber disease),リー脳症(Leigh encephalopathy),ピアソン病(Pearson disease)などもmtDNAの突然変異によって引き起こされる疾患として認識されている.ミトコンドリア病で症状が現れやすい組織はエネルギー需要が大きい筋組織や中枢神経であり,筋力,運動能力の低下,低身長,痙攣,頭痛,難聴,痴呆などが主な症状として知られている.また,酸化的リン酸化によるエネルギー産生の低下を補うために解糖系が亢進し,乳酸が高濃度になることで著明なアシドーシスをきたすことが多い1).

参考文献

1) Wallace DC:Mitochondrial diseases in man and mouse. Science 283:1482-1488,1999
2) Kaneda H, Hayashi J-I, Takahama S, et al:Elimination of paternal mitochondrial DNA in intraspecific crosses during early mouse embryogenesis. Proc Natl Acad Sci 92:4542-4546,1995
3) Shitara H, Kaneda H, Sato A, et al:Selective and continuous elimination of mitochondria microinjected into mouse eggs from spermatids, but not from liver cells, occurs throughout embryogenesis. Genetics 156:1277-1284,2000
4) Inoue K, Nakada K, Ogura A, et al:Generation of mice with mitochondrial dysfunction by introducing mouse mtDNA carrying a deletion into zygotes. Nature Genet 26:176-181,2000
5) Nakada K, Inoue K, Ono T, et al :Inter-mitochondrial complementation:Mitochondria-specific system preventing mice from expression of disease phenotypes by mutant mtDNA. Nature Med 7:924-939,2001
6) Sato A, Kono T, Nakada K, et al:Gene therapy for progeny of mito-mice carrying pathogenic mtDNA by nuclear transplantation. Proc Natl Acad Sci 102:16765-16770,2005
7) Sato A, Nakada K, Akimoto M, et al:Rare creation of recombinant mtDNA haplotypes in mammalian tissues. Proc Natl Acad Sci 102:6057-6062,2005
8) Erika Check:UK embryo licence draws global attention. Nature 437:305,2005

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら