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文献詳細

雑誌文献

検査と技術34巻8号

2006年08月発行

文献概要

トピックス

可溶性フィブリン

著者: 和田英夫1 櫻井錠治2

所属機関: 1三重大学大学院医学系研究科臨床検査医学 2(株)三菱化学ヤトロンSTACIA事業部

ページ範囲:P.800 - P.802

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 可溶性フィブリンとは

 可溶性フィブリン(soluble fibrin,SF)は,フィブリンモノマー(fibrin monomer,FM)がフィブリノゲンと複合体を形成したもので,血栓傾向を示す分子マーカーであるとともに血栓症のリスクファクターであると考えられている1,2)

 凝固系が活性化されるとトロンビンが生成され,フィブリノゲンはこのトロンビンによって限定分解を受ける.トロンビンはフィブリノゲンのAα鎖からフィブリノペプチドA(fibrinopeptide A,FPA)を切り落とし,グリシル・プロリル・アルギニル(Gly・Pro・Arg,GPR)で始まる新たなN末端を露呈させる.フィブリノゲンはFMとなり,新たに露呈したN末端GPRは別のフィブリノゲン分子のDドメインと結合能を持つようになる.Dドメイン上にはGPRと相補的に結合する部位が存在し,その主要な部分はγ鎖Gln329(N末端から数えて329番目のGln,以下同様),γ鎖Asp330,γ鎖Asp364であることが知られている3).Dドメイン上のGPRと相補的に結合する部位はつねにフィブリノゲン上にあるが,GPRはトロンビンの作用を受けて初めてEドメイン上に現われる.このE-Dドメインの結合は生理的pHにおいては極めて強力で,Dドメインを含むフィブリノゲンやFMと速やかに結合すると考えられている1,2).このため,FMはほとんど可溶性の単分子として血中から検出されることはない.結合能力の強いFMは重合し,さらに活性型血液凝固第XIII因子(XIIIa)によってFM分子相互間で架橋を受け,強固な不溶性線維(安定化フィブリン)となって止血に寄与する(図1).この反応の過程で一部のFMはフィブリノゲンと複合体を形成し,そのまま可溶性の分子として血中を還流する.この複合体がSFと呼ばれるものである.

 血中にSFが存在するということはトロンビンが生成し,フィブリノゲンに働きかけた証拠である.さらに,SFはその分子内のフィブリノゲン部分がトロンビンの作用を受けると,安定化フィブリンの構成要素となるため,SFは活性化された血栓性基材である1,4).血中SFの増加は,血栓傾向を示す分子マーカーであると同時に,血栓のリスクファクターであると考えられる.

参考文献

1) 松田道生.フィブリノゲンの誘導体,特に可溶性フィブリン(soluble fibrin)とDダイマー(D dimer)について:その生成と存在様式についての考察.その1.可溶性フィブリン.血栓止血誌 8:24-32,1997
2) 櫻井錠治,中原邦彦:可溶性フィブリン測定の実際とテクニカルな問題点,日本検査血液学会雑誌 5:97-107,2004
3) Spraggon G, Everse SJ, Doolittle RF:Crystal structure of fragment D from human fibrinogen and its crosslinked counterpart from fibrin. Nature 389:455-462,1997
4) Brass EP, Forman WB, Edwards RV, et al:Fibrin formation:The role of the fibrinogen-fibrin complexes. Thromb Haemost 36:36-48,1976
5) 浜野明栄,田中誠司:フィブリンモノマー(FM)測定の実際とテクニカルな問題点―血中FM測定試薬オートLIA FMについて.日本検査血液学会雑誌 5:91-96,2004
6) 佐藤剛敏,盛合亮介,浅沼康一,他:可溶性フィブリンモノマー複合体(SFMC)測定試薬間における乖離とその機序.日本検査血液学会雑誌 5:40-45,2004
7) Wada H, Sase T, Matsumoto T, et al:Increased soluble fibrin in plasma from disseminated intravascular coagulation. Clin Appl Thromb Haemost 9:233-240,2003
8) Wada H, Kobayashi T, Sakaguchi A, et al:Elevated levels of soluble fibrin or D-dimer indicate high risk of thrombosis. J Thromb Haemost, 2006 (in press)
9) Ota S, Wada H, Nobori T, et al:Diagnosis of deep vein thrombosis by plasma-soluble fibrin or D-dimer. Am J Hematol 79:274-280,2005

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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