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けんさ質問箱Q&A
蟯虫のライフサイクルにおける雌雄分離の時期は?
著者: 長谷川英男1
所属機関: 1大分大学医学部感染分子病態制御講座(生物学)
ページ範囲:P.884 - P.886
文献購入ページに移動蟯虫は経口感染によってヒト体内に入り,成虫になります.そのとき雌雄に分かれているわけですが雌雄を決める条件は何で,分かれる時期は何時ですか,さらに,虫卵の時点で見分けがつくのでしょうか,併せて教えてください.(長崎市 M.S.生)
蟯虫類の性決定
人の蟯虫Enterobius vermicularis(混乱を避けるため以下ではヒト蟯虫と記します)は蛔虫,鉤虫,鞭虫などとともに線形動物門(Nematoda)に属します.多くの線虫類では雌XX,雄XY型,あるいは雌XX,雄XO型の性決定が行われていますが,単為生殖するもの(例:糞線虫の寄生世代)や,雌雄同体現象(例:モデル動物として有名なCaenorhabditis elegans)なども知られています1,2).蟯虫類は他の線虫と異なり,雄性産生単為生殖(arrhenotoky)(=半数性単為生殖,haplodiploidy)と呼ばれる特異な生殖を行います.この生殖では受精卵は2nで雌となり,不受精卵はnで雄になります.すなわち卵が受精すれば雌に,受精しなければ雄になるわけです.この現象は初めカエルのオタマジャクシに寄生する蟯虫類であるGyrinicola batrachiensisで見いだされ,爬虫類に寄生する蟯虫類や哺乳類に寄生する蟯虫類(ウサギ蟯虫Passalurus ambiguus,ネズミ盲腸蟯虫Syphacia obvelata,ネズミ大腸蟯虫Aspiculuris tetrapteraなど)でも確かめられました3~5).したがってヒト蟯虫も同様の性決定様式をとると考えられていますが,筆者の知る限り,ヒト蟯虫そのものについては研究がないようです.なお,このような性決定は蟯虫類以外ではハチやアリなど膜翅目の昆虫や多くのダニ類などでも行われています.
蟯虫類の性決定
人の蟯虫Enterobius vermicularis(混乱を避けるため以下ではヒト蟯虫と記します)は蛔虫,鉤虫,鞭虫などとともに線形動物門(Nematoda)に属します.多くの線虫類では雌XX,雄XY型,あるいは雌XX,雄XO型の性決定が行われていますが,単為生殖するもの(例:糞線虫の寄生世代)や,雌雄同体現象(例:モデル動物として有名なCaenorhabditis elegans)なども知られています1,2).蟯虫類は他の線虫と異なり,雄性産生単為生殖(arrhenotoky)(=半数性単為生殖,haplodiploidy)と呼ばれる特異な生殖を行います.この生殖では受精卵は2nで雌となり,不受精卵はnで雄になります.すなわち卵が受精すれば雌に,受精しなければ雄になるわけです.この現象は初めカエルのオタマジャクシに寄生する蟯虫類であるGyrinicola batrachiensisで見いだされ,爬虫類に寄生する蟯虫類や哺乳類に寄生する蟯虫類(ウサギ蟯虫Passalurus ambiguus,ネズミ盲腸蟯虫Syphacia obvelata,ネズミ大腸蟯虫Aspiculuris tetrapteraなど)でも確かめられました3~5).したがってヒト蟯虫も同様の性決定様式をとると考えられていますが,筆者の知る限り,ヒト蟯虫そのものについては研究がないようです.なお,このような性決定は蟯虫類以外ではハチやアリなど膜翅目の昆虫や多くのダニ類などでも行われています.
参考文献
1) Triantaphyllou AC:Cytogenetic Aspects of Nematode Evolution. Stone AR, Platt HM, Khalil LF (ed):Concepts in Nematode Systematics. Academic Press, London, pp55-71,1983
2) Bird AF, Bird J:The Structure of Nematodes. 2nd ed. Academic Press, San Diego, p316,1991
3) Adamson ML:Haplodiploidy in Aspiculuris tetraptera (Nitzch) (Heteroxynematidae) and Syphacia obvelata (Rudolphi) (Oxyuridae), nematode (Oxyurida) parasites of Mus musculus. Canad J Zool 62:804-807,1983
4) Adamson ML:Evolutionary biology of the Oxyurida (Nematoda):biofacies of a haplodiplont taxon. Adv Parasitol 28:175-228,1989
5) Anderson RC:Nematode Parasites of Vertebrates. Their Development and Transmission. CABI Publ, London 2000
6) Murata K, Hasegawa H, Nakano T, et al:Fatal infection with human pinworm, Enterobius vermicularis, in a captive chimpanzee. J Med Primatol 31:104-108,2002
7) 長谷川英男,中野忠男:致死的人畜共通感染症を起因する蟯虫.獣医寄生虫誌 3:37-45,2004
8) Nakano T, Murata K, Ikeda Y, et al:Growth of Enterobius vermicularis in a chimpanzee after anthelmintic treatment. J Parasitol 89:439-443,2003
9) Hasegawa H, Takao Y, Nakao M, et al:Is Enterobius gregorii Hugot, 1983 (Nematoda:Oxyuridae) a distinct species? J Parasitol 84:131-134,1998
10) Nakano T, Fukui D, Ikeda Y, et al:Effects of repeated anthelmitic treatment on Enterobius vermicularis infection in chimpanzees. J Parasitol 91:679-682,2005
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