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文献詳細

雑誌文献

検査と技術38巻10号

2010年09月発行

文献概要

増刊号 免疫反応と臨床検査2010 VI 血液 B 血栓・止血関連マーカー

6 血管内皮細胞マーカー

著者: 川合陽子1

所属機関: 1国際医療福祉大学 臨床医学研究センター

ページ範囲:P.969 - P.971

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血管内皮細胞マーカーとは

 内皮細胞マーカーとは,生体内を網羅する大小の血管の内張を覆う一層の内皮細胞が,なんらかの原因で障害または傷害(perturbation or injury)を受けると,通常存在する量よりも高値となるような物質を測定することで内皮細胞障害の有無や程度を判定し,診断や治療に役立てようとするマーカーの総称である.血管内皮細胞の研究はそのアプローチが難しく,障害の同定や結果の解釈には,いまだ一定の見解がなく,今後発展が期待されるマーカーと思われる.

 血管内皮細胞は血管壁内腔表面を単層状に覆う細胞であり,血管内恒常性維持に中心的な役割を遺伝子レベルで果たしている.健常時に流血中に存在する血小板が凝集しないのは,血管内皮細胞表面のヘパリン様物質が陰性荷電を有していることや,血小板表面も陰性荷電を有していることが重要であるが,内皮細胞で合成される血管弛緩作用を有するプロスタサイクリン(PGI2)や一酸化窒素(nitric oxide,NO)による抗血小板作用の役割も大きい.凝固因子の制御はヘパラン硫酸の末端のアンチトロンビンや,トロンボモジュリン(thrombomodulin,TM)の発現により活性化プロテインCが抗凝固活性を保持し,適度な線溶系も作動している.白血球は血管内皮細胞上をローリングしており,炎症時に白血球や内皮細胞が活性化されると,接着・遊走が起こる.血管内皮細胞の抗血栓性の維持には血流による制御機構も大切であり,心筋梗塞症など血管分岐部の下流に血栓が多発するのは,血流が急に遅くなることで血管内皮細胞の恒常性が破綻されるからである.さらに,炎症性サイトカインや凝固物質をはじめとする蛋白分解酵素や種々の刺激物質で刺激を受けると,恒常性が破綻し,本来の抗血栓性が失われ,血栓形成へと傾く.代表的な疾患としては,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation,DIC),血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy,TMA),糖尿病における血管障害,動脈硬化症などが挙げられる.血栓症を診断する分子マーカーは多いが,そのなかで内皮細胞障害を同定するマーカーは少ない.血管内皮細胞障害を反映する血漿中の分子マーカーとしては,フォン・ウィルブランド因子(von Willebrand factor,vWF)とTMが注目されている.その他に線溶系分子マーカーである組織プラスミノゲンアクチベータ(tissue-plasminogen activator,t-PA)とそのインヒビターであるプラスミノゲンアクチベーターインヒビター1(plasminogen activator inhibitor-1,PAI-1),および両者の複合体(tPA-PAI complex,t-PAIC)も内皮細胞障害にて高値となる(図).これらは,出血・凝固検査として包括項目として保険収載されているが,血管内皮細胞障害マーカーではなく,TMやt-PAICはDICの検査として,vWFは出血性疾患の検査として認められている.

参考文献

1) 川合陽子:血流と内皮細胞の抗血栓性について.血栓と循環7:305-307,1999

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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