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5学会合同産科危機的出血への対応ガイドラインとは
著者: 久保隆彦1 三輪照未1 杉林里佳1 青木宏明1 池谷美樹1
所属機関: 1国立成育医療研究センター周産期診療部産科
ページ範囲:P.1111 - P.1115
文献購入ページに移動福島県立大野病院で起こった産科大量出血による妊産婦死亡が刑事裁判となり国民の注目を集めた.幸い加藤先生の無罪が確定したが,いかなる分娩でも一定の確率で緊急大量出血をきたすことは産科医にとっては常識であるにもかかわらず,一般国民は全く理解していないことが公判を通じて明らかとなった.“お産の安全神話”などという実態のない虚構を信じている国民と,その対応に日夜奮闘している産科臨床の現場の医師,輸血関係者との間には大きな認識のズレがある.
周産期管理の進歩によりわが国の母体死亡率は著明に低下したものの,出血は依然,母体死亡の主要な原因である.生命を脅かすような分娩時あるいは分娩後の出血は妊産婦の300人に約1人に起こる合併症で,リスク因子には帝王切開分娩(帝切),多胎分娩,前置・低置胎盤などが挙げられる.しかし,予期せぬ大量出血もあり,また比較的少量の出血でも産科播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation,DIC)を併発しやすいという特徴がある.
日本麻酔科学会と日本輸血・細胞治療学会は共同して「危機的出血への対応ガイドライン」を公表した.これは手術室における心停止の原因の約1/3が出血であり,予見できない危機的出血は常に発生し,その対応が遅れると患者の死に直結するからである.産科における大出血もまさに予見できない危機的出血の一つといえる.しかし,産科に特化したガイドラインはない.そこで,より安全な周産期管理の実現を目的に,関連5学会として「産科危機的出血対応ガイドライン」を作成したので紹介したい.
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