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検査と技術38巻13号

2010年12月発行

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質量分析計を用いたプロテオミクスによる細菌迅速同定法

著者: 曽川一幸1 渡邊正治2 野村文夫123

所属機関: 1千葉大学医学部附属病院疾患プロテオミクス研究センター 2千葉大学医学部附属病院検査部 3千葉大学大学院医学研究院分子病態解析学

ページ範囲:P.1261 - P.1263

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はじめに

 組織や体液に存在しているすべての蛋白質を網羅的に解析するプロテオミクス研究は,その解析技術の進歩と相俟って,近年急速に展開している1).質量分析法はプロテオーム解析における最も重要な手法であるが,質量分析計を用いた細菌同定は,1975年にAnhaltら2)によって,ペプチドスペクトルをベースとしたパターンマッチングによる同定が行われた.Staphylococcus epidermidis,S. aureus,Pseudomonas aeruginosa,Neisseria gonorrhoeae,Salmonella sp.,Proteus morganii,P. rettgeriの7菌種の同定が報告されている.

 近年,高い迅速性と正確性を有し,しかも低コストの細菌同定手法として,質量分析計が注目されている.2010年から11か国の欧州諸国における,100か所以上の病院・検査センターの細菌検査室で細菌同定のツールとして運用されている.

 従来細菌の同定には,主に形態学的手法(グラム染色,コロニーの形状やその大きさ)や生化学的手法が用いられている.しかしながら,いずれの手法も煩雑な作業を要し高い専門性が要求される.高い識別能力がある16S rRNAを指標とする手法は,多くの検体を一度に解析することは難しく,日常的に用いることは困難でありコストがかかる.それに対し質量分析計による細菌同定はサンプル調整が容易で,測定操作も簡便であり,一菌種約6分間で同定結果が得られる3,4)

 この特徴を活かして,煩雑な試料前処理を行わず,属や種を容易に識別することのできる手法として注目されている4~8).本稿では本同定方法の原理と当院における臨床応用の一例を中心にして概説する.

参考文献

1) 野村文夫:ポストゲノム時代の臨床検査.日本臨牀 67(増刊):6-10,2009
2) Anhalt JP, Fenselau C:Identification of bacteria using mass spectrometry. Anal Chem 47:219-225,1975
3) Freiwald A, Sauer S:Phylogenetic classification and identification of bacteria by mass spectrometry. Nature Prot 4:732-742,2009
4) Seng P, Drancourt M, Gouriet E, et al:Ongoing revolution in bacteriology:routine identification of bacteria by matrix-assisted laser desorption ionization time-of-flight mass spectrometry. Clin Infect Dis 49:543-551,2009
5) van Veen SQ, Claas EC, Kuijper EJ:High-throughput identification of bacteria and yeast by matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry in conventional medical microbiology laboratories. J Clin Microbiol 48:900-907,2010
6) Bizzini A, Durussel C, Bille J, et al:Performance of matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry for identification of bacterial strains routinely isolated in a clinical microbiology laboratory. J Clin Microbiol 48:1549-1554,2010
7) Bel AD, Wybo I, Pierard D, et al:Correct implementation of matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry in routine clinical microbiology. J Clin Microbiol 48:1991-1992,2010
8) Sauer S, Kliem M:Mass spectrometry tools for the classification and identification of bacteria. Nat Rev Microbiol 8:74-82,2010
9) 島圭介:MALDI-TOF MSによる微生物同定.島津評論 66:133-139,2010

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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