文献詳細
文献概要
トピックス
肝線維化とリゾリン脂質
著者: 池田均1
所属機関: 1東京大学大学院医学系研究科 臨床病態検査医学
ページ範囲:P.1263 - P.1266
文献購入ページに移動はじめに
肝臓を障害する原因には,ウイルス,アルコール,薬剤,自己免疫機序や最近注目されている肥満を伴う脂肪沈着など多くのものが知られているが,原因いかんにかかわらず障害が慢性的に継続することによって最終的に肝硬変症となり,肝臓の機能を全うできずに食道・胃静脈瘤,胸腹水,脳症など重篤な合併症を併発し,肝細胞癌の発生が増加することが臨床の場で大きな問題となっている.そして,この肝硬変症の主要な病態が肝線維化である.肝障害に対する創傷治癒機転として,肝星細胞が増殖して活発に線維成分を産生するが,肝線維化はこれが過剰となることによりもたらされると理解されている.したがって,肝線維化の病態を解明すること,臨床検査学的には肝線維化を正確に簡便に診断することは非常に重要となっている.
一方,最近の脂質生物学における進歩の一つとして,リゾリン脂質であるリゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid,LPA)とスフィンゴシン1-リン酸(sphingosine 1-phosphate,S1P)の多彩な生理活性の解明が挙げられる.“多彩”な生理活性とは,細胞の増殖,アポトーシス,収縮,運動などに及ぼすものであり,LPA,S1Pともに,血漿中の濃度を測定すると,その結果はin vitroの細胞系で作用を及ぼす濃度に非常に近いことが判明している.多彩な作用を有し,かつ血漿中でも作用を及ぼす可能性が高いほど豊富に存在することを考えると,実際にin vivoにおいてなんらかの役割を果たしていることが強く推定されるLPA,S1Pについて,筆者らは特に肝線維化における役割について検討してきた.本稿では,LPA,S1Pと肝線維化の関連についての現在までの知見を紹介する.
肝臓を障害する原因には,ウイルス,アルコール,薬剤,自己免疫機序や最近注目されている肥満を伴う脂肪沈着など多くのものが知られているが,原因いかんにかかわらず障害が慢性的に継続することによって最終的に肝硬変症となり,肝臓の機能を全うできずに食道・胃静脈瘤,胸腹水,脳症など重篤な合併症を併発し,肝細胞癌の発生が増加することが臨床の場で大きな問題となっている.そして,この肝硬変症の主要な病態が肝線維化である.肝障害に対する創傷治癒機転として,肝星細胞が増殖して活発に線維成分を産生するが,肝線維化はこれが過剰となることによりもたらされると理解されている.したがって,肝線維化の病態を解明すること,臨床検査学的には肝線維化を正確に簡便に診断することは非常に重要となっている.
一方,最近の脂質生物学における進歩の一つとして,リゾリン脂質であるリゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid,LPA)とスフィンゴシン1-リン酸(sphingosine 1-phosphate,S1P)の多彩な生理活性の解明が挙げられる.“多彩”な生理活性とは,細胞の増殖,アポトーシス,収縮,運動などに及ぼすものであり,LPA,S1Pともに,血漿中の濃度を測定すると,その結果はin vitroの細胞系で作用を及ぼす濃度に非常に近いことが判明している.多彩な作用を有し,かつ血漿中でも作用を及ぼす可能性が高いほど豊富に存在することを考えると,実際にin vivoにおいてなんらかの役割を果たしていることが強く推定されるLPA,S1Pについて,筆者らは特に肝線維化における役割について検討してきた.本稿では,LPA,S1Pと肝線維化の関連についての現在までの知見を紹介する.
参考文献
1) Ikeda H, Yatomi Y, Yanase M, et al:Effects of lysophosphatidic acid on proliferation of stellate cells and hepatocytes in culture. Biochem Biophys Res Commun 248:436-440,1998
2) Watanabe N, Ikeda H, Nakamura K, et al:Both plasma lysophosphatidic acid and serum autotaxin levels are increased in chronic hepatitis C. J Clin Gastroenterol 41:616-623,2007
3) Watanabe N, Ikeda H, Nakamura K, et al:Plasma lysophosphatidic acid level and serum autotaxin activity are increased in liver injury in rats in relation to its severity. Life Sci 81:1009-1015,2007
4) Kremer AE, Martens JJ, Kulik W, et al:Lysophosphatidic acid is a potential mediator of cholestatic pruritus. Gatroenterology:in press.
5) Jansen S, Andries M, Vekemans K, et al:Rapid clearance of the circulating metastatic factor autotaxin by the scavenger receptors of liver sinusoidal endothelial cells. Cancer Lett 284:216-221,2009
6) Ikeda H, Yatomi Y, Yanase M, et al:Biological activities of novel lipid mediator sphingosine 1-phosphate in rat hepatic stellate cells. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 279:G304-310,2000
7) Ikeda H, Nagashima K, Yanase M, et al:Sphingosine 1-phosphate enhances portal pressure in isolated perfused liver via S1P2 with Rho activation. Biochem Biophys Res Commun 320:754-759,2004
8) Serriere-Lanneau V, Teixeira-Clerc F, Li L, et al:The sphingosine 1-phosphate receptor S1P2 triggers hepatic wound healing. FASEB J 21:2005-2013,2007
9) Ikeda H, Watanabe N, Ishii I, et al:Sphingosine 1-phosphate regulates regeneration and fibrosis after liver injury via sphingosine 1-phosphate receptor 2. J Lipid Res 50:556-564,2009
10) Li C, Kong Y, Wang H, et al:Homing of bone marrow mesenchymal stem cells mediated by sphingosine 1-phosphate contributes to liver fibrosis. J Hepatol 50:1174-1183,2009
11) Li C, Jiang X, Yang L, et al:Involvement of sphingosine 1-phosphate (SIP)/S1P3 signaling in cholestasis-induced liver fibrosis. Am J Pathol 175:1464-1472,2009
12) Ikeda H, Ohkawa R, Watanabe N, et al:Plasma concentration of bioactive lipid mediator sphingosine 1-phosphate is reduced in patients with chronic hepatitis C. Clin Chim Acta 41:1765-1770,2010
掲載誌情報