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文献詳細

雑誌文献

検査と技術38巻4号

2010年04月発行

文献概要

Laboratory Practice 〈病理〉

大腸癌とEGFR

著者: 大井章史1

所属機関: 1金沢大学大学院医学系研究科分子細胞病理学

ページ範囲:P.286 - P.290

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はじめに

 上皮増殖因子受容体(epidermal growth factor receptor,EGFR)は細胞膜上に存在する分子量170kDaのチロシンキナーゼ受容体で,①細胞外の受容体部分,②細胞膜貫通部分,③細胞膜近傍部分,④チロシンキナーゼ部分,⑤C末端部分から構成される.同様の構造をもったEGFRファミリーには,human EGFR2(HER2)(別名ERBB2),EGFR3(HER3),EGFR4(HER4)がある(図1).リガンドであるEGFやTGFα(transforming growth factor α)が受容体に選択的に結合すると,EGFRどうし(homo-dimerization),もしくは他のEGFRファミリーメンバーと2量体を形成する(hetero-domerization).この結果,チロシンキナーゼの自己リン酸化が起こり,チロシンキナーゼが活性化され,C末端部分に存在する種々のチロシン残基がリン酸化される.このリン酸化チロシンを認識する分子や,これに結合する蛋白,酵素群が引き寄せられ,さらにリン酸化され,シグナルは次々と下流に伝えられて最終的には核に伝達され,各種の遺伝子の発現を促して,細胞増殖,分化,アポトーシスの回避,細胞周期促進を惹起する.シグナルを核内に伝える経路として,RAS-MAPK経路,PI3K/Akt経路,Jak/STAT経路の三つが重要である.MAPK経路は主に細胞の増殖と生存に関与するとされ,下流にはG蛋白質であるKRAS,セリン・スレオニンキナーゼであるBRAFがある.

 近年,EGFRを標的とする抗体が開発され,大腸癌の治療に用いられつつあるが,その適応に関して議論があり,EGFR過剰発現,EGFR遺伝子変異,遺伝子増幅さらにはKRAS,BRAFなどの下流のシグナル伝達物質の異常などが治療選択の指標として検討されている.

参考文献

1) Ciardiello F, Tortora G:EGFR antagonists in cancer treatment. N Engl J Med 358:1160-1174,2008
2) Spindler KL, Lindebjerg J, Nielsen JN, et al:Epidermal growth factor receptor analyses in colorectal cancer:a comparison of methods. Int J Oncol 29:1159-1165,2006
3) Normanno N, Tejpar S, Morgillo F, et al:Implications for KRAS status and EGFR-targeted therapies in metastatic CRC. Nat Rev Clin Oncol 6:519-527,2009
4) Ooi A, Takehana T, Li X, et al:Protein overexpression and gene amplification of HER-2 and EGFR in colorectal cancers:an immunohistochemical and fluorescent in situ hybridization study. Mod Pathol 17:895-904,2004

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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