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文献詳細

雑誌文献

検査と技術38巻7号

2010年07月発行

文献概要

けんさ質問箱

採取後の髄液に出血が多いとき

著者: 大田喜孝1

所属機関: 1社会医療法人雪の聖母会聖マリア病院中央臨床検査センター

ページ範囲:P.574 - P.577

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Q.採取後の髄液に出血が多いとき

髄液検査に関して,採取後の髄液にはヘパリンなどの抗凝固剤は使用しないという記事を読んだのですが,出血が多い場合フィブリンの中に細胞などが入ってしまいます.どうしたらよいでしょうか?(岐阜市 O.A.生)


A.大田喜孝

はじめに

 脳脊髄液(髄液)はその90%以上が脳室の脈絡叢で産生される.血液循環と脈絡叢組織の分泌機能によって作られた髄液は通常無色透明であり,脳室・脳表面・脊髄のくも膜下腔を循環する.こうして髄液は循環を繰り返すうちに,最終的には脳の頂上部にあるくも膜顆粒より吸収され,再び血液循環に組み込まれることになる.髄液の主な働きとしては,静水力学的なクッション作用による中枢神経の保護や,脳組織への各種ビタミンの運搬,脂質系を主体とする脳の老廃物の排除などが挙げられる.髄液は中枢神経系組織に直に接して存在することから,その病態をよく反映する.特に髄膜炎,脳炎の診断や治療経過の観察には,髄液細胞数の算定と分類は欠くことのできない検査項目とされている.

 ご質問の趣旨は「血液が混入した髄液で,髄液一般検査における細胞数の算定や細胞分類を精度よく行うためにはどうすればよいのか? また,このような場合,臨床医にどう対応するのがよいのか?」と理解する.

 まず,採取された髄液が肉眼で血液色を確認できるような髄液であっても,採取後すぐに検査に取り掛かれば,凝固することはほとんどないということを理解いただきたい.むろん,血液そのものと見紛うほど血液成分が混入した髄液では,比較的早期にフィブリンが析出し凝固を示すが,このような髄液で細胞数の算定を行うことはまず不可能であるし,蛋白量や糖量などの化学成分も本来の髄液のものとはかけ離れた数値となり,髄液検査を行う本質的意義に乏しい.というよりはむしろ,このような髄液で検査を進めることで,誤ったデータが患者に対し不利益を与えることだけは避けなければならない.このような場合は臨床医に対し十分に説明を行い,時期をみて採り直しを依頼すべきである.また,血液色が強度ではない髄液であっても,長時間放置すると凝固を示すことがある.髄膜腔閉鎖症などで蛋白量が著明に増加した髄液も同様である.しかし,いったん採取した髄液中の細胞変性や化学物質の変動は極めて早く,髄液検査のガイドラインには採取後少なくとも1時間以内に検査を開始する必要があることが記されている.さらに,髄液検査の対象となる中枢神経系疾患が迅速な診断と治療を必要とすることを考慮すれば,髄液が長時間放置されることはまずあり得ないことであろう.

 これまで,血性髄液の取り扱いに関しては全国の臨床検査技師諸氏より数多くの質問を受けてきた.今回,質問をいただいた機会を十分に活かす意味から,血性髄液にまつわるいくつかの問題点を洗い出し,その対処法とともに筆者の見解を述べてみたい.

参考文献

1) (社)日本臨床衛生検査技師会髄液検査法編集ワーキンググループ:髄液検査法2002.(社)日本臨床衛生検査技師会,pp15-55,2002
2) 佐藤能啓,大田喜孝:髄液細胞アトラス.朝倉書店,pp23-54,1992
3) 稲垣清剛,稲垣勇夫:穿刺液細胞アトラス.医歯薬出版,pp6-20,1994
4) 大田喜孝:一般検査における髄液細胞の見かた.検査と技術 28:349-357,2000

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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