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習慣流産とアネキシンA5遺伝子多型
著者: 宮村浩徳12 西澤春紀2 宇田川康博2 倉橋浩樹1
所属機関: 1藤田保健衛生大学総合医科学研究所分子遺伝学教室 2藤田保健衛生大学医学部産婦人科学教室
ページ範囲:P.1042 - P.1044
文献購入ページに移動自然流産とは,妊娠22週未満の妊娠中絶が自然に生じたものであり,全妊娠において約6人中1人(15~20%)が流産に至る.また,生殖年齢の男女が妊娠を希望し,妊娠は成立するが流産や早産を繰り返して生児が得られない場合を不育症(recurrent pregnancy loss,RPL)と呼び,そのうち連続3回以上の自然流産を繰り返した状態を習慣流産(recurrent miscarriage,RMまたはhabitual abortion,HA)と定義している.習慣流産の発生頻度は1~2%といわれ,偶発的な自然流産の繰り返しと比較してはるかに頻度が高く,なんらかの素因の存在が想定される.習慣流産には,染色体異常,子宮奇形などの形態学的異常,感染症,内分泌異常,免疫学的異常,凝固異常などのさまざまな因子の関与が報告されているが,原因を特定できない症例も約半数を占めており,特に遺伝学的な背景に関する検討はいまだ不十分である.
近年,Bogdanovaら1)やTisciaら2)により,欧米人においてアネキシンA5遺伝子のプロモーター領域にある遺伝子多型で構成されるハプロタイプM2が習慣流産や産科合併症と関連することが報告され,原因不明の不育症例におけるアネキシンA5の関与が注目されている.アネキシンA5は,カルシウム依存的にリン脂質と結合する蛋白質であるアネキシンファミリーに属し,血液凝固因子の結合を阻害することにより抗凝固活性を示すことが知られている.血液や尿をはじめとするさまざまな体内組織に存在し,妊娠時には胎盤絨毛の表面に発現することにより,胎児・胎盤循環を維持する作用を担っている.凝固異常が原因となる流産のなかでは,抗リン脂質抗体症候群が広く知られており,治療法としても低用量アスピリン・ヘパリン療法の有効性が確立されつつある3).原因不明の習慣流産のなかに,遺伝的凝固異常の症例が少なからず存在することが考えられる.欧米では,先天性血栓形成素因として第V凝固因子ライデン変異や,プロトロンビンG20210Aなどの遺伝子多型が習慣流産と関連することが報告されているが,日本人集団はこれらの多型をもたない4).そこで本稿では,日本人習慣流産患者で,胎盤性抗凝固因子アネキシンA5遺伝子多型の検討を行ったので紹介する.
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