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文献詳細

雑誌文献

検査と技術40巻6号

2012年06月発行

文献概要

臨床検査のピットフォール

凝固検体採取の注意点(Ht補正の重要性)

著者: 新井千穂1 小野佳一1 金子誠1

所属機関: 1東京大学医学部附属病院検査部

ページ範囲:P.537 - P.540

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はじめに

 プロトロンビン時間(prothrombin time,PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time,APTT)などの凝固検査は,止血凝固異常の原因の調査や,ワルファリンやヘパリンなどの抗凝固薬の治療効果判定を行うための有用な検査である.凝固検査は通常,採血後に一定量のクエン酸ナトリウムを添加し,抗凝固化された血液を遠心分離して得られた血漿に,試薬とカルシウムを添加して血液凝固する時間を測定している.この検査に影響を与える主要因は,特に採血手技や凝固検体の取り扱いなど人為的・技術的なものが多い(表)1).例えば,採血量過不足,採血後の不十分な転倒混和,ヘパリンなどの薬液混入(ライン採血など)は採血に不慣れな医療従事者に認められがちなミスである.

 このように採血手技を困難なものにしている一つの原因としては,抗凝固剤として用いられるクエン酸ナトリウムで,コンタミネーションもなく正しく採取された検体が血液と適正比(正しい採血量)で素早く混合されなければならないからである.用いられているクエン酸ナトリウムと血液との混合比の変化により,血液中のキレートされるカルシウム濃度(%),血液のpH値,凝固因子の希釈率などが凝固検査値に影響するためと考えられる.しかしながら,高度の貧血患者や多血症患者では適正混合比にしても,ヘマトクリット(hematocrit,Ht)により血液中に含まれる血漿量が変動するために,採血量過不足時と同様に血漿中クエン酸濃度の変化により測定値に影響が認められる.通常,抗凝固剤に対する全血量が過剰となる場合には顕著な影響は認めにくいが,血液量が低下した場合には凝固時間が延長する2,3).このことは,貧血・多血症患者においても同様の傾向が認められる.つまり貧血患者では,血液に含まれる血漿量が多くなるために凝固時間に対する影響は少ないが,特に多血症患者では採血量不足と同じように含まれる血漿量が少なくなるので,通常の混合比では凝固時間が延長しやすいことと一致する.

 本稿では,適切な凝固検査を行ううえではHtにも留意すべきでHt補正も重要であることを,高度多血症であったEisenmenger症候群症例を具体例にして述べる.

参考文献

1) 菅野信子,金子誠:活性化部分トロンボプラスチン時間,プロトロンビン時間,トロンボテスト,ヘパプラスチンテスト,トロンビン時間.Medical Practice編集委員会(編):臨床検査ガイド2011~2012―これだけは必要な検査のすすめかた・データのよみかた.文光堂,pp594-610,2011
2) 後藤哲,佐守友博:日常遭遇する特異検体の処理と測定上の解決法 特に血液検査において.Medical Technology 24:53-61,1996
3) Peterson P, Gottfried EL : The effects of inaccurate blood sample volume on prothrombin time (PT) and activated partial thromboplastin time (aPTT). Thromb Haemost 47:101-103,1982
4) 利見和夫:Q&A血液凝固検査におけるクエン酸ナトリウム加血漿濃度.臨床検査 43:1660-1661,1999
5) 村田満:凝固検査用の採血.濱崎直孝,高木康(編):臨床検査の正しい仕方:検体採取から測定まで.宇宙堂八木書店,pp59-61,2008
6) Hess JR : Blood and coagulation support in trauma care. Hematology Am Soc Hematol Educ Program : 187-277, 2007
7) Adcock DM, Kressin DC, Marlar RA : Minimum specimen volume requirements for routine coagulation testing : dependence on citrate concentration. Am J Clin Pathol 109:595-603,1998
8) Adcock DM, Kressin DC, Marlar RA : Effect of 3.2% vs 3.8% sodium citrate concentration on routine coagulation testing. Am J Clin Pathol 107:105-114,1997
9) Arkin CF, Davis BH : Collection, Transport, and Processing of Blood Specimens for Testing Plasma-Based Coagulation Assays ; Approved Guideline, Fifth Edition. Clinical and Laboratory Standards Institute,pp8-9,2008
10) Kanahara M, Kai H, Okamura T, et al : Usefulness of high-concentration calcium chloride solution for correction of activated partial thromboplastin time (APTT) in patients with high-hematocrit value. Thromb Res 121:781-785,2008

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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