検査と技術41巻8号

2013年08月発行

Laboratory Practice 〈病理〉

病理標本の伸展および乾燥条件が染色性に与える影響

著者： 山口大¹ 塩竈和也² 竹内沙弥花² 水谷泰嘉² 尾之内高慶² 稲田健一² 堤寬²

所属機関： ¹藤田保健衛生大学医療科学部臨床検査学科（現 信州大学大学院医学系研究科病因・病態検査学） ²藤田保健衛生大学医学部第一病理学講座

ページ範囲：P.698 - P.702

文献概要

はじめに

　酵素抗体法（通称：免疫染色）は，今や医学研究や病理診断に欠かせない検索手段である．自動免疫染色装置や染色キットの普及によって，免疫染色は身近で簡単な染色として認識されがちである．しかし，実際にはさまざまな落とし穴が存在し，固定条件をはじめとする種々の要因が染色性に悪影響を及ぼすことがある^1）．そのなかでも，今まであまり重要視されなかった薄切切片の伸展・乾燥条件が，注意を要する要因の1つに挙げられる．orotate phosphoribosyltransferaseおよびglutathione S-transferaseの免疫染色では，切片を高温伸展することによって陽性シグナルが消失することが報告されている^2）．さらに，HER2（human epidermal growth factor receptor type^2）免疫染色では，切片の高温・長時間乾燥によって染色強度が減弱することが報告されている^3）．

　本稿では，薄切後のパラフィン切片の伸展・乾燥条件に焦点を絞って，病理標本作製が染色性に及ぼす影響について検討する．

参考文献

1）堤寛：トラブルシューティング．名倉宏，長村義之，堤寛（編）：渡辺・中根　酵素抗体法，改訂四版．学際企画，pp323-338，2002

2）Kamoshida S, Sakamoto N, Matsuoka H, et al : Heat-assisted stretching of paraffin section on hot plate weakens immunoreactivity of orotate phosphoribosyltransferase. Acta Histochem Cytochem　38：69-74，2005．

3）神原由季：HercepTestTMに関する最近の知見．病理技術　72：22-25，2009

4）廣井禎之：ホルマリン固定・パラフィン切片作製の技術．連続切片．Med Technol　39：795-800，2011

5）塩竃和也，堤寛：免疫染色玉手箱　固定および包埋による抗原性の失活・流出．（http://www.nichirei.co.jp/bio/tamatebako/pdf/intro_08_dr_shiogama.pdf）

6）堤寛：切片の作製法．名倉宏，長村義之，堤寛（編）：渡辺・中根酵素抗体法，改訂四版．学際企画，p107，2002

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8）丸山隆，中田穂出美：病理組織学的検査．松原修，丸山隆，中田穂出美，他：臨床検査学講座　病理学／病理検査学，医歯薬出版，pp.266-267，2000

9）山本康子：薄切．日本臨床検査学教育協議会（監修），吾妻美子，佐藤健次（編）：臨床検査学実習書シリーズ　病理検査学　実習書．医歯薬出版，p16，2011

10）滝野寿，長屋清三：病理組織・細胞診実践マニュアル　組織学的検査　2．検体　検体の受付と処理　薄切法．検と技　26：103-106（増刊号），1998

11）佐野豊：組織学研究法─理論と術式，第4版．南山堂，p152-154，1975

12）慶應義塾大学医学部病理学教室（編）：病理組織標本の作り方，第4版．医学書院，pp46-47，1973

13）山際祐史：薄切法．田口孝爾，山際祐史：臨床検査技術学5　病理学・病理検査学，第2版．医学書院，p147，2001

14）American Registry of Pathology : Manual of Histologic Staining Methods of the Armed Forces Institute of Pathology, 3rd ed. New York, McGraw-Hill Book, p27, 1968

15）長谷川秀浩：伸展条件から考える病理組織標本作製の標準化．病理技術　76：19-14，2013

16）佐々木義和，佐藤美知子，伊藤多恵夫，他：パラフィン切片に対するリンパ球系抗体の免疫組織化学的問題点　固定及び伸展条件について．医学検査　42：1927-1932，1993

17）齋藤裕紀，伊藤啓明，諏訪しのぶ，他：パラフィン薄切切片の伸展・乾燥に関する基礎的検討．医学検査　48：1473-1476，1999