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文献詳細

雑誌文献

検査と技術42巻13号

2014年12月発行

臨床医からの質問に答える

ホルマリン固定時間はどのくらいがよいのでしょうか? その他ホルマリンに入れる際の注意事項を教えてください

著者: 阿部仁1

所属機関: 1慶應義塾大学医学部病理学教室・病理診断部

ページ範囲:P.1413 - P.1417

文献概要

はじめに

 生体から臓器を採取した直後から起こる自己融解,物質の消失,微生物による腐敗などを防いで組織構造をできるだけ生体内(in vivo)に近い状態に保持したまま病理組織標本を作製することが必要である.この条件に最も適した固定剤として使用されているのがホルムアルデヒド(HCHO)である.ホルムアルデヒドは刺激性のある無色の揮発性ガスで,水に対して易溶性であり,一般的に用いられているホルマリンとはホルムアルデヒドの水溶液である.

 ホルマリン水溶液は日常病理標本作製において最も使用されている固定液で,ホルマリン原液はホルムアルデヒド濃度約35〜38%を含んだ水溶液である.昔から組織の固定液あるいは防腐剤・消毒剤として使用されており,取り扱いが簡単で安価であり,組織内への浸透性がよい.

 市販されているホルマリンには日本薬局方ホルマリン(ホルムアルデヒド濃度:約35〜37.5%)の他に試薬1級(ホルムアルデヒド濃度:約35〜38%)と特級(ホルムアルデヒド濃度:約36〜38%)のものがある.ホルムアルデヒドは酸化されて蟻酸を生じ,重合して白濁する.このため,局方ホルマリンにはホルムアルデヒドの重合を防止するため,安定化剤として10〜15%の割合でメタノールが加えられている.日常的には,局方ホルマリンの使用で組織の固定は十分である.使用時にはホルマリン原液を10〜20%濃度,場合によってはそれ以上の濃度に希釈して使用する.したがって,10%および20%ホルマリン液とは市販のホルマリン原液を水道水で1/10倍または1/5倍に希釈したもので,それぞれ最終ホルムアルデヒド濃度は約3.7%と約7.4%となる.

参考文献

1)渡辺恒彦:各種固定液の効果(第二報).組織技術研究会:第6回組織技術研究会記録.pp21-28,1976
2)渡辺恒彦:固定.病理技術研究会(編):病理標本の作り方 第1版.文光堂,pp2-6,1992
3)曽根美智子,南原しずえ,佐々木政臣,他:分子病理学的検査のためのグリオキサール固定の評価.医学検査 59:689-693,2010
4)Wolff AC, Hammond ME, Schwartz JN, et al : American Society of Clinical Oncology/College of American Pathologists guideline recommendations for human epidermal growth factor receptor 2 testing in breast cancer. J Clin Oncol 25:118-145,2007
5)阿部仁:失敗から学び磨く検査技術 病理標本作製法 固定時に生じるアーティファクト 固定不良による内部と辺縁部の染色性の違い.検と技 32:662-665,2004
6)Lillie RD, Fullmer HM(ed) : Histopathologic Technic and Practical Histochemistry, Third Edition. McGraw-Hill, 1965
7)鈴木雄太,畑中豊,松野吉宏:分子病理学的検索を目的とした新規組織固定法.検と技 41:102-106,2013
8)榊原健夫,滝野寿,稲垣宏:ホルムアルデヒドを含まない固定液“アルテフックス®”の有用性と問題点.検と技 42:162-168,2014

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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