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雑誌文献

検査と技術43巻9号

2015年09月発行

文献概要

トピックス

輸血後HEV感染の発生

著者: 岡本宏明1

所属機関: 1自治医科大学医学部感染・免疫学講座ウイルス学部門

ページ範囲:P.752 - P.755

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はじめに

 E型肝炎ウイルス(hepatitis E virus:HEV)は,E型肝炎と呼ばれる急性肝炎の原因ウイルスである.E型肝炎は,古くから知られている肝疾患であり,かつては衛生環境が整っていない熱帯・亜熱帯地方の発展途上国での風土病的流行性疾患として位置付けられていた.そして,日本を含め先進国では,E型肝炎は,アジアやアフリカの流行地域でHEVに感染した人が帰国後に発症するまれな輸入感染症の1つと見なされていた.

 しかし1997年に,このような認識を大きく転換させることになる2つの重要な発見があった.その1つは,米国の豚から人のHEVに似たウイルスが分離されたことであり1),2つ目は,流行地域への渡航歴のない米国の急性肝炎患者がE型肝炎と診断され,豚HEV株と近縁のHEV株が分離されたことである2).これらの発見が発端となって,その後,欧米各国や日本において,非A,非B,非C型急性肝炎患者や家畜豚などから,流行地域に分布している遺伝子型1型や2型のHEV株とは異なる,新しい遺伝子型である3型や4型のHEV株が相次いで分離された.そして,先進国にも固有の3型や4型のHEV株が常在し,それまで原因不明とされていた散発性の急性および劇症肝炎患者の一部は,実はE型肝炎であったこと,またE型肝炎はA〜E型までの5種類のウイルス性肝炎のなかで唯一,人獣共通感染症であることが,最近の十数年の間に明らかになった.1型と2型のHEVが感染するのはヒトのみであるが,3型や4型のHEVはヒトのみならず,豚や野生イノシシ,鹿,マングースなどにも感染している3)

 HEV感染は通常,一過性である.しかし,HEV感染のもう1つの重要な特徴は,臓器移植患者やHIV(human immunodeficiency virus)感染者,免疫抑制剤を投与されている患者に感染した場合に慢性化する点である4)

参考文献

1)Meng XJ, Purcell RH, Halbur PG, et al : A novel virus in swine is closely related to the human hepatitis E virus. Proc Natl Acad Sci USA 94:9860-9865,1997
2)Kwo PY, Schlauder GG, Carpenter HA, et al : Acute hepatitis E by a new isolate acquired in the United States. Mayo Clin Proc 72:1133-1136,1997
3)Takahashi M, Okamoto H : Features of hepatitis E virus infection in humans and animals in Japan. Hepatol Res 44:43-58,2014
4)Kamar N, Selves J, Mansuy JM, et al : Hepatitis E virus and chronic hepatitis in organ-transplant recipients. N Engl J Med 358:811-817,2008
5)厚生労働省:感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について E型肝炎(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-01.html)(2015年6月17日アクセス)
6)岡本宏明:新規に保険収載された検査法「IgA-HE抗体価(定性)」.モダンメディア 58:182-187,2012
7)国立感染症研究所:感染症発生動向調査 週報(IDWR)(http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr.html)(2015年6月17日アクセス)
8)Takahashi M, Tamura K, Hoshino Y, et al : A nationwide survey of hepatitis E virus infection in the general population of Japan. J Med Virol 82:271-281,2010
9)厚生労働科学研究費補助金による肝炎等克服実用化研究事業「経口感染によるウイルス性肝炎(A型及びE型)の感染防止,病態解明,遺伝的多様性及び治療に関する研究」班(研究代表者:岡本宏明):平成24〜26年度 総合研究報告書,2015年3月
10)佐竹正博:日本における輸血感染症のリスク.臨血 55:2152-2161,2014

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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