icon fsr

文献詳細

雑誌文献

検査と技術5巻4号

1977年04月発行

文献概要

文豪と死

島崎 藤村

著者: 長谷川泉1

所属機関: 1医学書院

ページ範囲:P.312 - P.312

文献購入ページに移動
 島崎藤村(1872〜1943)は「若菜集」の詩人としてだけでなく,田山花袋と並んで日本の自然主義の確立者として文学史に位置づけられている.瀬川丑松に托して出身の秘密を告白するまでの苦悩を,信州の自然を背景に描き出した「破戒」(明治39)が,そのきっかけを作った.花袋の「蒲団」が出たのはその翌年であった.「破戒」と「蒲団」の2作によって,日本の自然主義はフランスのゾラなどの模倣の域を脱してほんものになった.
 「破戒」には社会的なスケールと広がりがあり,解決が個人の狭いわくの内では処理できないような幅を持っていた.これに対して「蒲団」は花袋自身とその周辺をモデルにしたこともあって,私小説的な傾斜を示すものであった,小市民生活の中に押し込められた薄汚れた官能が,当時としては露骨な描写として注目された.日本の自然主義は「破戒」の線上に発展することなく「蒲団」の線上に発展することになってしまったところに,私小説的なのめり込みと限界を持つことになった.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?