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妊娠時の凝固・線溶系因子および分子マーカーの変動
著者: 長屋聡美1 森下英理子1
所属機関: 1金沢大学医薬保健研究域保健学系
ページ範囲:P.20 - P.23
文献購入ページに移動妊娠に伴う母体の変化は解剖学的にも生理学的にも非常に劇的なものであり,凝固因子の産生亢進や線溶系の抑制,増大した子宮による下肢静脈圧迫などのさまざまな要因により易血栓傾向を呈する.このような妊娠時の過凝固・線溶抑制状態は,妊娠の維持や分娩時出血の止血に合目的であるが,静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)など血栓症の原因ともなりうる.妊娠関連VTEは,発生頻度は低いものの妊娠中および産褥期における死亡原因の1つである.一般集団における妊娠関連VTEの発生率は0.1〜0.2%と推定されており,妊婦のVTE発症リスクは同年齢の非妊娠女性に比べて約5倍高い1).したがって,妊娠関連VTEを正確に診断することが重要であるが,妊娠後期においては呼吸困難,頻呼吸,足のむくみや不快感を認めることが多く,VTEとの鑑別が困難な例も少なくない.
妊婦における血液凝固・線溶系因子の生理学的変化は劇的であり,各種検査値は妊娠経過とともに変化し,多くは分娩を機に非妊娠時の状態に戻る.したがって,凝固・線溶系検査値が正常か異常かの解釈は妊娠・分娩・産褥それぞれの時期において異なるため,正常妊婦における変動を把握しておくことが重要である.本稿においては,妊娠に伴う凝固・線溶系因子,分子マーカーの変動および妊婦のVTE診断におけるDダイマー測定の有用性について解説する.
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