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文献詳細

雑誌文献

検査と技術6巻3号

1978年03月発行

病気のはなし

フェニールケトン尿症

著者: 北川照男1 小島知彦1

所属機関: 1日本大学小児科

ページ範囲:P.188 - P.192

文献概要

 歴史
 ノルウェーの二人の知能障害の子を持つ母親が,尿に異常な臭気のあることに気付き,Fφlling博士を訪れたところ,博士は尿の異常な臭気は糖尿病によるのではないかと考えて,尿に塩化第二鉄試薬を滴下した.その結果,尿が著明な緑色を呈することを発見し,更にその尿中にはフェニールピルビン酸が大量に排泄されていることを見出して,1934年この病気をフェニールピルビン酸を排泄する白痴と名付けて報告した.その後,Jervis博士が,この疾患は常染色体劣性遺伝で,血液や尿中のフェニールアラニン量が増加すると報告し,更に1953年には,患者の肝においてフェニールアラニンヒドロキシラーゼというフェニールアラニンをチロジンに転換する酵素の活性が著しく低下していることを見出し,これが本症の病因と関係があることを明らかにした.他方,1954年Bickel博士は,この疾患における知能障害がフェニールアラニンやフェニールピルビン酸の蓄積と関係があるならば,フェニールアラニンやフェニールピルビン酸を減少させるような低フェニールアラニン食を与えれば,精神薄弱が改善するのではないかと考えて,その治療を試み,効果があることを明らかにした.その後,低フェニールアラニン食による治療が広く試みられるようになって,著しい脳障害を生ずる前に治療を開始しないと十分な効果が得られないことが明らかとなり,本症の早期診断のためのマススクリーニングが開発された.最初は尿塩化第二鉄反応を利用したスクリーニングが試みられたが,乳児の尿を採って検査するのは難しく,オムツについた尿でも検査ができるフェニチップやフェニスティックスのような試験紙による方法が行われた.しかし,これらはいずれも尿中へのフェニールピルビン酸の排泄を確認するための検査であるために,フェニールピルビン酸が不安定な物質で,フェニールケトン尿症であっても新生児期はフェニールアラニントランスアミナーゼの活性が低く,その形成が少なく,この検査が見逃される症例が多いことが知られるようになった(図1).アメリカのGuthrie博士は,尿検査で見逃されて精薄児となったフェニールケトン尿症の姪をもち,尿検査が信頼度の低い検査であることを自らよく知っていたために,より信頼度の高い検査法の開発が重要であると痛感していた.そして専門とする微生物学を応用して,濾紙に吸い込ませた少量の乾燥血液で血中のフェニールアラニンを測定できるinhibitionassay法を開発した.アメリカでは直ちにニューヨーク州の条令が改正され,1962年からガスリー法によるフェニールケトン尿症のマススクリーニングが開始された.そして欧米では現在までに約3,000万人の新生児のスクリーニングが行われ,3,000例以上の患者が早期治療を受けている.しかし,我が国では早くから尿検査が行われてしまったために,ガスリー法への切り換えが遅れ,1977年10月よりようやく公費でこの検査が全国的に行われることになった.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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