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文献詳細

雑誌文献

検査と技術7巻2号

1979年02月発行

文献概要

測定法の基礎理論 なぜこうなるの?

固定の理論 I—ホルマリン水溶液について

著者: 三友善夫1 石原明徳1

所属機関: 1埼玉県立がんセンター病理部

ページ範囲:P.121 - P.127

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 日常,病理検査に使用される組織や細胞の顕微鏡標本作製のための固定液の種類はそう多くはない.ホルマリン,アルコール,エーテル,オスミウム酸などと,その混合液に限られたものである.過去数年前まではZenker,Helly,Maximow液などと呼ばれる固定液も使われていたが,重クロム酸,昇汞を含むために公害源になるので現在ではほとんど使用されていない.またBouinやCarnoy液も現在用いられているが,これらも1897年に発表されたものである.固定液として最も古いのはReilのアルコールで1809年の記録があるが,アルコールはかなり古くから使われており,臓器をワインやウイスキー,ウオッカに入れて保存した記録もある.
 しかし現在の組織,細胞の微細構造の固定を目的とせずに,防腐剤として臓器,組織の保存に使われた.現在の固定液が用いられる緒口になったのは脳組織の顕微鏡標本作製法に関する多くの人たちの工夫と努力である.軟柔な脳組織は腐りやすく,取り扱いも難しかったので,腐らないように固定し,薄切し,染色して組織標本を作る必要があった.1840年にA. Hannoverがクローム酸を固定液として用いたが,重金属,各種酸などに続いて1893年にF. Blumが現在慣用しているホルマリンを使用しはじめた.アルコールが防腐を目的として最初に使われ,ホルマリンが組織標本作製のためにずっと後に固定液として使われはじめたことは,現在用いられているこの二つの代表的な固定液における相違点である.1958年にBakerが固定(fixation)と保存(reservation)とを区別し,固定は細胞と組織のin vivoの形態を可能なかぎり保つことにあると強張した.この理想的な固定を行うために固定の理論が検討されたが,1899年にFischer,1902年にMann,1931年にBaker,1938年にZeiger,1954年にGrayらが概観し,特にGrayは700種の固定液について論じた.しかし,その理論は主に経験的に打ち立てられたもので,固定液の選択性,pH固定温度,固定時間などの実際的な事項に関する記載がほとんどで,組織や細胞の固定の機序について生化学的,物理化学的,有機化学的,分子生物学的に検討されておらず,それらの著しい進歩を遂げている学問領域に比較すると遅れをとっており,病理組織標本作製の実習書や教科書を見ても固定機序の説明は乏しい.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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