技術講座 病理
病理組織切片の酵素抗体法—ペルオキシダーゼ間接ブリッジ法
著者:
森茂郎1
毛利昇2
板倉淑子2
小沼利光3
須山貞子4
田代擁子4
浦野順文4
所属機関:
1東京大学病理
2東京大学分院病理
3三井記念病院病理
4東京大学病院病理部
ページ範囲:P.147 - P.151
文献購入ページに移動
ホルマリン固定パラフィン包埋という,病理組織学的検索に最も繁用される組織処理の行われた組織に対して免疫組織学的検索を行うことが可能であれば,これは手軽である,過去の膨大な蓄積検体の再検が可能である,などの理由で実に大きな福音となる.しかし多くの抗原はこのような組織処理により著しく失活するため,それ以上の免疫組織学的検索ができない.抗原としての免疫グロブリン(Igと略す)はかかる日常的な固定・包埋の過程で抗原性を著しく失うものの一つである.しかし近年,以下に述べるような免疫組織学的手技を用いることにより,形質細胞及びこれに近いB系リンパ球の胞体内のIgを固定することが可能になった.この手技は一種の間接酵素抗体法で,ペルオキシダーゼ間接ブリッジ法,PAP法などと呼ばれている.手技の原理は抗原を認識する一次抗血清とPeroxidase-antiperoxidase soluble complex(三次血清)を,異種動物で作製した抗IgG血清(二次抗血清)でブリッジすることにより抗原の認識を図るものである.ブリッジが完成するためには一次抗血清と三次血清が同種のIgGよりできており,二次抗血清はそのIgGに対する抗体でなければならない(図1).本法は微量の抗原の認識に有効である.また非特異反応が極めて弱いという点において通常の間接酵素抗体法に勝ることが認められている.
本法はMason1),Sternbergerにより開発され,Taylor2),Curran3)らにより改良を加えられて,リンパ網内系疾患の診断に実用化されるようになった.我が国では山下清章,菊池昌宏らによって紹介されて以来,幾つかの研究グループで使用されるようになり,私どものグループでも’1977年以降本手技のルーチン化に取り組み,昨今安定したシステムに載せることができるようになった(表1).本稿では本法を実施するに当たっての,成書に記載されていないコツや条件,判定に際しての論理などについて私どもの検索結果,経験などを述べる.