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文献詳細

雑誌文献

検査と技術9巻1号

1981年01月発行

文献概要

コーヒーブレイク

重力と人間

著者:

所属機関:

ページ範囲:P.22 - P.22

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 牛乳と人乳の成分を比較してみると,牛乳ではカルシウム100 mg/dl,リン90mg/dlなのに対して人乳ではそれぞれ35mg/dl,25 mg/dlと約3分の1に過ぎない.その代わり糖分は人乳7.1g/dl,牛乳4.5g/dlと人乳に豊富である.カロリー,水分量などには大差がない.牛(に限らず多くの動物)の仔が生まれて最初にやることは立ちあがって,四本の脚で体を支えることであるのに,人の子どもは当分,寝てばかりで,すべて親が世話することになる.地球の重力にさからって体を支えるために大切なのは,頑丈な骨と筋肉で,このためにはカルシウム,リンなどのミネラルの補給が最も大切で,牛乳にはこれが豊富に含まれている.糖分が人乳に多いのは大脳などの急速な発育に神経細胞の栄養源として,これが要求されているのかも知れない.
 ところで,スタートは自立精神の欠けた,いささかだらしない人間の赤ちゃんも1年たつと,重力に対してアッと驚くような挑戦を始める.つまり2本足で垂直に立ち上がるのである.他の多くの動物が四つんばいで,心臓と脳・腹部内臓がほぼ同一レベルなのに,人間では重力の影響を強く受ける直立位で頭にはとかく血液が十分に届かず脳貧血を起こすし,下半身には血液がよどみがちで足がむくんだり,静脈瘤ができたり,痔が悪くなったりする.このような不利はあっても,目の位置は高く見通しがよく,手は自由に仕事に使えて人間らしい生活をおくることになる.ところで,しばらく重力から解放されてみたらどうなるだろうか.宇宙飛行で最も役に立たなくなるのが両足で,不要な大きな2本のしっぽになってしまう.前足(つまり手)にはまだこまごました仕事はあるが,後足のほうは停年で急に1日中家にいるようになった御亭主みたいなもので図体は大きくて,やることがない.こうなると骨からはカルシウムは抜けて行くし,循環器の働き方も変わってくる.地球にかえってきても,立ちくらみしてすぐには立って歩けなくなってしまう.さて地球上にいる限り,重力とたたかい続ける人間もやがては,さからわず横になって人生を終えることになる.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1375

印刷版ISSN:0301-2611

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