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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生1巻6号

1947年04月発行

雑誌目次

總説

日本人口の現状と將來

著者: 舘稔

ページ範囲:P.421 - P.426

Ⅰ.人口現象と公衆衞生
 この稿の課題は,いやしくも我が國の將來を考える場合,常に必ず起つてくる根本的な問題である。だが,公衆衞生の立場からは獨自の重要さをもつ課題である。即ち,
 〔1〕人口は特定の地域における人間の集團である。然るに公衆衞生は集團としての人間の衞生を對象とする。從つて公衆衞生の對象は人口の衞生學的側面である。そして實踐としての公衆衞生は衞生の側面から人口現象を左右する。この意味で公衆衞生は人口政策の1翼である。

原著

BCG接種方法に關する研究—(接種量の問題)(第1報)

著者: 染谷四郞

ページ範囲:P.427 - P.432

Ⅰ.緒言
 結核豫防對策上重要な役割を爲すものとして末感染者にBCGワクチン接種が廣く行はれて居る。之に伴ひ此の方面の研究も盛に行はれ,多くの改良がなされて來た。殊に接種方法として皮内法が專ら行はれる樣になつてから接種局所の副作用も少なくなり,接種BCG量も0.06mg程度まで増量されて來て居る。然しながら免疫效果を強く然も永く保持させるためには如何程のBCG量が最も適當であるかと云ふことは重要な問題である。柳澤等1)の人體に於けるBCG接種の成績に於いて接種量0.04mg程度迄では接種量が多い程免疫效果は大きいことを報告して居る。又最近Aronson等2)はBCGワクチンの人體接種に於いて0.1mg乃至0.15mgの菌量を接種した事を報告して居り,稍ゝ接種量が多い樣である。併し更に大量に接種された場合の成績は報告されてゐない。そこで著者はBCG接種量の問題を檢討するためツベルクリン反應(以下ツベルクリンをツと略す)陰性及疑陽性のBCG末接種者に種々な量のBCGの接種を行ひ,その後のツ反應の經過を觀察し,BCGワクチン接種による結核豫防效果の程をツ,アレルギーの消長によつて檢討した。

論説

Social Worker設置制度の提唱

著者: 野邊地慶三

ページ範囲:P.433 - P.434

 日露戰爭の大勝は我國に産業革命を招來した。その結果集團勞働者の生活が不良化し,又た國民の貧富の差が大になつて,貧民層が増大し,その對策として社會的援護の必要が大となつて來た。そして前世紀の終りにGrotjahn,Teleky,Gottstein等の提唱によつて獨逸に勃興した社會衞生の流れを汲んで,大正年間から昭和時代に互つて我國は社會衞生時代となり,昭和13年に設けられた新省に厚生省の名稱が附せられるに至つたのである。此の時代には醫人の社會衞生に專念する者非常に多く社會事業も醫人の關心事であつた。
 然るに支那事變の勃發と日獨同盟とは時の獨逸の民族衞生時代を我國にも傳來し,社會局が生活局と改稱せられるに至つた。そして醫人は社會事業方面から殆んど足を洗ひ社會事業は醫人の關心事外とされた觀があつた。公衆衞生を業とする醫人は所謂衞生三局に集つて保險局には僅に一,二を數へられるに過ぎず,再生の社會局には一人の醫人も專屬されなかつた。斯くて公衆保健局,醫務局及び豫防局の通稱衞生三局が公衆衞生の主管局と見做され,社會局及び保險局と對比するものと解されるに至つた。新憲法第25條にも社會福祉,社會保償及び公衆衞生と,公衆衞生は社會事業と併舉されて居る。即ち公衆衞生と杜會事業とは厚生行政の二分野と理解されて來て居つた。

健康教育か衞生教育か

著者: 齋藤潔

ページ範囲:P.435 - P.435

 一般公衆に對し,生活の衞生的規制を教へ個人の心身の健康を増進し,更に公衆衞生に及び,以て健康なる社會生活を築き上げようとすることを普通の意味で健康教育又は衞生教育といふ。わが國に於て使用されてゐるこの兩語が,同意義か否かも明かではないが,明瞭を缺いてゐることは事實である。元來この語は英語のHealth Educationからきてゐる。Healthが健康か衞生かといふことを詮議立てする人もあるが,熟語を分析してみてもどうにもならない。英語で學校衞生をSchool HealthともSchoolHygieneともいふ。またアメリカでも,廣義にはHealth Educationが三通りに解せられることがあると,その道の權威者であるターナー博士もその著書にいうてゐる。即ち(1)民衆への衞生教育,(2)衞生專門技術者の養成,(3)學校衞生教育,といふのがそれである。日本語で健康教育といへば,その響きは個人を對象とする日常の健康生活の習慣を養成する個人衞生の教育であり,衞生教育といへば個人衞生ばかりではなくて,公衆衞生の教育も含まれるであらう。また,衞生教育は醫學校に於ける衞生學の教育も,衞生技術者の養成といふ意味も含まれそうである。昭和21年米國教育使節團の視察報告書の文部省發行の飜譯書にはHealth Educationを健康教育としてゐる。衞生教育ではない。

論述

サニタリアン(衞生監視員)

著者: 川畑愛義

ページ範囲:P.436 - P.439

 Sanitarianは衞生監視員とも,衞生士(官)とも,又た保健指導員などともやくされるであろう。しかしどれも適切な"やく語"ではないようである。
 これは通常,醫師ではなく,保健衞生に關する專門的智識ならびに技術を有し,ひろく公衆と接しよくして,彼らに公衆衞生上の教育,指導,訓練をあたえるものである。そして必要なる場合は,自身もこれが作業の實施にあたるものである。

食品衞生

著者: 川崎近太郞

ページ範囲:P.439 - P.447

1.食品衞生の意義
 終戰後,食中毒の頻發によつて食品衞生の問題が注目されて來た。食品衞生の實際面として食中毒の原因を調べその豫防對策を講ずることが考へられるが食中毒の防止のみが食品衞生ではない。食品の純正さを保ち榮養價を低下せしめないこと,或は榮養效率を向上せしめることも榮養的の方面も全て食品衞生に含まれる。食品の純度を確保するには各食品の定義を明かにして食品規格を明示し,品質を低下せしめるやうな他物の混入即ち『僞和』や他物との混同即ち『僞稱』を禁止せねばならぬ。
 食品が細菌性の原因によつて變質したり,或は化學的の原因によつて汚染されたり,有害物質が夾雜したりした場合には食品の品質を低下させるだけでなく食中毒の誘因となる。從つてこのやうな汚染は食品衞生上嚴重に注意されねばならぬ。之に反し『僞和』及び『僞稱』の場合には有害物を含んでゐない限り食中毒等の危害を起す虞れはない。吾國に於いては『僞和』並に『僞稱』は比較的輕く見られ,商業上の詐欺行爲でない限り殆ど問題にしてゐない。食品の規格と云つても經濟統制の一翼として價格決定の補助手段であつて食品衞生といふ觀點からの規格ではないのである。從つて法規上ではマルガリンの標示をなし清涼飮料水の人工著色には人工著色料含有を明記せしめるやうな點で『僞和僞稱』を取締り,又た牛乳及乳製品に一定以上の規格を規定した點に於いてのみ僅かに食品の品質保持に關する注的取締が行はれてゐる。

新しい死因分類

著者: 久保秀史

ページ範囲:P.447 - P.458

 死因統計を正確に,そして迅速に知ることは,公衆衞生の見地から見て,甚だ重要なことである。一國,一縣,一保健所管内の死亡數を知り,その原因を知ることは保健行政を行ふ上に,無くてはならぬ數字である。今日まで,これが充分利用されなかつたことは,我國の公衆衞生の發達を後らしてゐた一原因であると言つても過言ではなからう。
 我國に於て,死因統計がともかく發表される樣になつたのは,遠く明治8年の昔である。然し明治31年までは,僅かに10項目餘に分類されてゐたに過ぎない。明治32年から明治38年までは人口動態統計の中に,死因統計が含まれてゐたが,明冶39年以後,死因統計として年1囘内閣統計局から刊行される樣になつた。

傳染性疾患の防遏(第2囘)—細菌性赤痢

著者: 早川淸

ページ範囲:P.458 - P.462

 1.本病の認知:本病は下痢を以て急激に發病する。重症の場合には,熱發,裏急後重,血液並に粘液を混じた頻囘便通がある。輕症者は臨牀的に徴候が區々な爲め認知し難い。適當な研究室試驗を實施することに依つて通常病原體が證明出來る。
 2.病原體:Shigella属の各種菌例へばFlexner菌,Sonhe菌,志賀菌,其の他。

結核豫防對策私案

著者: 岡捨巳 ,   佐藤正雄

ページ範囲:P.463 - P.465

 宮城縣の結核豫防を對象として考察を進めよう。
(1)縣下保健所に依頼し埋葬許可證より最近10ケ年の結核死亡を年次別年齡別に調査し之を集計した。但し仙臺市の一部及び二郡のものは未終了のため精確な實數は得てない。尚お斯る調査方法に於ても一定の規準の下に劃一を期する必要がある。

原子と健康

著者: 宮入

ページ範囲:P.465 - P.466

 ある年輩の人が怪我をした。彼の脚は粉粹され有毒感染がおこり切斷を必要とした。さて外科醫は膝の上か或は下かで切るのを決めねばならぬ。膝關節を助けることは患者が再び歩くのに一層樂であるが,若し筋肉がもはや助けられない時には他の方法,すなはち膝を助けない手術をせねばならぬ。患者の腕に看護婦が放射能鹽溶液を注射し,患者の傷ついた膝のそばにはGeigerの波長測定器が置いてある。それは放射能を探知する電子的器械である。計器は急に或は又た強く記録してゐる。放射能鹽は患者の血液の中に入つて腕から膝關節に運ばれて行つた。そこまでの血液循環は障碍されてはゐない。かくして膝は助けられる。
 これは原子が醫學的保護と健康増進に用ひ初められた方法中の一つである。原子は唯だ診斷用に用ひられるばかりでなく,ある種の癌の實際の治療にも用ひられる。更に一層重要なことは生物學の基礎的研究に用ひられることである。研究や診斷に放射能物質が利用される方法は,科學者が恰も探偵が目印しをつけた金をある嫌疑者に渡すのと同じ役割を演じて居る。疾病の原因を探求し,又た自然の秘密を解明するにあたつて現代の科學者は放射能原子を利用することが出來る。

資料

Kahn反應と試作Kahn抗原による梅毒反應實施成績

著者: 重松逸造 ,   宮入正人 ,   芦原義守

ページ範囲:P.467 - P.472

1.まえがき
 從來わが國で行われておつた梅毒の血清學的診斷法は各檢査室でまちまちであつて,Wassermann反應ではKolmer,Browning,獨逸國定法等,沈降反應ではSachs-Georgi,Meinicke,Citochol,村田,北研法等のごとく各檢査室の傳統と習慣による方法と手技とに從つておつたため,各檢査室から出される成績は比較檢討の資料にはならず,その信頼度もそれぞれ異るものがあつたので,梅毒檢査法の統一については,以前からたびたびその必要性が叫ばれてゐたのである。殊に終戰後は動物が入手困難で溶血系統に動物を必要とするWassermann反應を行つている檢査室は至つてすくなく,たいていのところでは沈降反應のみによつている現状である。そこでこの際,沈降反應としてきわめて優秀で現在米英兩國においてひろく實施せられ,進駐軍軍醫部でも正式の梅毒診斷法として採用しているKahn反應を紹介するとともに,われわれのもとで昨年來行つている本反應の成績の一部を報告する次第である。

農村に於ける赤痢流行の經路

著者: 桑山良夫

ページ範囲:P.472 - P.478

1.緒言
 昭和21年7月6日,愛知縣碧海郡六ツ美村字井内に於て4歳男兒の初發以來翌8月中旬に到る間,62名の赤痢患者發生し其の猛威は隣村豐坂村,三和村,室場村にまで及び,15名の同系統の患者續發を見た。余は其の發生部落が之等諸部落を貫流する一用水に沿ひ點在する事に著眼し,此の用水が之等農村の傳染病傳播に如何なる役割を演じたかを調査した。

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情報

ページ範囲:P.479 - P.482

日本政府に對する覺書
結核豫防取締對策認可の件
 日本政府はSCAPIN 148(1945,9,22)に於て左記の處置を行ふよう指令された。傳染病の發生又は疑ある場合に檢診,拘置,入院を新に行ふこと。右に對應し厚生省は1947年3月13日附を以て右取締に對する現在の處置を強化擴大する結核取締策を提出した。
 右對策は茲に之を認可する右を迅速に實施に移すことを望む。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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