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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生10巻1号

1951年07月発行

雑誌目次

主張

群馬縣の赤痢對策について

ページ範囲:P.2 - P.2

 しばらく,流行を見なかつた赤痢は,昨年から再び流行を始めた。殊に關東地方にはげしく,中でも群馬縣は年間約4,000名の患者を出して,全國一の流行を示した。
 群馬縣當局は,總力をあげてその防過に努めていた,まづ,赤痢豫防の廣報活動を活溌に展開した。保菌者検索を徹底した。患者の早期發見に努めた。併し,患者は,あとから,あとからと出て結局4,000名を突破した。

グラビヤ

屎尿分離處理—神奈川縣衞生研究所

ページ範囲:P.3 - P.4

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フロイド學説の歴史的展望

著者: 懸田克躬

ページ範囲:P.5 - P.9

I.まえがき
 もしも,ここに與えられた"精神分析學(以下P.Aと略そう)の歴史的展開"というテーマが,P.A的な思想の歴史的なふるさとを求め,また,その行きつくべきカナンの地を明らかにするという意圖であるとすれば,われわれは,O.Pfisterなどとともに,そのリピドー説との類似を求めてプラトーンに,さらには,辮證法的な解明を通じてまことの自己認識に到るという經路をたどつてはソクラテスたまでさかのほり,また,そのたどりつくべき沃野を求めては,W.Reichなどとともにソヴイエツトやドイツにおけるマルキシズムの側からの批判を考慮し,さらには,アメリカにおけるネオ・フロイテイアンに封するBartletその他の批判との對決をも省みなければならないであろう。
 またもしも,問題をフロイド自身における思想の展開に限り,そして,また,フロイド的な,抵抗の強いところには,全體の錯叢をとく重要なキイ・ポイントが秘められてあるという考え方に從つて,その秘められたものを探つてみるにとどめるとしても,われわれは,フロイドが力をこめてその影響下にはないことを力説した,ショウペンハウエルやニイチエの先達と,シャルコーのもとにおける同門の人ジヤネーの思想との對決がさけられないものとなることに氣づかないわけにはゆかない。

精神衞生法の解説

著者: 津田信夫

ページ範囲:P.10 - P.12

 精神衞生法は,昭和25年5月1日法律第123號をもつて制定された。この法律の目的は,第1條に「この法律は,精神障害者の醫療及び保護を行い,且つ,その發生の豫防に努めることによつて國民の精神的保健の保持及び向上を圖ることを目的とする。」と明記されているように,豫防と醫療の施策によつて,國民の精神健康を保持向上しようとするものであつて,第2條によれば,その實現の爲に,國や地方公共團體は,醫療施設や教育施設やその他の福祉施設を充實して精神障害者が社會に適應してゆけるよう努めるほか,精神衞生についての智識の普及を圖つたりその他精神障害發生の豫防の施策を講じなければならないことになつている。

赤痢菌の國際分類について

著者: 福見秀雄

ページ範囲:P.14 - P.16

 赤痢菌の分類ほど國際的にも國内的にも統一されがたかつたものも少ないであろう。併し國内的にはいわゆる赤痢菌日本學振分類法が出來てから一般にこれが採用されて,統一された觀があつた國際的赤痢菌分類法は併しながら,第二次世界戰爭の目隠し時代に日本の學界とは全く無關係に進行しつつあつた。
 かえり見ると,赤痢菌の國際分類法としては,Andrewes and Inman1)のものがあまりにも有名であつた。勿論これはいわゆるマンニツト分解菌今日言うSh. flekneriにかぎられてはいるがこのことは併し許される。というのは,赤痢菌の分類について議論の別れるのは主としてSh. flexneriの細分であるから,それ以外の赤痢菌は,志賀菌,シュミッツ菌及び今日いわゆるLarge-Sachs群赤痢菌といつているいわゆるマンニツト非分解赤痢菌をそういうものとして一纏めにすることは異論はあるまいし,大原菌を他のものから獨定させることも當然のことであろう。Sh. alkalescen及びSh. disparを赤痢菌の中にいれるかどうかは勿論議論のあるところで,Sh. alkalescenと同じものである三方菌2)3)が日本學振分類法制立の時にも問題となつたのと軌を一にしているところで,これらの菌の病原性に關する疑義と,生物學的性状がむしろ大腸菌に近い點等から赤痢菌の中にいれたくないとする議論もまた成りたつのである。

赤痢將來發生數の豫測

著者: 平山雄 ,   阿部怜子

ページ範囲:P.17 - P.18

 最近恐ろしい勢で増加傾向を示している赤痢に對して,國をあげての防疫計畫を實施せねばならぬ事は改めて述べるまでもない。この計畫樹立に對して,將來發生數を適確に豫測しておくことが緊急事と考え,最近3ヵ年間の週別發生數を資料として本年の赤痢推定發生數を計算して見た。
 ①昭和23年以降の週別發生数の對數をとる。

赤痢の菌型を論ず

著者: 臼井竹次郞

ページ範囲:P.19 - P.21

赤痢菌型の變動
 細菌性赤痢の病原として多數の菌型が發見された。菌型が異なるに從つてその傳染樣式及び病氣の輕重も異なるであろうから,赤痢に關する疫學現象或は流行の模樣は菌型の異るに從い甚しく異なると考えねばならない。其處で赤痢に關する3年次的,季節的,年齢的變動を理解するためにはその流行の際に於ける赤痢菌型に就て常に深い注意を拂うべきである。多數學者は過去日本に於て菌型の憂化せるてと即ち志賀菌の減少せることには皆一致している。然し乍ら多数學者の成績を公平に集めて統計的に觀察せるものはない。此處に於て今日迄發表せられたる論文の大部分即ち509論文よりその數字を集めて各菌型の%が年次的に變化せることを觀察すると第1圖の如くなる。この結果は駒込病院,警視廳,九大小兒科の調査せる範圍が極めて廣かつた爲にこの三者の成績を合計せるものと殆ど違わない樣なものである。この曲線によつて過去に於ける菌型の變動に就て觀察してみよう。先ず志賀菌に就て云うと大正5年(1916)を境として急激なる減少を示して今日に至り昭和15年(1940)前後より再び増加を示した。但し減少せる時と雖も消減したのでないことを記憶せねばならない。その他の菌型即ち異型菌,アンニット非分解性非志賀菌,大原菌等の消長は勿論うねりを示し大原菌の如きは見方によつては増加を示している。然し本統計の信頼性から云つても今これを意義づけるには尚早と考える。

海外文献

老人病學の公衆衞生への寄與,他

著者: 田多井

ページ範囲:P.13 - P.13

 合衆國では現在,60歳以上の老人が凡そ,1,400萬人もおり,Klumppの指定では,1980年になんと總人口の2/3が45歳以上になる。このように老人の割合がふえてきたのは,最近の急連な壽命延長の當然の歸結である,試みに,古代からの壽命の推定を,メトロポリタン保險會社の資料に求めると下圖のようになる。1)
 このような動向は,勿論,傳染病豫防その他公衆衞生緒對策の勝利とみることができるが,これにともない公衆衞生の分野に,また新しい問題がおこりつつある。新しい目標として,老人性疾病,したがつて主に器質的な慢性病による死亡と不能力を防くことが問題になる。この意味における現在の主流の一つは癌對策であつて,それには,もつばら早期發見と治療,そのための大衆教育に重點がおかれている!他の一つは血管心臓病,とくに動脈硬化症をいかにしてふせぐかということで,これに關する研究が,いま熱心にとりあげられている。實際,合衆國のみならず日本においてさえ,結核をのぞけば,これらが主要死因となつているのだから,我々としても決して對岸の火災視するわけにはいかないし,能力ある人々をおかす點において急性傳染病をはるかにこえて,大きな社會醫學の問題になつてくる。

座談会

十二指腸虫の全村駆除

著者: 石垣純二 ,   小泉丹 ,   小宮義孝 ,   七篠小次郞 ,   柳澤利喜雄 ,   相崎徳次郞 ,   片岡千治 ,   宮本武衞 ,   中澤喜利 ,   尾崎吉助

ページ範囲:P.23 - P.27

 村長 一言御禮を申し上げます。協和村の寄生虫驅除を施行するにあたり,協和村はじまつて以來の名士の方が多敷お集まり下さいまして本日こうして御一緒に座談會を開催するということは,私どもにとつて實に千載一遇の機でございます。學校關係,婦人會,靑年團,その他の各種の團體の主だつた方にお出で頂きましてこうして,開催するわけでありますが,これについて小宮先生七條先生,石垣先生,その他,澤山の先生がたにいろいろとお話を頂くと共に,私どもの協和村の者としては寄生虫驅除についての知識を本日心からお伺いしそ,村に歸つてから指導できるようにしたいと思つております。それではこれから座談會にうつりたいと思います。
 尾崎 地元の保健所長として一言お禮を申し上げます本日は柳澤(利喜雄)博士の御指導によつて,このように盛大な會をひちくことができましたことをありがたく感謝いたしております。實は先頃來,新聞で御代田村が大分やかましく騷がれ,お蔭で小諸の保健所長としでの私も天下に名を騷がせることができましたが…(笑聲)今度は「泥棒に追錢」ではなくて,實のある収穫をうることと,その豫防に先鞭をつけることができましたことをうれしく思つております。しかもこの度はわざわざ東京から寄生虫については相當なる先生がたがお出でになつて下さり,啓蒙して下さることは何とも,お禮の仕樣もございません。

研究報告

學童の體位と地域差

著者: 柳澤利喜雄 ,   矢島ふき

ページ範囲:P.28 - P.31

1.緒言
 かねて我々は群馬縣民170萬人を對象としてその體位向上の策を考えていた。曾て本縣の體位は壮丁檢査の結果全國でも最劣位にありと言われている。試みに表1に示す如く群馬縣壮丁は全國平均よりも常に身長,體重が劣つている事を知る。1932年(昭和7年)の壮丁優良體位め者は全國44位,1938年は43位,昭和9年も同樣43位を占めていた。壮丁檢査の標準が果して健康の象徴と見なし得るか否かは別として,かゝる目安のもとに本縣民體位の現伏を把握し,その對策を講ずることは妥當な事と考える。
 縣民體位の現状を知る爲には,徴兵檢査や國民體力檢査の實施なき今日,我々は學校身體檢査成績をもつてするを至便と考える。そこで學校身體檢査諸項目中先ず身長に就て考察を試みた。身長は從來體位判定上の意義少きものと考えられていた。然しながら我々がこゝに問題にしている發育期學徒の體位の動向を觀察するに當つては至極意義深きものである。例えば今時戰爭中に於ける我國學徒身長の發育は戰事生活の激化に比例して,極端なる身長発育阻血現象を來している。特にかゝる傾向が都市学徒に顯著だつ事は,如何に發育期時代の身長を指標として體位全體の動向を判定する事の妥當なるかを實證しているものと考えてよいと思う。しかも更にかかる事實を裏付けるものとして戰後一般榮養伏況の恢復とともに,いち早く實施をみたる學校給食の開始による身長發育の旧状復歸がこれな雄辯に物語つている。

愛知縣下のいわゆる「水田性皮膚炎」調査,とその原因と思われるセルカリアの形態および習性

著者: 小宮義孝 ,   伊藤二郞 ,   後藤壽作

ページ範囲:P.32 - P.33

緒言
 愛知縣の2〜3の地方において數年來水田性皮膚炎の存在が知られていたが,偶々1950年6月8日,その發生地の1である海部郡八關村字新田及び鵜多須に於てヒラマキモドキSegmentina nitidella(V. martens)を檢索し,1種の住血吸虫科セルカリアの寄生するを認め,著者等の1人後藤は自らの左前腰部にこれを試驗し,水田性皮膚炎と全く同樣の發疹を生ぜしめ得た。このセルカリアは島根縣宍道湖地方の湖岸病の原因であるCercaria sturnial Tanabe 1943と比較し,極めて酷似するものであるが,又幾つかの點に於て異る點も見られるので以下にその形態其の他について記載し考察を試みる。

ガーゼマスクの飛沫傳染防止に對する効果について

著者: 豊川行平 ,   榊原士郞

ページ範囲:P.34 - P.35

 ガーゼマスクは呼吸器顎傳染病患者が使用して他への飛沫傳染を防止する場合と,健康者が使用して他からの傳染を防止する場合に用いられるものである。ところが産業衞生上用いられている防塵マスクの成績から,健康者が使用する場合のガーゼマスクの効果に疑問がもたれ現在では患者に對してのみその使用を勤める傾向にある。つまり,防塵用にガーゼマスクを使用する場合,塵肺等の原因たるべき微細な塵埃は殆ど阻止されない。又ある程度これを阻止しようとしてガーゼの厚さを増すと,呼吸抵抗が増し,そのため空氣はガーゼ層を通過せずガーゼと顔面との間隙より侵入し,マスクの用をなさないからである。しかし,傳染病豫防という面から考えると,防塵用に用いた場合と大變意味がちがう筈である。周知の如く感染の成立には侵入した菌量が大きな因子になつているのである。ところが,患者の口腔からとび出す飛沫はそれが大きければ大きい程,それに含まれる菌量は多くなる。從つて大きな飛沫を阻止することが傳染病豫防には重要なのである。かかる見地から,われわれはガーゼマスクの効果を實驗的に檢討してみたのである。

公衆衛生監視の一手段としての蠅格子(Fly grill)の應用

著者: 加納六郞

ページ範囲:P.35 - P.36

 ハエの棲息數の推定は公衆衞生に携わる者にとつては是非共必要な事である。ハエの驅除を行うに當つても,如何なる場所に,どんな種類のハエが,どの位いるかということを知ることが,最も能率的且つ經濟的に目的を達成させることになる。又衞生監視の立場からも,ハエの数の推定は飮食店その他の場所の衞生状態の判定の一標準とすることが出來るし,都市の清掃及びた鼠族昆虫驅除事業を行つた際の効果判定の1助ともなしうる。その方法としては,今日まで色々なことが試みられたけれども,どれも滿足出來る樣なものではなかつた。1947年にアメリカで,H. I. Scudder(1)がハエ格子(Fly grill)というものを考案し,公衆衞生の實際面に應用して好評を博している。之とても勿論完全なものとは言い難く,諸種の問題を含んでいるが,現在までの方法のうちでは最も利用價値があると思われるので,之を紹介することにする。ハエ格子には2種のものが考案され,1つは野外用の大形うもの,他は室内用の小形のものである。その構造を述べると,大形のものは幅3/4吋で,長さ3呎の細長板を24本荒けずりのまゝ,3/4吋間隔で並べて,裏から3本組合せのしつかりした棒でとめてある,極めて簡單な装置である。從つて此の装置の上面には総計147呎の稜を持つていることになる。そして,十文字に黒又は赤のペンキで線を引いて,全表面を4つに區分してある。

統計の頁

1950年の人口動態統計概要

著者: 河田竹三郞

ページ範囲:P.37 - P.40

 1950年の人口動態統計毎月概數年計分の數字にもとずいて人口動態の概況を觀察すると次の如くである。
 出産 自然増加 出生は戦後特殊事情により一時急激に増加したが,48年の中頃より漸次滅少の傾向を辿り,50年には相當滅少を示した。即ち50年の出生數は2,356,856人で24年の2,696,638人より約34萬人(約13%)減少している。これは婚姻の減少及び昭和23年に優生保護法が制定されて,人工妊娠中絶が合法的に行われるようになると同時に産兒制限も奬勵され,その結果があらわれてきたものと考えられよう。又人口千對の率でみると1950年は28.3で職爭初期の1938年(27.1)及び39年(26.6)の両年を除き1900年(明治33年)以降最低の率である。しかしこの率も主要國の1949年の一般出生率に比べると相當高率である。(英17.0,伊20.0,佛21.0,米24.0)出生の減少に件い人口の自然増加数も減少し,50年は1,448,055人で24年より約30萬人(約17%)の減少,率でも21.3より17.4と低下し前年に比べ自然増加の速度が弱まつてきた。しかし戰後の顯著な死亡の減少改善により戰前の水準よりなお相當高い。(第1表及び第1圖参照)

公衆衞生學教室めぐり・7

東京醫科齒科大學

ページ範囲:P.41 - P.41

省線お茶の水驛を降りると,眼の前に殺風景な白いビルが見える。これが東京醫科齒科大學の本館で,公衆衞生學教室と共にその二階の東端にある。教室といつても,わづかに一部屋で,入口には相澤教授室という看板がでているきりで,公衆衞生學教室という名前は何處にもない。聞くところによると,當大學にはまだ公衆衞生學の教授の席がなく,止むを得ず齒學部の教授の席を流用したためということで,そういう意味ではこの大學には公衆衞生學教室はないともいえるわけである

醫藥隨想

公衆衞生の實未だしか/研究の樂しみ

著者: 土屋忠良

ページ範囲:P.42 - P.43

 由來,我が國に在りては,夏になると,蚊や蠅が出てくるものだ。蚤や風が居らなきや夏じやない……と,さもこうしたものの居るのが當然のことのように考えられる者の未だ餘りにも多くあることは否めない事實である。
 それかあらぬか,終戰間もないある晩春の頃に,DDTを室から飛行機で撒布されてビツクリしたり,大きな噴霧器で,ケロシンをドブやセギにプープー吹きかけられて,成る程なあと感心させられたり,戰爭中各家庭に備えつけさせられた貯水槽には土を入れ,野菜を栽培せよ竹の切り株や墓石の花立に水を溜めておくとボーフラが發生するから直に砂をつめよと教えられ,お蔭で此の夏は蚊帳もつらずに相すんだ。風や蚤にも咬まれずに樂をしたと大喜をした吾々であつたが,咽喉もとすぎれば熱さを忘れるの醫にもれず,昨今では,何うやら衞生當局者の鼠族昆虫驅除方策の掛け聲をも,うわの室で聞き流して居られる方々が相當に殖えたらしい傾向にあることは,昨今の實情が雄辯に之を物語つている。

グラビヤ解説

模範的な堆肥小屋/屎尿分離處理

著者: 水島治夫

ページ範囲:P.43 - P.43

 宮崎市南方地方では,各農家が圖のような立派な堆肥小屋を持つている。`たいてい間口3間,奥行2間,間口の中央に入口があり,地上約1.5mは石壁,その上は板壁。堆肥,藁,雜草などを30cm位の厚さに積み,その上に屎尿をふりまき,さらに堆肥,藁などを積み重ね,屎尿をふりまく。かくて層々積み重ね1.5m位にする。すると間もなく盛んに醗酵が起り,數日目には内部の温度が60-70-80℃に上る。2週間もすると容積は小さくなる。そのころ切り返し,内外上下をよく混じ,風呂水,數所水などをかけて高温による乾燥を防ぐ。數ヵ月間に數回切り返しを行うと,藁や草の原形は止めぬボロボロの土のようになる。これを肥料として用いる。蛔虫卵の如きも醗酵による高温のため完全に殺されてしまうチフス菌や赤痢菌の如きは,絶滅されること疑いない。この村の農家は,自家農家の糞便は全部堆肥に混じ,糞便そのものを肥料として用いない。そのため蛔虫の寄生率は全村で20%に過ぎぬ。この20%の寄生者は,主として農家や引揚者などで堆肥小屋がなく,糞便をそのまゝ肥料とするものである。便所が滿ちると,糞便を」こやし溜め」に貯えておいて,堆肥を作る時まぜるから,それまでの間,ハイなどによる危險は免れない。
 日本の全農家が,糞便をこのようにして堆肥に混じて肥料とすることにし,糞便をそのまゝ肥料とすることを止めれば,蛔虫撲滅は大いに達成されるだろうと思う。

保健所便り・6

武藏野の砧保健所(上)

ページ範囲:P.44 - P.45

 バスは春雨の斷續する武藏野をバシヤバシヤ走つて,東寶撮影所前に着いた。
 I先生に砧保健所のルポを依頼されて,早のみこみに飛び出したものゝ,砧保健所がどこにあるやらサツパリ見當がつかない。宰いバスの停留所の前に「優」の認定書を掲げている肉屋があつたので,道を尋ねた。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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