icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生10巻5号

1951年11月発行

雑誌目次

主張

厚生省の衞生教育に希望する

著者:

ページ範囲:P.194 - P.194

 こんどのBCG騒動,行政整理,機構改革と,厚生省を吹きまくつた一連の颱風は,厚生省の技術官僚えの最上の教訓であつた。教訓というには餘りにも高價な犠牲を伴つたけれども,しかし彼らが謙虚な態度で,この颱風の教訓を味得するならば,大きな收獲を將來に期待しうるであろう。そしてそれが第二,第三の颱風への防波堤の礎石となるであろう。「災害は忘れられたころに來る」という重言をこゝに確認しておこう。
 いかに立派な,意味の深い仕事をやつていても,その仕事を民衆に理解させ,愛させる努力を常日頃拂つておかないと近ごろの無責任な政治家たちの獨善的な思いつきで,一たまりもなく潰されるであろうし,潰されるさまを實は當の被害者であるはずの民衆まで,けろりとして見送るであろうという教訓である。これはおそろしいことだ。技術官僚にとつても悲劇であるが,實は民衆にとつて最も悲劇的である。悲劇の主人公たちが,自分たちが自分たちの配役と運命を自覺しないから,一そう深刻である。

--------------------

最近のスポーツ生理學の研究

著者: 猪飼道夫

ページ範囲:P.195 - P.199

スポーツの體育的意義
 體育で行う身體運動は身體を通しての教育という目的を持つて設計され,指導されている。これに對してスボーツはその起源を異にし人間のplayの要求のあらわれといわれる。しかがつてスポーツは必ずしも體育的に有意義とは限らず,健康を害することさえ見られている。體育の方法としての身體運動は多くはスポーツの樣式をとり入れている。その理由の一つとして考えられることは,スポーツが人間本來の要求によるものであることから,その樣式を採用することが人間の肉體的及び精神的に適合すると推定されることである。スポーツが人間の活動力を高め,社會性を増すことに有利であると言われるが,スポーツの存在價値は,體育的に用いられてはじめて一段と高められるものであり,健康の保持,増進に役立つことが第一條件である。
 こゝに私見を述べるならば,疾病人を對象とするものが醫學であるならば,人間の環境をよくする分野が公衆衞生學であり,健康人の體力(身體的精神的能力)を保持,増進する分野を分擔するものが體育學であると考えられる。スポーツは體育學以前のものであるが,近代のスポーツは體育的に處方され,體力に應じて與えられなければならない。そのためには諸種のスポーツの身體に與える生理學的攣化を検索し,性及び民族と年令に應じた最適の強度のスボーツの種目を選定するように進められなければならない。

スポーツと健康管理

著者: 齋藤一男

ページ範囲:P.200 - P.202

 生きているものは,時に病み,遂には死す。これは人間がこの世に出てきて以來,動かすべからざる原則である。所が偶々有名なる運動選手が病んだ場合,最近では來年度の世界オリンピツク候補者の杉村孃の結核性の腦膜炎(合宿練習中の發病)スケートの内藤君の肺疾患等特に聲を大にして報道している。そして,いかにもあり得べからざることが出來上つた樣に一般は考え勝ちである。先には日本に於ける世界選手權の保持者人見孃が死んだ場合も意外のことの樣に報道されたことがあり,世間もびつくりし又おしみもした。然し自分等の醫學的常識からすれば當然だと,いかにもそつけない樣な返事をせざるを得ない。人見孃の場合は巡廻コーチをして歩いている間に風邪を引き,遂に肺炎になつた(今の樣にペニシリンもチアゾールもない時代)それでも元氣(?)に吸入器とメガホンを持つて各地を巡廻コーチをしている間に遂に立てないで死の道を選んで了つた。如何に大きな體格でも如何に丈夫な内臓でも(選手になる位のスポーツマンは一股に運動をするのには,誠に都合よき體つきになっているが,所謂病氣と云うものに對して,果して強い内臓をもつているかどうかは既にスポーツ醫學的には研究され,残念乍ら殊に練習中等は都合よく出來ていない體質となっている)醫學の教うる安静を主とする肺炎に歩き廻ったのでは自然科學の神樣は怒るであろうかくしてお氣の毒にも一般教養の不足から夭折されて了つたのだと當時報告したことがある。

優生結婚は何故必要か

著者: 川上光雄

ページ範囲:P.203 - P.205

 公衆衞生の力に依り近年死亡率が著しく低下して來たことは誠に喜びに堪えないが,反面人口問題の見地から云えば自然増加率の著増となり,その對策として産兒調節の必要が叫ばれるに至つた。ところが昭和24年の公衆衞生院人口學部の調査によると,受胎調節を行つている夫の教育程度は,大學卒業者に於て30%,專門學校卒業者に於て27%,中學卒業者に於て19%と教育程度に比例して低下し,小學校卒業者では僅か0.8%だけが實行していると云う結果が出ている。この儘放置して産兒制限を續けるならば,優秀者だけが減つて民族素質の低下が火を見るよりも明らかだと云う心配がある。そこで,民族の素質を低下させることなく,しかも量を制限する方法として婚姻形態上第1圖の如く對等者同志の婚姻を漿働し,優秀者の子孫を確保すると共に,優生學的に見て好ましからざる素質者にはより以上の産兒調節の普及を計ることが適當である。
 然らば現實の社會に於てどの程度に對等者同志の婚姻が行われているか。先ず婚姻の際配偶者の教育程度がどの位重要視されているかを観察して見た。昭和23年の神奈川保健所管内の婚姻票を使用し夫妻間の教育程度の相關を計算するとγ=0.62…となる。

結核豫防を主としたる集團檢診と採用時體格檢査

著者: 富田信雄

ページ範囲:P.206 - P.207

會社,工場から結核を撲滅するには次の三原則を正しく些の妥協も,手を省く事もなく熱心にやる必要が有る。即ち①感染源の仕末②未感染陰性者に對する感染發病の阻止③結核容疑者の入社採用の遮斷
 で有る。定時健康診斷に際して全員洩れなく検査を受ける樣に仕向け,陰性,陽性を問わず全員35ミリ間接撮影を行う。第一日にツベルクリンをやり第二日に是を検査して陽性者を間接撮影すると云う事は,全員を前後2回も職場を離職させるので能率の低下を意味する。又,反應検査にも誤差は必ず附き物で有る爲に全員の撮影を行つた方が網からのコボレは少い。35ミリで500名の人を90分位で撮影する樣に馴れねばならない。其點6×6判は速度の點で不充分である。斯くして精密検査を必要とする者を發見して更に是等の人を全部必ず透視を行つて病巣の位置を確め病巣の位置如何に從つて直接撮影を行うに際し其方向を夫々病巣の位置に從い最良の方向で撮影する。書一的背腹方向撮影のみでは病巣を見逃す事が決して少くたいからである。體格測度や其他の測定,赤沈検査は勿論同時に行う。而して得たる資料を検討して被検者を次の群に分ける。

榮養學の領域に於けるビタミンBに關する研究

著者: 西尾雅七

ページ範囲:P.208 - P.210

 今日ビタミンB群と呼ばれているビタミンはビタミンB1(Thiamin)ビタミンB2(Riboflavin)ビクミンB6(Pyridoxin)ニコチン酸或はニコチンアミド(Niacin or Niacinatmide)パントテン酸(Pantothenic acid)ビオチン(Biotin)コリン(Choline)イノシット(lnositol)パラアミノ安息香酸(P-Aminobenzoic acid)ビタミンL(Lactation factor)葉酸(Folio Acid)ビタミンB12等にある。之等のビタミンがB群として集約されている理由は何れもが水溶性であること肝臓,酵母,穀類に存在すること,生體内に於て酸素系の補酵素或は活性剤として作用すること,更には微生物の成長を促進すること等の共通した性質を有するか6である。恐らくB群の殆んどが人間の榮養に缺くことの出來ないものであろうが我々が食物によつて補給を計らなければならないことが判然としているのはB1B2及び葉酸位であろう。換言すると之等のものが食物中から缺けると夫々特有な缺乏状を現わすのである。尤もニコチン酸はペラグラの豫防因子として認められており,事實ペラグラの治療に效果を擧げるのであるが,最近玉蜀黍を常食する地域にペラグラの多いことはニコチン酸の缺乏だけでは説明出來ないとの報告がある。

本學に於ける衞生學及び公衆衞生學教育カリキュラム

著者: 堀内一彌

ページ範囲:P.234 - P.236

 私どもの醫科大學は創立以來未だ4年に滿たない。したがつて私のこの大學に於ける經驗も未だ一定の型にはまつていない。
 元來この大學は戰時中の大阪市立醫專が醫大に昇格したものであつて,その時のこの大學の特長として公衆衞生方面を大いに伸ばして行こうということであつた。そこで私も木下良順前學長の意氣込みに惚れこんで,昭和24年春に着任したのであつたが,その後は我國一般の經濟状態が良好でなかつた上,昭和25年9月には臺風の襲來をうけて,大阪市は膨大な赤字に悩むこととなり,あれやこれやで私どもの考えの1/5も未だ實現されていない。しかし私は當初の理想が實現不能というのでなくて,豫算の關係上實現がおくれていると考え,近い將來に於てこの大學が大きな發展をなすことを信じて疑わない。

公衆衞生落穗ひろい

ページ範囲:P.217 - P.217

手指に赤痢菌がついている
 神田のある本屋さんで,69人の赤痢患者が一時に發生した事件があつた。合計300人計りの店員中,3分の1が,この災厄を蒙むつたわけです。ところが面白いことには,此店には寄宿舎が3つありますが,第1宿舎から一番澤山患者を出しているのに,第3宿舎は,總數69名中,僅かに3名しか出ていない。食事はどつちが先かというと,第1宿舎が最初で,後は,第2,第3の順序です。そこで賄係の檢便をして見た所,6人の中,19歳になる娘さんが,赤痢保菌者であることが分りました。想像するに,この娘さんは,お便所に行つた後,そう念入りに手を洗わなかつたと思うのですが,此赤痢菌のために汚染された手で,「オシタシ」をこしらえたのです。所が,最初にこしらえた「オシタシ」を食べた第1宿舎員が最も多く患者になつた。第3宿舎店員の「オシタシ」を作る時分には,手も餘程きれいになつてしまつたので,第3宿舎から少ししか出なかつたのだと思われます。

時評

結核醫療費公費負擔制度

著者: 聖成稔

ページ範囲:P.211 - P.211

 新結核豫防法は去る4月1日實施になつたがその中醫療費の公益負擔に關する規定は半年の準備期間が置かれておつたので,愈々10月1日から實施に成るわけである。それで此の新しい制度について色々論じてみたい。
 結核患者が早期に發見されていながら初期には自覺症状等も強くない爲治療を怠り或は治療の必要性を理解しながら療養費や生活費等の經濟的制約を受けて醫療を受ける事が出來ず,病を進行させてしまう例は餘りにも多かつた。或は折角正しい治療を始め乍ら元來病氣が慢性的のものである爲急性の場合の様に目に見えて效果が現われぬ爲患者は種々迷つて誤つた療養に走る例も多い。

DDTとBHCの特性

著者: 鈴木猛

ページ範囲:P.212 - P.214

 長い間進歩が停滯していた殺虫剤の領域も第二次大戰を契機に,DDT,BHCのように微量で卓效ある有機合成剤があらわれ,一時は,昆虫と人間の闘爭も終末に近づいたかの觀があつた。しかし出現當時オールマイティのように思われたDDTも,その後の廣範綿密な實験によれば,ある種の害虫には效果が必ずしも十分でなく,又昆虫のDDTに對する抵抗性獲得という問題も最近漸くとりあげられてきている。一方,更に新しくChlordane,Aldrin,Dieldain TEPP,Parathionなど,鹽素,燐,硫黄を含む新有機殺虫剤が次々と發見され,まだまだ今後に意想外の強力な藥剤が見出されないとはいえない。しかし現在では,DDT,BHCは依然として衞生殺虫剤の中心をなすものであり,その長所短所を知つて,これを適切に應用することは,衞生害虫防除の上から甚だ重要なことであろう。
 DDT,BHCは何れも白色結晶状の有機鹽素化合物であり,昆虫には喰毒と接觸毒の兩方の作用を持つている。その外BHCは蒸氣壓がかなり大きいため,呼吸毒としても作用するようである。

我が保健所の年間計畫について

著者: 伊達富久

ページ範囲:P.215 - P.217

 保健所法が改正せられて5年目になる。其間保健所は新築,増員,業務の擴大等可成り目覺しい進展を示した。當初の保健所は出た釘を打つ樣な仕事で追い廻されて冷靜な判斷企畫のいとまもない感が強かつたが近來町村の衞生豫算が確立し衛生事業への理解も深まり又各種團體の活動も漸く活發となつて來たので保健所は今や衞生事業の中心として管内衛生事業の調整や保健所自ら行う衞生行事に計畫性のある活動が期待出來る樣になつた。殊に本年は新結核豫防法の實施あり,又農村でも寄生虫問題,受胎調節,鼠族昆虫驅除等に關する世論も起り保健所への期待は一段と高まりつつあるので此機運に乘じて可成り鋭敏な觀察と手廻しのよい對策をたて保健所の有する豫算並びに人の能力を最も有效に働かせることは吾々の使命であろう。
 茲に本誌のおすすめがあつたので我が岡山保健所の年間計畫を發表させて戴く。

研究報告

カルヂオライビン抗原による妊婦梅毒血清反應の成績

著者: 依田源次

ページ範囲:P.218 - P.219

 母子衞生の立場から妊婦の梅毒を出産前に發見するこ.とは極めて大切なことであるが,實際の問題として何等臨床症状もなく,既往症もないものに對し血清反應だけで診斷を下すことは不可能の場合があり,從來の諸檢査法の改良が望まれていた。幸に最近カルヂオライビンを抗原とした緒方法及び凝集法が發表され,その優秀さが證められたのでこの方法を妊婦血清に使用し次の如き結果を得た。
 檢査方法は緒方法(カルヂオライビン抗原使用ワッセルマン反應)と凝集法(カルヂオライビン抗原使用凝集反應)を夫々原法により實施し,對照として從來の村田法(重層)北研法(重層)を併用した。檢査對象は1950年10月〜1951年3月中に川崎市中央保健所を訪づれた妊婦1429名を選び,東大血清學教室が實施に當つた。

蠅撲滅に對する一方法

著者: 不破佐和子

ページ範囲:P.219 - P.221

緒言
 我が國には蠅によつて媒介される疾病が多數に存在しその病原體を含んでいる可能性の大きな屎尿その他の物が蠅の蝟集するまゝに放置されており,危險この上もない状態になつている。蠅は赤痢,コレラ,チフス,パラチフス等の消化器傳染病,結核化膿性疾患,癩,ペストヂフテリー等の傳染病,又蛔虫,十二指腸虫,肺ヂストマ等の寄生虫卵の媒介を行う。これら傳染病豫防對策の一つとしても蠅を驅除撲滅しなければならぬ。
 蠅の驅除には成虫を殺す方法。卵,幼虫の時代に殺す方法。更にこれを發生せしめない樣にする方法の三つが考えられる。勿論第三の蠅を發生せしめない方法が根本的であり,又理想である。これを目標として行わねばならぬ。しかし乍らこの發生を抑制する事は實際問題として100%完全に行う事は出來ぬから第二の方法が併用され,更に第一の方法が補助的に用いられる。私は最近蛆の化學藥剤及び殺虫剤に對する抵抗と死滅するまでの状態及び時間を觀察する機會を得たので,以下その實驗成績の概括を報告し,蠅撲滅に對する一方法としたいと思う。

工場作業疲勞と尿表面張力との關係

著者: 鳥取秋彦

ページ範囲:P.221 - P.222

 産業疲勞と尿表面張力との關係に就いては,八木,佐々木,松原氏等が紡績女工を對照として實驗しているが一定の成績を得るに至つていない。私は某農具製作工場の健康男子工員10名の工場作業前後の尿表面張力の消長を驗べた。

大根の腸内細菌吸收について

著者: 寺門賀

ページ範囲:P.222 - P.224

 植物が哺乳動物の病原菌を吸收するか否かについでの研究は寡聞僅かにKasparek1)が植物は脾脱疽菌の媒介物たりや否やと題し脾脱疽菌を數個の植木鉢に灌注した後大麥及小麥の種子を播き2,3ヵ月を經て土壤の細菌學的檢査を行つたところ表層部に至るまで芽胞を含み培養動物試驗とも陽性を示したが植物組織は陰性に終り植物組織中に細菌が侵入することはないと述べているのみである。
 而して余は大根の大部分が細菌を含有する事實を認めたので哺乳動物病原菌をも吸收するのではなかろうかと考え先づ大根について腸内細菌の吸收如何を實驗した。

石川縣門前町に於ける昭和菌赤痢の流行に就て

著者: 伊藤利一 ,   吉田耕

ページ範囲:P.224 - P.227

1.緒言
 昭和24年7月下旬から9月中旬にかけて,石川縣鳳至郡門前町を中心に下痢患者發生,赤痢疑似,赤痢,疫痢として届けられたもの44名に達した。本年は全國各地に昭和菌が多數檢出されて居るが,石川縣に於ける該菌による流行例として,その概要をこゝに發表する。

我が國農村の食生活改善についての一考察

著者: 玉城仁

ページ範囲:P.227 - P.228

 序 昭24年度國民榮養調査成績をあらわした「國民榮養の現状」(厚生省公衆衞生局榮養課)によつて,我が國農村の食生活特に蛋白質脂肪の攝取について現状を檢討し今後の改善指導の指針としたい考で2-3の考察をおこなつた。
 概觀 昭和24年に於ては都市農村其標準量にくらべれば劣つている點が多く,まだ滿足すべき域に達するには程遠いが,前年に比して全般的に稍改善されていることは喜んでいゝと思う。

所謂異型猩紅熱(假稱泉熱)の疫學的統計的觀察

著者: 澤田收 ,   鬼頭はるゑ

ページ範囲:P.229 - P.231

1.緒言
 所謂異型猩紅熱(假稱泉熱)及びその類似疾患に關しては,泉氏の昭和4年の記載を始めとして,齋藤氏,間島氏,伊澤氏,賀屋氏,平石氏,兒玉氏等多數の報告がある。殊に伊澤氏が本症を猩紅熱と區別し,一新獨立疾患と見做し,之を異型猩紅熱と呼稱して以來,學界の注目を惹くに至つた。名古屋地方においても既に當院院長落合博士始め先輩横井,飯田,柳澤,戸谷,横井,中島,廣渡氏等の報告がある。然しながらこれらの報告は何れも本症の集團,一流行性發生例に關するものであつて,散發例についての,疫學的統計報告は余の寡聞未だ之を知らない。當地において,落合院長により本症の存在が確認されたのは昭和17年であつて,余等は茲に昭和17年より昭和25年末に至る9年間に名古屋市立城東病院に入院した本症患者につき,疫學的統計的觀察を行つたので以下報告する。しかしながら,本症の病原體は今尚確定されず,これと普通猩紅熱との鑑別は非常に困難であるから本報告においては,猩紅熱の本態を,咽頭扁桃腺炎+溶連菌毒素中毒症とし,猩紅熱樣の發疹性熱性病で咽頭溶連菌陰性のものを一括して,異型猩紅熱として扱つた。

麻疹及び百日咳の疫學的調査—特に罹患者實數と屆出數との關係について

著者: 小宮山新一 ,   草間京子 ,   富井久子 ,   小濱泰子

ページ範囲:P.231 - P.233

 川崎市中央保健所管内に於ては昭和24年後半より25年にわたり百日咳の流行をみ,又26年2月より麻疹の流行をみたが(第1表)その罹患實數と屆出數との間に相當な差が考えられ,屆出數のみを以て地區の患者發生數と見做したならば疫學的に大きい誤りを冒す危險がある事を痛惑したので本年5月各種調査と併せ小兒傳染病中特に麻疹と百日咳を重點として實態調査をした調査の對象となつたのは川崎の西北に位する古市場という面積1.1平方粁人口7950を有する工員家族の住宅地で年齡構成の上からは10歳以下の小兒と30〜50歳の壯年層が多く比較的靑年層が小い特長を持つている。調査方法は市民臺帳から任意に抽出した500世帶を訪問し聽取りの上特定の用紙に記入する方法を用いた。

隨想

公衆衞生問題としての癌

著者: 松岡脩吉

ページ範囲:P.237 - P.237

 ある疾病が公衆衞生の問題として取りあげられるためにはいくらかの條件がある。比較的多くの壯年また若年人口の健康從つて活動力を害し,しかも生命をおびやかす危險の多いものほど問題となり,豫防措置として組織的な公共活動に頼るのが好都合であるものほど問題となる。癌及びその他の惡性腫瘍がアメリカで特に問題となつているのは,それによる死亡率が全人口の死因別死亡率順位の上で第2位を占めるくらい高いことによつている。わが國でも40才以上の人口では,これがやはり第2位を占めている。しかも癌は,それをそのまゝ放置しておけば,あまり長くない期間内で必ず致命的であるというおそろしい疾患でもある。しかし,現在のわれわれの手段では全く豫防不能であれば,それは一應公衆衞生の問題とならない。一般の癌發生の原因が充分に明らかでない現在,發生を豫防する方法は講じえないけれども發生した癌が進行惡化して死を招かせるのを豫防することはできる。それはつまり早期發見とそれに續く早期手術である。こういう意味で癌も公衆衞生の問題となるわけであるが,この點がひろく徹底しないと問題にはなつてこない。
 わが國の癌及びその他の惡性腫瘍による死亡率は,戰前戰後とも人口10萬につき大體70前後であつて,著しい變化はない。死因別死亡率順位では戰前7で續いたのが,戰後6(昭22),5(昭23,24),4(昭25)と上つた。これは他の原因による死亡率が低下したゝめである。

保健所便り・8

—由緒の舊い—所澤保健所

ページ範囲:P.238 - P.239

 東京の芝白金臺町に現在その偉容を誇つている公衆衞生院の歴史を知る者には,所澤保健所といえば忘れられない名前であろう。それは昭和12年ロックフェラー財團の寄附によつて公衆衞生院が設立せられた時に,その實地訓練機關として今の所澤保健所,元の名前でいえば特別衛生地區農村保健館が同時に誕生したからである。「この保健館の開設は,日本における本格的な保健所活動の最初の試みであり,日本のその後の衞生行政の方向を示すものとして極めて重要な意義をもつていたそしてこれが今日の保健所事業の基礎となつたことはいうまでもない。」とは厚生省發行の保健所便覽中にある一節である。現在は勿論埼玉縣の一保健所に過ぎないが,常に各方面から關心をもたれていることは事實てあろう。
 少し前置きが長くなり過ぎたので,早速現在の所澤保健所を訪ねてみよう。東京の高田馬場から西武電車に乘ると,昔懐しい武藏野平野を走ること僅か45分で所澤につく。

公衆衞生學教室めぐり・9

新潟大學

著者:

ページ範囲:P.210 - P.210

 新潟大學醫學部公衆衞生學教室は,昭和24年6月に開設された。初代の現教授小坂隆雄博士が決定されるまで同學部衞生學教室の及川教授が公衆衞生の講義を擔當されていたが,昭和25年9月教室の建物も完成し,新任の小坂教授を擁して同教室の活動は漸くその緒についたのである。
 目下,小坂教授のもとに,研究を進めている學徒の數は20數名に及び,研究の領域も極めて廣汎に亘つているが,殊に體質の研究に專念されており,その業績は大いにかつ目される。―とこんな紹介は、洵に月並で教室の特色をつたえるにはあまりに儀禮的でしかない。もつと教室のなまの姿を,そのものずばりで月且して見たいのであるが,それは決して容易なわざではないので,以下述べるところ,云い過ぎや,誤解をまねくおそれのある點があつたら,第三者のおかめ八目として切に寛容を乞いたい。

海外文献

甲状線肥大の原因としてのあぶらな,はぼたん/條虫の治療藥としてのAtabrine

著者:

ページ範囲:P.199 - P.199

 古くからキャペッ,カブ,大豆,南京豆が甲状腺肥大と關係のあることが氣付かれていた。或る種の植物には甲状腺の機能低下をおこすチオウレアが含まれている(マメ科,キンレンクワ屬)
 最近Ⅰ131の同位元素を用いて效力を檢定しつつ,アブラナ等の有效成分の分離が試みられて成功した。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら