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珪肺概説
著者: 山本幹夫1
所属機関: 1順天堂醫科大學公衆衞生學教室
ページ範囲:P.243 - P.252
文献購入ページに移動珪肺は鑛山や工場等にかなり多數に見出される職業病である。Hippocrates(前460-377)の當時から既に注意されていたと云われているが,その臨床等について,はつきりした研究が生れて來たのは,歐米でもRobert Koch(1882),が結核菌を發見,次でX線が珪肺研究に用いられる樣になつて(1916)からと云えよう。それ以前にも,病理學的研究が實施され,又統計的調査がなされたが,X線が用いられる以前の報告では殊に臨床的研究については肺結核との混同が豫想せられる1)。
珪肺は珪酸粉じんの多量に存在する職場に發生する事は後述するが,かゝる職場は非常に多く,從つて從事する勞働者の數も數十萬にのぼるものと豫想される2)。かゝる職場に數年乃至十數年勤務する事により,かなり高率に發生し,從つて該當する産業の基幹勞働者の間には相當數の罹患者があるものと考えられる4)。又一度出來た珪肺性の組織は治療によつて恢復出來ないだけでなく,慢性經過をたどつて,途に豫後不良にて死亡する場合が多いため,本人並びに周圍の經濟的負擔は莫大なものである,(珪肺患者一人の治療その他に要する費用は,保險給付等直接は必要なもののみでも150萬圓と推定される)。又この豫防に對する必要な經費,資材も莫大である。之等の理由により,珪肺は現在では金屬山,窯業工場,或地方の石炭山等に於て,産業政策上,社會政策上又人道上の大問題となつた。
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