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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生11巻3号

1952年03月発行

雑誌目次

論説

保健所の能率化

著者: 小谷新太郞

ページ範囲:P.2 - P.2

 終戰後間もなくわが國の衞生行政機構は早急に強化された。その一環をなす保健研の整備擴充が計畫されて,保健所法も改正せられた。從來保健所は,疾病豫防の指導のためのクリニックが主體となつていたが,保健所法の改正に伴い,疾病豫防のみならず,廣く公衆衞生向上のために,諸施策を實施する地方第一線の衞生行政機關となつた。更に各種の公衆衞生の法律も或は新しくつくられ,或は改正されたのであるが,これらの法律の實施には保健所がその中心をなすようになつてきた。例えば食品衞生監視,環境衞生監視と云つたような業務も,保健所に加えられてきた。つまり保健所は綜合された公衆衞生施策を實施する機關となり,このために保健所に課せられた業務の増加は,極めて大なるものであつた。これらの仕事を處理するために,保健所の増設,職員の増加が計畫され,事實この數カ年間に於ける保健所の整備擴充は注目に値するものである。今日では到るところに,立派な保健所がみられ,その地方の公衆衞生向上の象徴となつていることは誠に喜ばしいことである。
 併しながら,保健所の建物は立派になつたが,その内容はこれに伴わないと非難をうけることもないではない。職員の定員を増しても今日では仲々,人が入つて來なかつた。關係者の最大の努力にも拘らず,保健所の醫師職員は仲々充足されなかつた。醫師のいない保健所さえあつた。今日この状態は逐次改善されてきているが,醫師職員の充足はなお不充分である。

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受胎調節の普及實施要領の解説

著者: 齋藤鐐一

ページ範囲:P.3 - P.5

1.方針
 最近人工妊娠中絶は増加の傾向にあり,その母體の生命及び健康に及ぼす影響は,相當に考慮すべきものがあるので次のような方法により,公衆術生の見地から積極的に受胎調節の普及を行い,國民の福祉及び,資質の向上をはかるものとする。
 敗戰による社會的經濟的混亂が,個人生活を極度に壓迫し,貧困化し,このことが社會の秩序を益々混亂させた。この個人生活の困窮化と,必然的に起り得る身體的な障害のために,優生保護法制定以來驚くべき勢で以て,人工妊娠中絶が増加して來た。日本の死産率は,戰前より漸減の傾向にあつたのであるが,昭和24年來,再び増加の傾向を示すに至つたのは,文明國家としておはずかしい有樣である。而も自然死産率は殆ど増加を示さす,死亡率の増加は,人工妊娠中絶の増加によるものと認められる。人工妊娠中絶は,母體の主命及び健康を保護するために,必要であることが,優生保護法によつて認められたけれども,人工妊娠中絶による母體への惡影響は,輕視出來ない状況である。妊娠しては身體のためにいけない母親が,受胎調節を知らないことは,恐るべき悲哀である。このような世の多くの母親が負擔しなければならなかつた影響を排除するために,受胎調節の普及を計ることは,公衆衞生上誠に妥當な方策であると考えられる。

岩手縣の醫療公營

著者: 齋藤俊保

ページ範囲:P.6 - P.10

1.縣立醫療施設の前身とその統合の經緯
 元來原始的産業經濟状態にある本縣には自由企業としての私的醫療機關が發達していなかつた。
 そこへ昭和6年の全國的農村恐慌にあい,單作寒冷地帶の本縣は殊のほかの打撃を受けた事は申すまでもなく,そのためさなきだに醫療費負擔に堪えかねていた農民は,益々醫療に惠まれない状態となり,この事實は農民の協同運動による自衞組織としての産業組合法による醫療利用事業の推進を促したことは見易いことである。

消毒藥としての逆性石鹸(其1)

著者: 增山忠俊

ページ範囲:P.11 - P.19

緒論
 消毒藥を取扱う人々の眞先に考える事は其消毒藥の性状である。又性状には諸々の條項が言われているが,吾人の最關心を持つものとしては謂所安定度1)である。吾等の言の所の安定度とは消毒藥が種々のMediumの中で其殺菌效力の變動を來たさない事を言う。即ち具體的に言うと蒸留水中の試驗即ち基礎實驗に於ける殺菌效力も糞便加實驗に於ける成績も將又有機物實驗,或は硬水中に於ける成績も餘り變動を來たさないものを言うのである。之は一寸簡單に見えるが仲々難しい事で極端なのは鹽素剤で極少量の有機物添加でも勿ち其殺菌效力は激減してしまう。一般に種々の有機消毒剤の石鹸液の如きはEmulsoidであるので糞便添加等では吸着等のphysico-chemicalな條件に大きく影響されて殺菌效力が低下するものが多い。
 是等安定度を大ならしめるにはどうしたらよいであろうか。多くの消毒藥研究者及び消毒藥製造家の苦心する所である。

猩紅熱に關する最近の諸問題

著者: 宮入正人 ,   石田信廣 ,   山下章 ,   兒玉威 ,   上田揆一 ,   内田三千太郎

ページ範囲:P.21 - P.22

 狸紅熱は第12回疫學集談會(昭和25年10月)に於いてすでに一度取上げられたが最近泉熱に關する研究が各方面で行われるに及び凡ゆる部面で狽紅熱と相對比する要があるので今回再び上述の諸氏により狸紅熱に閣する問題の所在を提示して頂く事にした。

抗生物質劑の適應症と使用法

著者: 鳥居敏雄

ページ範囲:P.40 - P.47

1.まえがき
 現在我國で用いられている抗生物質剤は,ペニシリンストレプトマイシン,クロロマイセチン,オーレオマイシン,テラマイシン,コリスチン等で,そのうち國内で生産されるものペニシリン,ストレプトマイシン,コリスチンで他は輸入品である。
 これ等の藥剤の病原菌に對する作用,化學的性質,人體における吸收,排泄及び破壞作用は夫々異つており,これらの特徴により適應症,使用法が決定されるわけである。本文においてはこれらの概略について述べることにする。

時評

受胎調節閣議了解決定以前

ページ範囲:P.20 - P.20

 明治維新によつて,徳川時代迄續いた封建制度を,打開する第一歩が踏出されて以來,近代資本主義への一本道を歩んで來た日本の人口は,明治5年(約3500萬人)より,昭和10年(約7000萬人)迄に,2倍に達する著しい膨脹をとげた。この恐るべき人口増加に,綜合的な國力の發展が相應じられなかつたために,特に後半に於て日本は,その解決を求めて苦惱の道を進まざるを得なかつた。而も民族發展の一基盤として,人口の増加を求めながら,人口の増加による社會的,經濟的壓迫を,國内で處理し得ずして,又意識的に,國外に解決の糸口を求めようとして,昭和初頭以來の失敗の道を歩かせた。
 封建時代の昔,食ぶちをへらすために,堕胎が民間に於て盛に行われ,明治,大正の時代となつても絶えなかつた。それは個人自身或は家族自體の社會的な,經濟的な問題を,解決するためとられた手段であつた。それが生活文化の向上に伴つて,漸次受胎調節の方向にむけられて來たのは當然の姿である。サンガー夫人の來朝と共に,この受胎調節が社會に大きく反響をよんだ。然し殘念ながら,まだ受胎調節を受入れるだけの,社會一般の準備が十分でなかつたために,普及が遲々として進まない内に,日本は滿洲事變より支那事變に突入するに至つて,むしろ生めよ殖やせよの一色で塗られてしまつた。それが終戰によつて,一大變換を來さざるを得なくなつたのである。

研究報告

新生兒期の體熱

著者: 倉田正一 ,   船津雄三 ,   石塚壽男

ページ範囲:P.25 - P.28

 成人とは著しく異つて,母體内から初めて外部環境に曝される新生兒は,どのような體熱の動きを示すであろうか。著者は生後約1週間の新生兒を通じて觀察をすすめた。

靑酸ガス中毒死事件の環境調査報告

著者: 南條準 ,   中村章義 ,   江場悟

ページ範囲:P.28 - P.29

1.經過の概要
 筆者は今回靑酸ガス中毒死事件の環境に關し裁判化學的鑑定の機を得たので茲にその概要を報告して各位の參考に資したいと思う。一般に船舶は國際衞生條約及海港檢疫法により主としてペスト豫防の見地より定期的に除鼠を行う樣規定されている。本件發生時N港に入港したR丸(742噸)は1950年2月19日午後3時30分より約2時間ボンベより靑酸ガスを放出して薫蒸する方法により除鼠を施行。
 5時半頃船内各室を開放し,除鼠作業を受持つたTは午後6時順より靑酸試驗紙(醋酸ベンチジン法)を用いて30分毎に4回檢知を行つた。第4回目の檢的は7時半頃(稍うす暗し)であつたがこの檢知により靑酸の殘留なしと判定,この旨H檢疫員に報告した。報告を受けたHは之を過信して資材による檢知を行わず,全般内を約20分間臭覺のみにより巡檢しガス無しと判定し船員に乘船入室を許可した處,偶々機關長室に就寢した機關長E氏が翌朝屍體となつて發見され屍體檢察の結果によれば腹部一帶及右手の一部に赤紫色の死斑を認め靑酸による中毒死と判定された。(名大法醫學死因調査室)

昭和26年度(1月〜11月)名古屋市に於ける赤痢菌健康保菌者に就いて

著者: 西宮一 ,   士平一義 ,   中村龍夫

ページ範囲:P.29 - P.31

1.序論
 本年は全國的に赤痢が猛威を揮い各地でこれに就いて種々檢索がなされ夫々發表が行われている。名古屋市に於いても昨年以來赤痢が増加の傾向にあるので吾々は本年は赤痢菌檢索に重點を指向して檢便を實施して來た。現在12月に入るも未だに夏期最盛期より尾をひいて完全な終熄を示していないのであるが,主として實施して來た保菌者檢索が一段落したので茲に本年1月から11月迄の當研究所に於ける檢査成績を取まとめて各位の御參考に供したいと思う。

衞生教育とその評價—寄生虫豫防の問題について その1

著者: 小泉明

ページ範囲:P.31 - P.33

 最近衞生教育は公衆衞生事業のうちでもとくに大きくとりあげられてきており,それに關する報告も日を追つてその數をみつつある。1)2)3)4)5)しかしながらその多くは主として急性,慢性の傳染病に關するものであつて,わが國公衆衞生の現状では見のがすことのできない寄生蟲豫防を,とくに衞生教育とその評價という觀點からとりあつかつたものは,行政的にも要請が大きいことを考えるとき,十分にそれにこたえられる程の數を得ていないかにみうけられる。
 著者の所屬する教室では,過般來某金層鉱業の從業員を對象としての健康管理をおこなつており,その手はじめとして目下寄生蟲豫防對策を實施中であるが,これと併行し各鉱業所において,映畫,スライド,ポスター,壁新聞,鉱業所内アナウンス,座談會等のほか,社宅地區の家庭訪問等の方法によつて各種の衞生教育をこころみつつある。その際從業員あるいはその家族の寄生蟲豫防に對する關心の程度,あるいはその衞生知識の水準を把握することは寄生蟲豫防對策それ自體にとつても有意義かつ必要であろうとの考の下に,衞生教育における評價Evaluationの問題を中心として次に述べる調査をおこなつた。

埼玉縣における鈎蟲の蔓延について

著者: 小宮義孝 ,   相崎德治郞

ページ範囲:P.33 - P.36

 昭和24年の寄生蟲保卵者全國統計によれば,蛔蟲保卵者率48.1%に比して,鈎蟲のそれは3.7%に著しく低く,埼玉縣においてもこの關係は蛔蟲の56.3%比して1.7%低率を示している。しかるに高崎氏(1935)は,大正13年-昭和7年にいたる9年間に,埼玉縣各地において,矢尾板氏法により,685,913人に檢便を行い,その34.7%(内譯:北埼47.1%,南埼44.8%,北葛42.2%,北足立38.8%,比企34.4%,兒玉30.8%,大里30.2%,入間27.8%,秩父16.8%,川越市8.2%)の高率を認めている。この兩者の比率の食い違いは,おそらく主として檢査法の差異によるものと考えられる。筆者たちは最近北埼行田保健所所管内で鈎蟲卵檢査を行い,相當高率を示すことを認めたので,以下かんたんにその結果を報告する。

竹箸採便に依る赤痢菌檢出率向上に關する研究

著者: 矢吹陸郞 ,   菊地浩

ページ範囲:P.37 - P.39

1.緒言
 赤痢菌の培養培地の研究は幾多の學者に依つて行われ最近はSS培地の發見と其の實地應用に依つて著明な成果を學げているが,採便法の研究檢討は有窓硝子棒の使用や病院施設等に於て新鮮排便中の粘膿を選擇的に採取培養せる程度に止まり,殆ど等閑に附されて來たと言つても過言ではない。
 吾々は昭和25年夏の防疫に於て本縣相馬郡大館村赤痢集團發生の際從來使用していた採便用硝子棒が不足したので,竹製丸著を用いたところ菌檢出率が良好であることを知つたので,昭和26年は當初より之を使用して聊か見るべき成果を得たのでこゝに報告し大方の批判追試を仰ぎ度い。

醫藥隨想

一筆啓上

著者: 戸田正三

ページ範囲:P.23 - P.24

 某佛哲は,「樂しみは春の櫻に秋の月家内息災3度食う飯」と歌つた。これは,思想も,經濟も政治も,文化も,風の吹きまわしで,ぐらついている今のわが社會には,かような人生觀は,或は良い處方箋であるかもしれぬ。
 この歌の意味を勝手に銓議すると,今,私の目前に吹きすさんでいる北陸の嵐も,やがて春風駘蕩春爛漫,兼六公園にある數百種の櫻花の前徴とも見える。また日本個有の夏の蒸暑さも,われらの力源,秋收冬藏のためと思えば事足る。要するにこの歌は四季の變化に富んだ我國においては,その變化を樂しみ,その自然に順應しつつ,それを我身に服合して,自己の生活の安定と社會の平和を希求した概念のように讀める。中にも,家内息災三度食う飯は,今の日本の生活水準では,健康で文化的な生活運營の最低基盤であるとみてよい。

海外文献

アメリカにおける公衆衞生檢査從事者の教育と經驗,他

ページ範囲:P.24 - P.24

アメリカの公衆衞生分野において檢査從事者の占める地位は,公衆衞生協會の構成員が衞生官(MedicalOfficer)についで大きなものであることからも推察出來る。衞生檢査は傳染病,中毒の防止という見地から更に進んで,民衆の中の無自覺性の疾病を發見する方向に進んで來ており公衆衞生分野を新しく開拓しつつある。(Multiple Screening)
 その對象は細菌,血清,病理,化學等にわたり,日常の業務を實施すると共に,常に新らしい研究に向つて進んでいる。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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