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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生11巻6号

1952年06月発行

雑誌目次

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フランスの保健所と結核豫防事業

著者: 北本治

ページ範囲:P.3 - P.8

 フランスの結核死亡率は1918年には當時の日本よりも高く,人口10萬人に對し,約275という高率を示したのであるが,1950年には57の低率に減じている。我國がなお170〜180を低迷しているのに比べると同じ年月の間に我國より著しい減少を示している。
 これには諸種の因子が與つているが,結核對策に注がれた官民の多大の努力のあつたことは疑えない。

新殺虫剤パラチオン其他の中毒と豫防—本年直面する産業衞生上の新問題

著者: 上田喜一

ページ範囲:P.9 - P.14

 食糧増産の國策に沿つて,稻の害虫螟虫を驅除することによつて約5%,即ち300萬石を浮かせようとして,今年の初夏から新しい殺虫劑を相當大規模に應用する方針が決定された。此のParathionは極めて強力な萬能殺虫劑ではあるが,又それだけに人畜に對しても猛毒であり,殊に有毒藥劑の取扱に對して科學的訓練を受けていない農民が,豫防具等を用いにくい暑い時期に使用するのであるから,日本全國にわたる大規模な中毒が續發する危險が豫想される。これを豫防する爲には公衆衞生の第一線に働く人々の十分な知識と細心の指導が必要であり,中毒が發生した後患者を死から救う爲には開業醫其他現場に最も近い臨床家の活動が何よりも大切なことになる。本誌の性質上ここには特に豫防の面について米國其他の經驗を紹介して現在一應確立されている科學的對策を知つていただこうと思う。

食品衞生監視に於ける現場檢査法及器具

著者: 末永泉二

ページ範囲:P.18 - P.19

 食品衞生監視員が現場調査を行う場合觀察や判定はとかく主觀的になり易いために人によつて判定がまちまちになり勝ちである,この場合化學的或は細菌學的検査の結果を同時に得る事が出來れば衞生指導や判定が極めて公平に行えるであろうし業者を納得させる事も又容易になる事であろう。現場検査に赴く場含,對象に從い,必要な器材,試藥をその度にとりそろえる事は仲々億却なのであるが必要な器材が一まとめになつて手元にあると現場検査はかなり手輕に行えると思われる。即ち試驗器材のセツト化が現場試驗に必要である。Adams氏によるボルチモア市の食品衞生監視員携行器具の内容を簡單に紹介すると。
 革製カバンは次のようなものがいれてある。種々のカード,寒暖計,カン切り,食物採取器,寫眞器,食品試料採取用紙袋紙,スプーン水の採取用滅菌ビン,食品の細菌數検査用ふきとり棒とその容器,弗素,青酸化合物,カドミウム,砒素,亞硫酸,遊離鹽素検査用器具試藥,かき,カニ肉の腐敗検知用試藥等である。このセツトをそのまま眞似しても我國の現状には合わない。

イソニコチン酸ヒドラジツド

著者: 高部益男

ページ範囲:P.48 - P.48

I ニユース
 2月末「結核の新藥イソニコチン酸ヒドラジツド(以下「ヒドラヂツド」という。)」について報道陣が色めき立つて米國からのニユースとして大々的にこれを取扱つた。一方關係者は,比較的冷靜にこのニユースに對處し,さらに米國内の專問家及び關係製藥業者からの連絡により,その報道が時期尚早のものであることを知るに及んで,じつくり腰を落着けてこれに對處する方針がたてられた。
 しかしながら,患者關係者は,そう落つくわけには行かず,厚生省その他の關係機關に對する新藥關係の要請が殺到し,中には,動物實驗として自己の身體を提供する等の極端な者も現われた。厚生省としては,これを放置しておくのはいたずらに混亂を招きストレプトマイシンやテイビオンの紹介期に見たような無駄でもありある意味では有害でもあるような社會状勢を來すかも知れないと思われるに至つたので,至急,態度を決定することになつた。

時評

これからの食生活

著者: 有本邦太郎

ページ範囲:P.15 - P.15

 米の統制がはづされるかもしれぬという話もあったし食べようと思へば何んでも食べられる昨今の街の樣子から,食糧事情はよほどよさそうに思われるが實をいうと決して左樣にはよくない。もつとも終戰直後の極惡の状態からみればはるかによくなつてはいるが,自力でここまでになつたのではなく年々300萬トン餘りの食糧を海外から輸入しているのである。しかも我國では年に150萬もの人口が殖へている。現在人口を充分に養うことにすら事缺く我國の食糧は増加人口を賄つてゆくには相當の増加を必要とすることはいうまでもない。
 一方,これは食糧ばかりでないが物の絶體量の不足が主因をなして物價の値上りとなり,食物を例にとつても現に生計費の半ば以上をこれに費している有樣である。

醫學隨想

紡績衞生の今昔

著者: 南俊治

ページ範囲:P.16 - P.16

 つい此間のことさる醫大の教授達(衞生や公衆衞生關係ではなかつた)と同席した際,たまたま紡績工場の衞生問題にふれたが,此人達が紡績には相も變らず結核が多いんだと思つておられたのには驚きもし又少なからず殘念に思つた事であつた。だが考えてみれば直接には縁もゆかりもない紡績のこと,何も御承知ないのは無理もないといえばそれ迄の事ではあるが。
 處で綿糸紡績業はわが邦近代機械工場中最も古いものでそれが本格的の發展を遂げたのは日清戰後からであるが,此頃から徹夜業と結核とが識者の注意をひき始めた。それが大正2年石原修氏によつて公にされた女工と結核と多少の誇張はあるにせよ自己の體驗を基として劣惡な勞働條件や衞生状態を曝露した細井喜和藏氏の女工哀史とによつて紡績といえば結核,結核といえば先づ紡績という迄に世の多くの人々の腦裏深く植えつけられてしまつたといつてよかろう。當時農山村から募集せられてくる女子16,7才を最多とし,中には7,8才の弱年者も少なくなかつた。

特別講演

我國の結核豫防對策について

著者: 聖成稔

ページ範囲:P.4 - P.4

 戰後結核對策の進展にともなつて,結核死亡率は急激に減少し,昭和26年度は1〜6月の推計よりすれば,年間の結核死亡數は10萬を割ることが略々確實となり,從つて明治後以來わが國で死亡統計のある間絶えず死亡原因の首位をしめていた結核が,その位置を中枢神經系の血管損傷にゆずつて始めて2位に下る見通しが立つに至つた。かてて加えて靑少年層における結核死亡率の減少は目覺しく,この原因はにわかには判定出來ないにしても,戰時中から相當強力に實施されたわが國の結核對策が奏效したと見ることが出來よう。
 ときあたかも昭和26年4月1日より結核の豫防と適正な醫療を普及することを目的とし,從來の法的不備を整備し,進歩した近代醫學の活用を圖ると共に社會政策として患者の醫療費の輕減についても意を用いて立案された新しい結核豫防法が實施されることとなつた。しかし内容は如何にあろうとも實施にうつされてから日も淺いので,公衆衞生關係者の努力はもとより,各階層の協力を得て,この法律が一日も早く本格的な軌道にのることを願うものである。

研究報告

虫卵陽性率と驅虫藥服用間隔の關係—第1報

著者: 今井淸 ,   田邊東一 ,   細谷康朗 ,   武政政一 ,   富田一郞

ページ範囲:P.20 - P.22

 寄生虫驅虫の際驅虫藥をどの樣に用いたならば高度の驅虫が得られ,又その效果を持續することが出來るかは寄生虫豫防行政上極めて必要なことである。こゝに於て先づ驅虫藥服用間隔と虫卵陽性率との關係を蛔虫に就て検討した。

衛生テストに表われた衞生教育の實體(小中學校の部)

著者: 宇野修

ページ範囲:P.22 - P.24

 衞生行政の眞の有り方は「日常生活に於て,それが習慣になるまで衞生思想の普及徹底を計るのでなければならない」これは單に私のみの實感でなく,衞生面に携わる総ての人々の情熱であろう。この熱情があつてこそ,地味で,他の行政に比し決定的に第二義的取扱いを受けている衞生行政と,四ツに組んで,世界の續く限り未完成である任務に希望と生甲斐を感ずるのである。
 中央も,地方官廳も,此の衞生教育に力瘤を入れて既に久しい年月を經ている。總ての衞生機關を通じて,あらゆる人々に對して,教育面より又は實際面に十分浸透し盡されている譯である。

近江絹糸紡績會社大垣工場における集團赤痢の疫學的並びに臨床統計的觀察

著者: 臼井治郞

ページ範囲:P.24 - P.28

1.緒言
 昭和21年7月近江絹糸紡績會社大垣工場に發生した昭和菌並びに駒込BⅢ菌による赤痢の爆發々生について疫學的並びに臨床的に調査集計した成績を報告する。

公衆衞生上より見たるパチンコについて

著者: 石川義雄

ページ範囲:P.29 - P.31

1.序論
 近來非常な勢を以てパチンコが流行しているがこれに對する教育上又は取締上のことは教育委員會又は警察にゆだぬるとしてこゝでは公衆衞生上の立場から考えて見たいと思う。神奈川縣國警本部の調査によれば,神奈川縣に於ける一月現在のパチンコ屋總數は1302件で臺數は37647臺あり,縣民61名に1臺の割合であるという。然し日々増加の一途をたどる現在に於ては2倍位はあると思われる。厚木町に於てはパチンコ屋は20軒ありその臺數は805臺,町の人口は11515であるので14人に1臺の割合であるという。この比率は當時に於ては日本一ではないかとも言われたが現在に於てはこれ以上の所は澤山あるものと思われる。
 神奈川縣下では月に約200軒も増加し1月現在横濱に於ては630軒,臺數20500臺,市民46人に1臺の割合となつている。自治警察のおかれている都市では平均59人に1臺の割合となり郡部に於ては115人に1臺の割合となつている。

大阪府下一農村地域の井戸水調査

著者: 相澤龍 ,   岡田た江 ,   岩崎智子 ,   柿本彌生 ,   北島伊都子 ,   田中美知子 ,   谷喜代子

ページ範囲:P.31 - P.34

 戰後公衆衞生活動は積極的となつたが,都市に比し農村の立ち遲れが目立つ。それ故に我々は農村の公衆衞生活動に資するため農村生活の實態を多角的に調査せんとして,先ず夏季の井戸水調査を實施した。
 調査對象:大阪府枚方市郊外の都市近郊一農村地域で,總戸數247戸の中,約1割の26戸を調査した。住宅の分散状況から13區に分け各區から2戸宛を任意抽出して26戸が地域全體に平等に分散する樣にした。

東京都城南地區學童弗素齒面塗布に依る齲蝕豫防效果

著者: 峯袈裟友 ,   笹原廣喜 ,   齋藤忠雄 ,   川上慶吉 ,   深澤速男 ,   田邊明

ページ範囲:P.35 - P.39

1.緒言
 弗化物による齲蝕豫防法は大別して經口投與と局所歯面塗布に分けられる。經口投與に關しては食事への混入,錠劑の服用,及び上水道中への弗素投入がある。米國に於ては既に1945年に2〜3の都市に於て水道水,弗素投入が開始され現在では約100都市に實施されている。此れに關しては幾多の疑義もあるが米國に於ける成績では60%内外の齲蝕豫防效果のある事が發表されている。本邦に於ても本年2月1日より京都市山科地區に於て本格的弗素投入が開始された。
 一方弗素歯面塗布に關しては1941年R. F. SognnassがRotについて實驗を行つたのが最初であり,翌1942年D. J. Cheyneが人歯面に塗布を行つた。以後米國に於てはKnutson,Armstrong,Bibby,Dean等を初め多くの人々により研究發表され,1947年弗素塗布に關するAmerican Standerd methodの決定を見,現在廣く一般に行われつつある。本邦に於ても京大の美濃口氏(1949)が初めて塗布を行いその效果のある事を報告している。又1949年には厚生省公衆衞生局長及び文部省初等中等教育局長より各都道府縣知事宛に,弗素塗布に關する指導要項が示達され,學校衞生會並びに各保健所等に於ては既に豫防歯科行政の一つとして行われつゝある。一方又東京歯科大學の米澤氏等は弗素塗布の改良法を發表し,その效果のある事を報告している。

結核,性病,屆出傳染病の屆出調査成績(第1報)

著者: 山下昇

ページ範囲:P.39 - P.40

 結核豫防法に基く結核患者の屆出,性病豫防法に基く性病の屆出,傳染病屆出規則に基く麻疹以下19種の所謂屆出傳染病の患者の屆出は周知の通り診斷醫師より保健所長宛になされるものであるが筆者はかねがね此等の患者數の實態を把握したいと念願していたものである。
 今回管内の全病院,診療所を一々巡廻して直接カルテの検閲を行い其の全貌を明らかにすることが出來たので取敢えず第1報として其の概要を報告する次第である。

栃木縣馬頭中學のShigella flexneri 1Bによる集團發生について

著者: 大橋久治 ,   渡邊恒明 ,   遠藤昌雄

ページ範囲:P.40 - P.42

緒言
 昭和26年9月迄に發生した栃木縣下の赤痢及疫痢の患者發生數は屆出だけでも2421名,死亡者461名と驚異的な數字を示し,集團的に或は散發的に流行した。
 昨年栃木縣下に發生した赤痢流行の主流をなした菌種はSh, flexneri 2bで他の菌型は比較的少數であつた。特にSh, flexeri 1bは全検出菌種數の0.9%に過ぎなかつた。偶に本年6月栃木縣馬頭中學校に發生した集團赤痢はSh, flexneriによるものにして茲にその大要を報告する。

公衆衞生學教室めぐり

岩手醫大公衆衞生學教室の現況

ページ範囲:P.8 - P.8

 本學に於ては衞生學と公衆衞生學とを分離せず,公衆衞生學,衞生學教室と呼んでいますが,舊來,私が細菌學教室(主任田澤芳三郞教授)の出身であるため,細菌學教室に假住居していた教室も昨年半ば新築舎屋に引越し,完全に獨立したので,生れたそのホヤホヤというところです。
 設備は一通り揃つていて實驗及検査には間に合つていますが慾を云うと生化學方面と組織學方面の機械類が少し不足かと考えています。

海外文献

ロックフェラー財團の事業

著者:

ページ範囲:P.17 - P.17

 ロツクフェラー財團の事業は多岐にわたつているが,その内容を概觀することは,國内の問題に補われ易い私達に,國際的に何が重要視されているかを理解させてくれる助けとなる。

統計資料の頁

BCG問題

著者: 田中正一郞

ページ範囲:P.43 - P.46

 わが國の結核對策にとつて不可缺の要素の一つに,結核未感染者に對する積極的な兔疫附與の方法として,BCG接種があげられる。このBCGについては,昨秋來種々論議されたところであるが,こゝでは主として統計資料を基としてBCGを論じてみたい。
 BGC,の效果については,わが國の成績は昭和18年日本學術振興會が第8小委員會の結論をもつて「BCGに關する報告書」を公にし,これが今にいたるまでBCGの效果として廣く用いられているものである。この結論は既に衆知の通り,BCG被接種者は對照に比し發病率では1/2以下に,死亡率からみれば1/8以下になるということであつた。この昭和18年の學術振興會の報告以後にも,足立氏は愛媛縣下で,久留氏は軍關係で,黑丸氏は秋田縣下で,大坪氏は東鐵病院で看護婦を對象に,千葉氏は東鐵管内從員業に,海老名氏及び菅野氏は東北大で學生に,林氏は乾燥BCGを用いて軍關係で,それぞれ嚴密な對照のもとに研究を行つているが,何れも學振の成績と略々同樣の效果を認めている。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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