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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生12巻1号

1952年07月発行

雑誌目次

論説

赤痢豫防はこれでよいか

著者: 松田心一

ページ範囲:P.2 - P.2

 最近の赤痢の侵攻振りは,敵ながらなかなか天晴である。これでもか,これでもかという風な攻め方である。流石の味方陣營も,なにくそと力んでは見るものの,ここのところ原爆に匹敵するような反攻のいいきめ手もなく,多少僻易の形である。
 ところで,赤痢側からの功め方には別段新戰法がある譯ではない。千年一日のように,定石どおりの地味な戰法で,執拗に我々を攻撃して來る。我々は敵の攻撃力(赤痢菌の特性)も,攻撃據點(傳染源)も,侵攻路(傳染經路)も,すべてこれを知悉している。我々はそれに從つて自陣の護りを固くし,その虚を衝いてこれを反撃しようと試みる。つまり我々の反攻戰術も定石どおりに進められ,倦まずに續けられさえすれば,彼等の侵攻を阻止することは決して難しいことでは無い筈である。だから我々は,その定石に從つて,凡そ用い得る一切の防遏手段を講じて,彼等の攻勢を食い止めるのに眞劔である。それにもかかわらず,赤痢の侵攻は駸々として停止するところを知らない。これは一體,どうした事であろうか。

季節馴化の一考察

著者: 倉田正一

ページ範囲:P.3 - P.7

 季節に對する人體の馴化能は從來,いろいろの點から觀察されている。季節の主として温熱條件の變動に對する生理的反應をみると,變動にただちに應ずる反應群と,多少とも時間的なヅレをもつ反應群と,ほとんど變動に無關心であるような群とにわけられる。物理的體熱放散の關係因子である皮膚温,血液水分,發汗などは外部環境の變化にただちに應ずる群に屬していて,季節特有な變化はみられないと考えられる1)2)
 ところで,同じく物理的温熱放散の關係因子である皮膚不感蒸泄水分量は季節に對してどんな態度を示すであろうか。季節を追つて,身體露出部の手背皮膚面について蒸泄水分量を測定してみると,少くとも季節の温熱條件の變動に對して從屬的ではない,極言すれば濫熱條件とは無關係な態度をとることがわかつたのである3)。そこで,この現象が果して,一年を通じてほぼ温熱條件が恒常である衣服下の胸部皮膚面でみられるがどうかを追求したところ,各季節を通じて温熱條件がほぼ恒常であるにも拘らず,手背皮膚面と同樣に蒸泄水分量は季節固有な態度を示すことをしつた4)ここで,少しく本現象を検討してみようと思う。

Salicylamideの防腐劑としての檢討

著者: 柳澤文德

ページ範囲:P.8 - P.10

 Salicylamideはサルチル酸導體の一つであるが,近年強力鎭痛解熱劑として廣く臨床醫家に使用されはじめた藥品である。サルチル酸は食品保存料として用いられたのは非常に古く,廣範圍の食品即ち肉類,果實製品,漬物,佃煮,シロツプアルコール飲料,等に用いられてきたが,その作用は中等度のものと見做されている。我國の食品衞生法では清酒,合成清酒及び果實酒に0.259/IL,酢には0.06/ILの添加が許可されている。然るに一般にはサルチル酸はWileyが提唱している如くそれ程健康障碍を引き起すものではないと考えられているが,然し各國に於いて使用禁止になつておる點より推察しても,一應その障碍問題は考慮されなければならぬ。然るにSalicylaminはサルチル酸より毒性が低いことが認められておる點に著者は着眼して,その防腐劑としての検討を試みた所,殆んどサルチル酸と同樣な効果を得たのでその成績を茲に報告する。Salicylamideの防腐劑としての検討はこの藥品が古いものだけに既に検討されておるものと考えておる次第であるが,多くの成書では殆んど,寡聞ではあるが,この點に就いての研究成績をみないので,更に愼重な研究を松本君が續行している。

時評

最近の赤痢集團發生の教訓

著者: 金光克己

ページ範囲:P.11 - P.11

 過去2年間の赤痢流行と鬪いつゞけて來た今日尚依然として集團發生は少くない。殊に最近神戸中日本重工業に於て昭和12年大牟田市の赤痢大流行に次ぐ大集團發生があり,世人注目の的となつて來た。集圍發生防止は由來防疫の最大の目標となつている。それはこれによつて患者の發生を少くすると云う意味よりは,集團發生は一般個々の患者發生を防ぐよりも防ぎ易く且又當局として最も責任ある問題であるからだ。赤痢集團發生の防止こそ防疫活動を最も端的に表現しているものと解釋してよいものであろう。以下最近の集團發生例より若干教訓事項を拾い上げて見よう。

座談會

結核豫防法施行一年を顧みて(上)

著者: 石垣純二 ,   聖成稔 ,   鵜島修男 ,   鈴木佐内 ,   岡西順二郞 ,   砂原茂一 ,   有住一信

ページ範囲:P.12 - P.18

 石垣 「結核豫防法施行一年を顧みて」というこの座談會の目標は,施行一年間のいろいろな教訓をお互に話合いまして,今後の運營に大いに參考にし厚生省,或は府縣側に希望を傳えて今後の行政に反映していただきたいというんです。一つザツクバランにお願いしたいと思います。
 聖成 一年間の回顧話と申しましても,私は昨年の7月の初めに結核豫防課長を拜命したわけですから,正確にいうと私個人として一年間を云々という資格はないのですが,たとえば醫療費の公費負擔の制度であるとか,或は健康診斷の規定を法制化したとか,從來に見ない大きなスケールの結核對策が展開されるということになつた。しかしよく考えてみますに,丁度新らしい年度を迎えまして,昭和27年度の結核對策はいかにあるべきか考えてみますに,醫療費の公費負擔も初めてのことでいろいろ批判もあり,また再檢討を要するものも非常に多いことを痛感したわけです。或は豫防接種の面からいうと昨年例のB. C. G. 騒ぎがございまして,これも新らしい年度に新らしい氣持でやつてゆかなければならないと思います。いずれにしても新らしい豫防法は畫期的な計畫でしたが,どうも軌道にのつたという感じはまだ致さない從つて昭和27年度は,一面は現在行なわれている結核豫防法を中心とする結核對策を再檢討して將來の改善も考えなければならないし,一方にはこれを軌道にのせて改めてゆかなければならない。

研究報告

嬰兒籠の乳幼兒發育に及ぼす影響

著者: 菊地浩

ページ範囲:P.24 - P.27

緒言
 嬰兒籠が「くる病」の誘因になつている事は諸專門家の指摘する所であり,一般の人々にも認められている。
 嬰児籠は關東地方では「おはち入れ」と呼ばれ東北地方では一般に「いづこ」,相馬群では「えじこ」といわれている。これは直經2尺,高さ1.5尺位の半球状の,藁でつくつた鉢の樣なもので,乳兒をその中に起坐させ體の周りにも毛布や衣類をまいて暖をとると共に,兒の體を支える。こうして乳幼兒を家の中におけば安全であり,又母親達が日中田畑で働くのに極めて便利であるので東北地方の農家では多くの人が使用している。

高等學校驛傳競走選手の合宿期間における疲勞度の動的觀察

著者: 宮本璋 ,   大淵重敬 ,   野崎紀和 ,   野田喜代一 ,   田谷利光 ,   島田良典 ,   橋口精範 ,   硯川宏 ,   本橋久和 ,   本橋久男 ,   諸岡恒雄 ,   山口武男

ページ範囲:P.27 - P.32

1.緒論
 體育において疲勞の状態を知ることは,體育の效果を適切に助長する上において,まことに重要なことであることは勿論のことであるが,就中各種スポーツにおいてレコードを向上させるために,できるだけ大きな練習量を負荷しなければならないというような場合,疲勞の状態を檢査しないでただむやみに練習量を積み重ねてゆくのは,切角將來ある選手が疲勞困憊の極に達し遂には再起不能の状態におちいるという危險性さえも考えられる。この點については從來は一般に廣くスポーツにおいてコーチヤーと呼ばれているところの主として技術的指導者が,その長いスポーツ生活のうちに得た經驗によつて練習量をコントロールしてきたのであるが,これを醫學的にそして合理的に基礎ずけてゆくことは今迄にあまり多くなかつたように思われる。
 幸い今回茨城縣驛傳競走の練習のため江戸崎高校競技部生徒の合宿があり,著者等は生徒等と起居を共にする機會に惠まれて,種々醫學的考察を行い得たが,就中ドナジオ佐藤反應(DSR)が後述の著者等のいわゆる動的觀察を行う場合,比較的よく合宿の經過に從つて變動するのを認めた。

東北一鑛山町に於ける坑員及び其の家族の蛔虫並びに鉤虫寄生率に就いての疫學的考察

著者: 坪郷義崇 ,   熊谷和子 ,   橋本伊都子

ページ範囲:P.32 - P.34

 花岡鉱山病院が花岡鉱業所の協力を得て企圖した鉱山從業員の衞生調査の一部として行われた寄生虫調査の對稱となつたのは坑員の主要居住地である前田地區(5つの地區に分れている)の坑員及びその家族の蛔虫及び鉤虫の寄生状態である。方法は飽和食鹽水浮遊法に依つた我々はその結果に基いて若干の疫學的考察を加えたいと思う。

冷菓の汚染度に關する調査並に檢討(昭和26年度)

著者: 西宮一 ,   土平一義 ,   中村龍夫

ページ範囲:P.34 - P.36

緒論
 吾々は毎年冷菓の汚染度の調査を行つているが,本年は特に冷菓に關する法的墓準と檢査技術との間の不備に就いて實驗的に檢討し,更に本年は赤痢の多發を考慮に入れて冷菓の衞生的向上に關する方法に就いて考察を行い,二三の知見を得たので茲に報告する。

愛知縣下に於ける寄生虫の蔓延濃淡状況に就いて(第1報)

著者: 森山和典

ページ範囲:P.36 - P.39

1 序論
 昭和24年7月以降愛知縣下全般に亘り學校,事業場,部落を對照として約45萬5千名の寄生虫卵集團檢査を行い寄生虫蔓延の濃淡状況に就いて調査して來た。本日迄に次の結果を得たから報告する。
 昭和24年7月より昭和27年3月迄の寄生虫卵檢査成績は次の通りである。

吸入靑酸量の指標としての尿ロダン排泄量

著者: 佐藤德郞 ,   鈴木妙子 ,   福山富太郞 ,   村尾嘉道

ページ範囲:P.39 - P.41

 靑酸ガスは船舶の鼠駆除や種々の鉱工業に使用されることが多く,しばしば事故が發生する。他にニトリル等も體内では相當量が靑酸に變化するものと考えられている。靑酸ガス環境の恕限濃度は日本では20ppm,アメリカでは最近10ppmに下げられ,上限は1時間で100ppm1)と考えられている。環境中の靑酸ガス濃度の定量には種々の方法があるが,最近北川氏が發表した檢知管2)による方法では高濃度用のものを用いても,0.001%即ち10ppmまでを測定し得るので,開放された場所での靑酸の有毒性を認知するのにさして困難を感じない。しかしガスマスクの效果の判定を現場で實施する場合には困難を伴う。
 一方體内に吸收された靑酸は大部分がロダンに變化すると考えられているので,ロダンの排泄量を知れば,吸收チアン量を計算することが出來,靑酸吸入の状態や處理状態を容易に推知することが出來る。

昭和26年栃木縣下に發生した食物中毒について

著者: 大橋久治 ,   渡邊恒明 ,   福田忠義 ,   品田綱造 ,   江田貞義 ,   靑山巖

ページ範囲:P.41 - P.44

緒言
 廣義の食物中毒の原因については周知の如く魚貝類やキノコ等の動植物の産生毒素によるもの食物に混入した藥物によるもの特異體質或は食餌性アレルギーによるもの微性物の蛋白分解産物が原因となるもの嫌氣性菌葡萄球菌の産生した體外毒素によるものSalmonellaの感染等がその主なるものとして挙げられる。
 我々は今迄に食物中毒例を多數取扱つて精細綿密に細菌學血清學的に動物試驗迄も施行したがその悉くからSalmonellaを分離し得たのではない葡萄球菌を食物中から分離した頻度も左程ではない。變形菌を分離し得ても食物中毒の原因菌と斷定し兼ねたこともしばしばあつた。その都度確實に食物中毒の原因を把握し得たものでない。

猫いらず(ネオメソ等)の經濟的で安全な一新使用法特に同劑使用毒紙の活用に就て

著者: 分島整 ,   井上吉彦 ,   岩藤嘉則

ページ範囲:P.45 - P.46

第一章 緒言
 ねずみ類が田畑や山林を荒し,倉庫・圖書室・吾々の住居等に跳梁し,經濟的な害毒と共に甚だしい衞生上の危害を及ぼす事は今更論述するまでもなく,又世の所謂識者達も是が徹底的駆除に無論異論は無いが,さて或る一つの部落,村,町等を對象として毒餌を用いて集團的に大々的に駆除を實施するとなると,日本の現状では實際上種々の障害に逢着する。
 其の第一は住民は僅かな手數でも其の手數を大きく評價して實行を渋り,其の第二は子供達等の過誤に基く不慮の災難を恐れ,其の第三は多くの家庭で飼育して居る半ば愛用の猫の被害を恐れる。

埼玉縣小見野中學校に發生せる「アイスキヤンデー」に依る集團食中毒と誤傳されたる推定泉熱について

著者: 中村廣夫 ,   關口軍治 ,   林喬

ページ範囲:P.46 - P.47

緒言
 異型猩紅熱(泉熱)及びその類似疾患について昭和4年泉氏の記載を始めとして齋藤氏及び多數の先輩により報告されているが殊に伊澤氏が本症を獨立した一新疾患と見做して之を異型猩紅熱と呼稱して以來學界の注目を惹くに至つた。以來全國に多數の報告があり,昭和17年名古屋地方に於ても落合氏により本症の存在が確認された。本症の病原體は今尚確定をみない状況である。余等は培玉縣小見野中學生に昭和25年5月2日に發生せる冷菓(アイスキヤンデー)による集團食中毒と誤傳された推定泉熱發生事例に遭遇した。即ち發生は昭和25年4月28日小見野校,南吉見校,八ツ保校と共に大宮公園に遠足し公園に於ては三校公に全く同樣の行動をして午後3時頃歸路につき往復とも同列車で少しの相異もない。然して患者發生は小見野校の生徒のみが發生せる點を考察して檢討するに各校の異なる點は夫々乘降驛を異にし夫々陸路を往復とも徒歩の行程である。よつて特に徒歩間の飲食關係に起因せるものにあらずやとの想定により沿線飲食關係の嚴密な調査した結果略々泉熱と斷定するに至つたので稀有な事例として報告する次第である。

統計資料のページ

奈良縣の癌死亡に關する統計的觀察

著者: 藤井明

ページ範囲:P.19 - P.22

 本論文の要旨は第13回日本醫學會總會第36分科日本公衆衞生學會に於て「奈良縣における癌豫防について―第1報」として報告した。

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國立精神衞生研究所の發足

著者: 片口安史

ページ範囲:P.22 - P.23

 數年來,その設立が噂さされつつも,なかなか實現にまで至らなかつた國立精神衞生研究所が,昭和27年1月を期して漸く開設の運びとなり,現在既に千葉縣市川市の國立國府臺病院敷地内に眞新しいクリーム色の姿をみせている。
 從來,衞生といえば,一般に身體の方面だけが考えられがちであつたけれども,精神的社會的存在である人間の眞の健康というのは,單に身體的な問題だけでは解決されないものである。こゝに精神衞生の意義が存在する。C.V.Goodの教育辭典によると精神衞生とは,「精神的健康の増進と精神的病氣mental disorderの防止の原理や技術を研究する學」であると定義されているが,現在多くの國に精神衞生協會が組織されて活溌に仕事をして居り,此のような活動は國際運動にまで發展せしめられているのが現状である。米國精神衞生委員會顧問ルーサー.E.ウッドワード博士はアメリカの精神衞生運動の現状について次のようにいつている。

アメリカ便り

著者: 田多井吉之助

ページ範囲:P.7 - P.7

 先日は最近の公衆衞生有難く拜見しました。今年の1月號から,體裁がすつかりかわつて,大變スッキリしたように見受けられます。それに,研究發表が多くなつたのも,私にとつては,非常にうれしく感じられました。
 當地もEasterがすむとゝもにやつと暖かになり,木の芽がほころびてきました。ちようど,東京より1カ月おくれているというところでしようか。もつとも今年は東京の櫻も大分おくれたそうですが,ボストンには,ワシントンから移し植えた,櫻が2,3カ所にあるそうですが,まだ見ておりません。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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