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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生12巻4号

1952年10月発行

雑誌目次

論説

第7回日本公衆衞生學會を顧みて

著者:

ページ範囲:P.2 - P.2

 少くとも量的には出題總數472題の他にシンポジアム10題,特別講演5題という本學會としては未曾有の盛況の下に,これも本學會としては始めての地方行,それもはるばる津輕海峡を越えて札幌での開催とあつては,その意義が,同じ酷暑の頃に,同じ土地で開かれた,曰く全國○○會議,曰く全國○○協議會といつた式のいわゆる避暑會議と自ら異るのは當然である。というのは,少くとも學會をば學問の場と心得て,懸命に馳せ参じた筆者の如き小學徒にとつては,何よりも致命的ななけなしの旅費を懷に,ゴトゴトと汽車で蒸されながら行くのでは,凡そ避暑という概念からは縁遠い北海道行だつたからである。
 8月15日より17日に至る3日間,札幌醫科大學において西野睦夫會長の下に華々しく開かれた第7回日本公衆衞生學會に臨席した者は,誰しもが初期の頃の本學會に比べると,演説内容の點から言つても,學會の運營方法の點から言つても,數段の飛躍進歩を示していることを認めるのに吝かではあるまい。特に今度の學會の場合,演説内容によつて比較的手際よく3會場に區分され,又時宜に適した問題を思い切つて數多くシンポジアムにとり上げたことは,形式的にはかなりの成功を示しており,この點今後における本學會の運營方針に大きな示唆を與えるものとして,企畫關係者の功は高く評價されて然るべきであろう。

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最近のビタミン問題

著者: 中川一郞

ページ範囲:P.3 - P.8

 最近のビタミン科學の進歩の詳細に就てはAnnual Rev. of Biochemistryの「水溶性」1)2)及び「脂溶性」3)4)ビタミンの項に讓り,茲には主として本邦に於てどんな問題が興味の中心とされ,研究,論議されて居るか(之には學術研究會議の脂溶性ビタミンB委員會及びビタミン綜合研究委員會が中心となつて活發に仕事を行つて居る),又最近1,2年間に發溌された研究報告,それも主として人に關するもの(動物試驗でなく)をとりあげて述べてみたいと思う。
 先ず第一に定量法の問題であるがV. Aの定量では三鹽化アンチモンを用いるCarr-Priceの方法は呈色の安定なG. D. H法に既に代られて居り(その他にAに紫外線をあてゝ生ずる螢光を比較して定量する方法6)も發表されて居る)。Cに就ても同樣にインドフエノールを用いる方法に代つてV. Cを全部酸化型として後,測定するRow5)の2,4ヂニトロフエニールシドラヂン法が登場して居り,何れも實驗方法としての検討の時期は過ぎて實用の段階にはいつて居る。B1の定量法に對しては赤血鹽を以ての酸化よりブロムチアンを以てする方が優ると云う人々7)もあり,B2についてはルミフラビン法が一般に廣く用いられては居るが,未だ改良すべき點を幾多殘して居るように思われる。殊に遊離と總B2との分離に一層の工夫を要するようである。

結核檢診におけるツベルクリン皮内反應に關する二,三の問題について

著者: 川村達

ページ範囲:P.23 - P.28

どんな仕事にも必ずある樣に,結核の集團検診も,之を繰返していると,極めてあたり前に實施されている基本的なことの中に實に多くの問題なり疑問なりが轉がつていることに氣が付く。著者も結核研究の一つの手段として,色々の目的に從つた集團検診をくり返して來た者の1人であるが,こう云つた問題なり疑問なりの中には,初めの目的より一層深い興味をそゝられる樣なものが少くない。ツ反應陰性者に同時に同一量の同一BCGワクチンを接種しても,以後に示すBCGによるツベルクリン(以下ツ)反應の強さには非常に大きな個人差があると云う事實から,結核に於ける遺傳學的な素因をある程度客觀的に認識出來る方法を見出したのは著者の持つ1例である。1)2)3)
 この樣に,日常遭遇する事柄を,著者は著者なりに把え,考え,何らかの形で解決し,又は止むを得ず妥協し,或いは尚更に迷いつゝある譯であるが,保健所をはじめ各方面で検診に從事しておられる方々も恐らくは同樣であろうと思う。近年の我國に於ける如く,結核検診が津々浦々に勵行される状態になると,こうした大きな筋道の外に現在はおかれている事柄も,案外に大きな影響をもつことになるし,検診そのものが正しく行なわれているか否かにさえ關係して來ることがあると思う。そうなると,それ等の問題も個々の醫師の一人よがりや自己流で片附けられるべきものではなく,客觀的に正しい筋道がつけられなければならない。

1952年春季東京地方にみられたインフルエンザBに關する研究—非流行期に於けるインフルエンザの一發生樣式

著者: 甲野禮作 ,   芦原義守 ,   内山敬司 ,   小笠原晃

ページ範囲:P.9 - P.13

I.疫病的事項
 1951/52年の冬はインフルエンザ(以下I)に關しては平穏な冬で,全國何處からも流行の通報はみられなかつた。ところが,3月初旬になつて東京都千代田區九段の警察學校にIが發生したとの報告があり,われわれは3月14日に現場に行つて,都側の疫學調査に平行して含嗽液,血清の採取を行つた。警察學校は舊近衞第一師團の兵營にあつて,全國から募集せられた生徒を此處で約6ケ月間訓練し,警視廳管下の警察に配屬する仕組になつている。この間生徒は舊兵營内に幾つかの組に分れて,組單位の團團密集生活を共にする。
 今回のIの流行状況は,第1圖に示す如くで1月以降3月18日迄に總數821名(職員を含む)中感冒患者476名(罹患率58%が發生した。明らかにIと思われる流行は2月末から始まり3月11日に頂點に達した。各組毎の罹患率は最高78%,最低16.3%であつた。臨床的には定型的インフルエンザで,他の流行にきわ立つた特徴はないが,鼻出血を示したものが13.0%あつたことは稍注目された。同樣のことは同型のビルースによる1昨年の淡路島の流行でも觀察せられた1)2)。生徒の出身地的の罹患率には有意の差はみられなかつた。流行はちようど訓練の終る時期に當つていたので,3月中旬には大部分の者は學校を卒業し,都内警察に分散配屬せられていつた。

座談會

衞生教育技術者の再教育を檢討する

著者: 佐藤恒信 ,   島崎英治 ,   針谷仙四郎 ,   山本俊太郎 ,   宇都宮春次 ,   海原正三 ,   長島曉

ページ範囲:P.14 - P.22

 現在,公衆衞生院では地方公共團體の衞生技術者の養成訓練を目的として,10數科に及ぶ學科のコースが設けられている。
 衞生教育學科はその中の1つの專門學科である。

研究報告

齲蝕とその豫防に關する實驗的研究(第1回報告)—弗化物の齲蝕細菌發育阻害作用に就いて

著者: 帆足望

ページ範囲:P.32 - P.34

(1)緒言
 斑状歯の疫學的研究に端を發した現在の弗素による齲蝕豫防の公衆歯科衞生的研究は,漸く研究期を脱して實踐期に入つている。その臨地應用法としては,個人衞生を基礎に置いた弗素歯面塗布法topical application offluorides(fluoridization)と公衆を對象とした水道水弗素投入法fluoridation of public water supplies(fluoridation)の2法5)がある。此の他mouth washes,dentifrices,prophylactic cleaning mixtures,lozenges,pastels,chewing gum,fluoride bath等の利用法6)が研究されているが,その效果は未だ不明である。此の樣に弗素は今や齲蝕豫防法の寵兒として登場したのであるが,その齲蝕豫防作用機轉に就いては未だ充分に解明せられていない。現在の所最も確からしい弗素の齲蝕豫防作用機轉は凡そ次の如きものである。
 1)Fイオンが琺瑯質に作用してaciduric bacteriaの産生する酸に對して歯質を難溶性にする。

弗化ソーダ新塗布法の齲蝕豫防效果について

著者: 呉基生 ,   國本朝雄 ,   米澤和一 ,   森山德長 ,   田邊明 ,   片山良一 ,   帆足望

ページ範囲:P.35 - P.39

1.緒言
 輓近豫防歯科領域で弗素歯面塗布によつて齲蝕の豫防を行わんとする研究が大きな問題として取り上げられて來ている。諸外國に於てはBibby(1942)Cheyne(1942)Knutson(1944),Jordan,East,Galagen等の諸氏の研究成績が發表され,我國に於ても美濃口,文部省等の研究成績が發表されたが當教室に於ても1941年頃より斑状歯及び水質所見の實地調査を行い,弗素の含有分布地圖を擴大充實しつつ,その反面,弗化物溶液の齲蝕細菌に對する發育阻害試驗,含水炭素醗酵阻害試驗,及び水道水弗素投入による水中細菌發育阻止試驗を行つて來たのである。その詳細なる實驗成績は公衆衞生の近刊に逐時掲載される筈であるので,茲に於ては省略する事にして,以上の諸實驗に依つて,從來歯面塗布用として用いられて來た2%NaF水溶液よりも齲蝕豫防效果の大なると思われる2%NaFセルロイド浮遊液を考案したのである。新法たる2%NaFセルロイド浮遊液の長所としては2%NaF水溶液よりも,塗布後の乾燥が早い事と弗素の歯面停滯時間が長い事と2%NaF水溶液が化學的作用のみを期待しているのに反して,2%NaFセルロイド浮遊液は物理,化學的作用を期待した點にある。

ゴキブリの驅除法について

著者: 鈴木猛 ,   本庄サクラ ,   三浦昭子

ページ範囲:P.40 - P.42

 最近料理飮食店,喫茶店,或は一般家庭に於てゴキブリの挑梁が甚だしく,これが驅除は公衆衞生上相當に大きな問題をなしている。筆者らはバター或はマーガリンを塗つたガラス面がゴキブリの脱出を防ぐことにヒントを得て,ゴキブリの實驗室内飼育を甚だ簡易にし,その飼育昆虫によつて實際の驅除法を中心に各種類,各種形態の殺虫剤の效果を試驗した。その結果DDTとBHCの煙霧,或はBHCの燻蒸が極めて有效な驅除法であることなどを知つたので,そのあらましについて報告する。

土壤及び塵埃中に含まれる蛔虫卵の浮遊法に關する研究

著者: 松崎義周 ,   今園義盛 ,   中條惟基

ページ範囲:P.42 - P.44

 緒言 蛔虫の感染經路として土壤,塵埃が重要なる意義のある事は内外諸學者によりて報告されている。吾々の教室でも本問題に就いて研究を行い其の一部は既に報告している處であるが土壤,塵埃等に含まれる蛔虫卵の檢出には常に困難を感じている。この事は蛔虫卵の蛋白膜が土壤,塵埃等の微粒子に附着する爲に單に蛔虫卵の比重のみを考慮に入れた浮遊法のみでは完全なる檢出が出來得ない1つの原因ではないかと考える。研究者の1人,中條は,この間題に就いて土壤,塵埃中に含まれる蛔虫の蛋白膜を先ず脱落させた後浮遊法で檢出を行い稍々滿足なる結果を得,後日發表の豫定である。
 私等は在來の浮遊法で土壤,塵埃中に含まれる蛔虫卵の何%が檢出出來得るかと言う問題と,浮遊法に若干の工夫,即ち振盪器を使用,振盪を加え浮遊させる方法とに就いて研究したる結果,若干の知見を得たので茲に報告したい。

水,特に浴水の淋菌汚染並にその消毒に關する研究(第2報)—水,特に浴水中の淋菌のクロラミン其他による殺菌試驗成績

著者: 齋藤功 ,   小林正武 ,   大坪正一

ページ範囲:P.44 - P.48

 本報は標記の研究第1報「鑿井水並に浴水中の淋菌の生殘時間に就て」と併行して行われた殺菌實驗の概要である。
 浴水は入浴開始後の状況により有機物含量が種々である。一般に水の殺菌は,その水の有機物含量の如何により殺菌劑の效果に相當の差異を來すことが多い。單純な鹽素劑に於ては特にそうである1)2)3)9)。從來浴水の消毒は2,3の先人により試みられた事があるが5)6)7),鹽素乃至晒粉が殺菌劑として用いられた爲,入浴者に對する刺戟性が強く實用に適しないとされたが,たとえこの點が解決されたとしても,消毒所要量が浴水の水質の變化に伴い絶えず變動して對應するに困難であろう1)2)3)4)。本實驗に於ては主なる供試殺菌劑として局方クロラミンを選び,他の諸種殺菌劑を對照とした。クロラミンを選んだ理由はクロラミンは殺菌效力が水中有機物量により多く影響されず,入浴者に對する刺戟が消毒所要量位の投入によつては問題にならず,加うるによく長期間の貯藏に耐え,取扱も簡單で危險が少いからである。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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