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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生12巻5号

1952年11月発行

雑誌目次

論説

日本人食生活の改善

著者: 大礒敏雄

ページ範囲:P. - P.

 我が國は,南北に長く,山地も多いので,氣候上の變化に富んで居るため,四季を通じて,色々な食物が得られる關係上,新鮮な食物を,そのままの味で樂しむ習慣がついているので,食物を味あう點では非常に敏感に訓練されたものといえよう。このことが色々な調理法の發達を促して,味覺,視覺の上で,世界にもまれな料理を築き上げたことは一般によく知られているところである。
 然し,このことは,必然的に,趣味,嗜好のみに偏る結果,食物の内容たる榮養には,至極無關心となつて來たのである。そして,食物の種類の多いということと,生産量の多いということとを取違えて,やれ瑞穗の國だとか,食物には惠れた國だとか自負して居たのである。あれ程,食物に富んで居た,戰前でさえ,食物の内地での自給率は,やつと,85%であつたに過ぎないのであつた。

グラビア

第八回公衆衞生學會岡山にて開催

ページ範囲:P.1 - P.1

 第七回公衆衞生學會は北海道衞生部長西野陸夫氏會長で開催,出題數472題,シンポジアム10題,特別講演5題,という盛況であつたが次回は,岡山縣知事三木行治氏(前厚生省公衆衞生局長)が會長に推戴され岡山で開催されることになつた。今までの學會長は田宮,草間,小島,古屋,吾妻と學者がつゞき今回行政官の西野氏にひきつがれたものであるが,一部で,學會長は學者に,という聲のある折から三木知事の御手並が期待される。

杏林出盧の新代議士

ページ範囲:P.2 - P.2

 公衆衞生界から初の議員十一名が選出された。公衆衞生には政治的解決にまたねばならぬ數々の問題が山積しているが我々の代辨者として、新代議士の活躍が期待される。

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實驗的感染に關する二三の知見

著者: 相澤憲

ページ範囲:P.3 - P.11

1.實験的感染の概念
 生物界に於ける自然感染成立は4つの要素より構成される。その要素の第1はCommunicabilityと呼ばれ,排泄された病原體が宿主迄到達する過程であり,第2の要素はInfectivityで生體に到達した病原體が侵入門戸より生體内部に侵入し,或はその部に占居する迄の過程である。第3の要素は侵入した病原體が占居部位に於て増殖を開始し,或は生體内部に侵襲し,親和性臓器への占居全身感染發現の過程で,Invasivenessと呼ばれる。第4の要素は斯くして増殖した病原體の機械的或は代謝産物の化學的障碍による過程でToxicityと呼ばれ,病原體側よりはToxigenicityと稱する。
 感染は病原體のVirulenceと總稱される攻撃的因子のみならず,生體側の防禦的因子の相互基盤上に立つ複雑な過程であることは言う迄もないことであつて,以上の4要素殊に後3者は病原體と宿主間の爭鬪によつて異種疾患はもとより,同種疾患に於ても異なつた發症形式をとるのみならず時に其等要素の本質的過程を明瞭に區別し得ない場合もある。

死因統計からみた第二次世界大戰前後における日本のワイル病について

著者: 北岡正見 ,   井上裕正 ,   小林一郞

ページ範囲:P.12 - P.20

まえがき
 1915年ワイル病の病原體が稻田先生によつて發見されて以來,それと類似のレプトスピラ(以下レと略)症の存在が相次いで發見され,レ症も複雑となつて來た。そしてワイル病及び2〜3の類似疾患については疫學1)2)3)4),臨床4)5)6),治療7)8)9),豫防10)及び抗原構造1)11)12)等の各分野に亙り可なり堀り下げた研究がなされた。しかし多くのレ症について尚解決すべき問題が殘されている。
 文献を通覧するとわが國に於けるレ症の地理的分布範圍は,北は宮城縣から南は九州の南端に達し,所謂地方病として識られ,それぞれの地方においてその罹患率,致命率,罹患と性及年齡について調査報告されている4)13)14)15)16)。しかしそれ等のレ症は,北岡4)10)11)が屡々強調しているように,都會ではワイル病が,農村ではワイル病の他に秋疫A,B,Cの各レ,バタビヤレ,及びカニコーラ・レの6種が混在していることを忘れてはならない。我々はかねてから全國各地方のレ症報告を總括し,更に未報告の地方についてもレ症の有無を追及し,わが國におけるレ侵注状況を検討しつつある。

スイスだより

著者: 村橋豊穗

ページ範囲:P.20 - P.20

 一月に東京を發つてから,スカンヂナビヤに6ヵ月餘を過し只今,スイスに來ています。明日(7日)からパリへ入ろうと云う所。御承知のようにスカンジナビヤでは世界の何處にも魁けて,結核死亡率が著しく減りました。實に驚く程の減少振りです。私のThemaが「結核豫防の研究」というものである爲に,或人々に云わせると「そんなに減つて了つた所へ行つて何になるか」と云うようですが,こう云う立派な足跡を辿ることは最も必要なことなのではないでしようか。結核撲滅と矢鱈に聲を張上げても無駄とは云わぬ迄も效果が甚しくうすい,若し夫に實行が伴わなければ,又實行するにしても個人々々の個々の動き―我勝ちの,勝手な動き―ではどうにも始末がつかなくなるでしよう。どうしても斯うした問題については,國家國民の一糸亂れぬ協同動作―チームワークのとれた―が必要になつて來ると思います。BCGの接種も勿論必要,隔離治療は尚更必要,そして又榮養,住居,收入,疾病保險など皆必要となるものなのですから,そうした個々のものをうまく均衡を保ち乍ら,やるのでないと何時迄も不徹底な空轉に終るのではないでしようか。日本の結核死亡率が減つたといつてもまだまだ不安定でありデンマークの樣な所に達するには日を要することでしよう。
 所で牛結咳の問題は今,日本でどうなつているでよしうか。

時評

ラジオドクターの存り方

著者: 佐藤恒信

ページ範囲:P.21 - P.21

 NHKのラジオドクターも現在の近藤宏二氏で第三代目となつた。ラジオは耳に訴えるものなので"賣家と唐樣で書く三代目"というような,書體などの心配をする必要はないが,その代り,發聲,發言,話し方と云つた方面には大いに氣を配る必要があろう。
 三代目を上記のような,ありきたりの格言などで輕々しく批評した譯ではもうとうなく,兎角三代目というものは,何事につけても苦労の多いものと考えられているので,とくに面識ある先輩に對して心からの激勵の言葉を贈ろうとするものである。

座談會

公衆衞生學會を顧みて

著者: 松岡脩吉 ,   宮入正人 ,   山本幹夫 ,   重松逸造 ,   山岸精實

ページ範囲:P.37 - P.46

 松岡 昨日實は司會をしろという話をきゝましてどうも面喰つたわけですが,その話がありましてからずつと他の用事があつたものですから,司會者としての準備といいますか,項目位考えておけばよかつたのですが,それがありませんからどんな司會になるか分りません。途中でとんだ方向に向きそうになりましたらお助け願いたいと思います。札幌の學會が終つたばかりですから,差當り,その札幌の學會についてお感じになつたことを一つ話していただければいいと思いますが,その前に開催地を札幌迄もつていつたこと,或は來年度は岡山にもつてゆくというようなことについてお話し願つた方がいいですかな。會場は今迄東京ばかりでやつておつたわけですね。今度初めて札幌で開かれたんです。しかも衞生部長さんがその會長になられた。時期はまァああいう時期を選ばれたことは適當だというようなことですが……。
 宮入 それをやつてゆくと結局ある意味での結論になるんじやないですか。

統計資料のページ

赤痢の統計

著者: 石田保廣

ページ範囲:P.22 - P.24

 圖示されている樣に,赤痢の罹患率は昭和14年及び,終戰の20年において高率であつた。昭和23年に急激な減少をみせたが,再び増加の傾向を示し,昭和26年においては,昭和14年に近い罹患率を示している。
 月別の赤痢の罹患率が年次と共に増加している状態が明瞭にみとめられる。昭和27年の變異圖表に,發生數を記入すると第2圖の如く,本年は非常に多發していることが觀察される。一方死亡率に患者の發生に比して低く致命率は減少している。

研究報告

立川市内に頻發せるガソリン臭井戸水の系統的調査研究(第2報)

著者: 佐藤乙一 ,   根本永 ,   渡邊周子 ,   奧富憲

ページ範囲:P.25 - P.26

1.緒言
 筆者等はさきに立川市及隣接町村に頻發しつゝあるガソリン臭を有する井戸水の詳細調査を行い,この經路は地下水に沿つて一脈をなしていることを確認報告した1)。然しこれが原因については確實な結論を下し得なかつたが,種々の資料を綜合検討した所立川空軍基地内に何か原因となるものが有るのではないかということを推定した。其後も引續き調査を進めて來たが,興味ある結果を得たので茲に報告する。

東京都中野區における泉熱の一流行例

著者: 松田心一 ,   宮入正人 ,   重松逸造 ,   洞澤勇 ,   岩戸武雄 ,   左合正雄 ,   岡田貫一 ,   水野澄郞 ,   荒井保經 ,   池田英夫 ,   平良眞

ページ範囲:P.27 - P.30

緒言
 昭和2年泉によつて報告された猩紅熱樣疾患の流行例は,その後今日まで我國各地より報告されて來た。特に昭和25年以來報告例も激増し,各地において諸研究が進められつゝあるが,その本態に關しては今日尚その病原臨床,疫學各分野にわたつて不明の點が多い。著者等は昭和26年11月,東京都中野區内に發生した一流行の調査を各專門分野と共に行う機會を得た。その綜合成績は第26回日本傳染病學會に於いて報告したが,こゝではその疫學調査成績を報告する。

昭和26年春宮崎縣日向市に發生した傳染性下痢症の疫學的調査報告

著者: 玉置馨 ,   大橋六郞 ,   岩倉利明 ,   北尾忠利

ページ範囲:P.30 - P.31

 昭和26年3月上句がら日向市富島町に傳染性の下痢を主徴とする患者が多發し,尿,屎,及び血液等の細菌學的,血清學的檢査によつては,何等の病原をも發見し得なかつた。本疾患については,人體實驗は實施し得なかつたが,臨床症状その他より傳染性下痢症であると思われる。何等特殊の防疫的處置を加えなかつたが,患者總數134名を數え,4月上旬終熄した。ここに本流行の疫學的調査の結果を述べ,參考に供する次第である。

小兒期の體温調節—高氣温並びに高熱疾患に對する體熱態度

著者: 倉田正一 ,   和久井健三

ページ範囲:P.31 - P.35

 人體の體温調節に關する研究においても,動物實驗からえられた數多くの重要な論據がある。しかし,人體と動物の間には體温調節の機轉においてその方法論において,大きな開きがあることは勿論である。例えば,熱放散の形式をみても,人體で重要な機轉の一つは皮膚からの水分放散であるが動物では全く事情を異にしている。從つて動物の觀察にもとづく推論をただちに人體にあてはめることは,特に體温調節問題を論ずる場合には愼重でなければならない。勿論,Rodbardが温度に對する血壓の變化を指標として,亀と脊椎動物の温調節中樞を比較しているように1),體温調節の幼稚ないろいろの形を學ぶことは大切である。このような觀點から,あきらかに體温調節能の發達未だ充分ではない小兒の體熱の動きをみてゆくことは,小兒が成人にみられる美事な調節機轉の素朴な形をもつているであろうという意味において,動物實驗と同樣に評價さるべきであり,特に,内分泌腺の活動と關聯してその發達過程を追求することができれば,體温調節の研究に少からぬ助けを與えることができると思われる。
 今回は,小兒期のうちでも幼若な乳兒が,夏季高氣温に遭遇したときに如何なる體熱變化を示すか,又,體温調節未熟なりといわれる小兒期では,高熱疾患時にいかなる體熱變化を示すかを觀察し,高熱に對する調節能について考按した。

熊本縣における急性灰白髄炎—(罹患年令及び罹患時季について)

著者: 不破佐和子

ページ範囲:P.35 - P.36

 昭和26年10月から肢體不自由兒の療育相談に應ずるため,熊本縣下各地を巡回しているが,昭和27年6月6日現在で,最も多いのは急性灰白髄炎に關係あるもので331例あつた。この331例について罹患年令及び罹患時季の2項を調査したのでその概略を報告したい。まだ例數が少なく,批判を下すには不充分であるが,散在性出現の熊本における實態はある程度うかがい知ることが出來ると思う。

海外文献

ムンプス髓膜腦炎/ロツクフエラー財團の事業

ページ範囲:P.36 - P.36

 ムンプスの紳經系統への侵襲:以前はかゝる症例はムンプス流行時患者との密接な接觸という既往歴がなければ診斷し得ずに,不明熱性疾患或は無菌性リンパ球性髄膜炎として片附けられていたが,著者はLevisonand Thordarson(1942),Bang(1943)Holden(1946)及びBroun(1948)等の報告を紹介して,1951年1月27日初發患者を出してから35日間に自ら經驗した14例のPreparatory School(Public Schoolへの豫備校一英)に於ける發生に就て臨牀的,實驗室檢査法とによつて觀察をしている。即ち39名中15名がムンプス經過者で殘りの24名中12名の少年と職員2名が罹患し,その内容は耳下線炎のみの9者(内1名職員),耳下線を伴う髄膜腦炎7名(内1名職員),及び耳下腺炎なしの髄膜腦炎4名で後者の11名に就ての臨牀所見は發熱,頭痛,嘔吐,頸部強直,ケルニヒ氏症状を呈し熱の持續は1〜7日,髄液にリンパ球を認め,クロール,プロテイン,糖は多く正常で所謂腦膜炎症状を示しnon-Paralytic,Poliomyelitis(非麻痺型灰白髄炎)に類似し,Kilhamの指摘して居る樣に流行閑期にムンプスで髄膜腦炎を起すのが多いので診斷を特に困難にしている。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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