icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生12巻6号

1952年12月発行

雑誌目次

論説

獨立後の公衆衞生

著者: 舘林宣夫

ページ範囲:P.2 - P.2

 最近數年の間に日本人の平均壽命は約10年延長した。即ち久しく50歳附近に低迷していたものが,男女共に60歳を突破するに至つたのである。斯くの如き短期間に急速の進歩があつたことは公衆衞生史上稀な事實とされよう。その因つて來る原因については未だ充分には分析されて居らぬようであるが,サルフア劑その他の合成藥,各種抗生物質等劃期的新治療藥の出現により,病原體に起因する疾病の治療法が格段の進歩を遂げたことに依る點が最も關係が高く評價されよう。死因の要目をなしていた肺炎の死亡率は急激に減少し,又嘗つては患者の3分の1が死亡した發しんチフスは.現在では1名の死者も生じない。他面これ等の藥品が手術後に使用され,その豫後に好結果をもたらしている點も見逃し難い。新藥品の出現以外にも,結核の外科的療法に見られる如く,治療方法の進歩に依る點も相當にあるに違いない。
 他面,出生の減少が乳兒層人口の低下を來し,この事が算術計算的に乳兒死亡の減少をもたらしたことも死亡減少 平均壽命延長の一因をなしたことも認められよう。然し乍ら一般公衆衞生の改善も,平均壽命の延長に影響を及ぼしていることは何人も認めるところであろう。赤痢を除く各種傳染病の激減,保建所の活動による母子衞生,結核豫防その他各般の分野に於ける改善向上が死亡の減少を招來したことは明白である。

--------------------

氣象醫學の研究(I)—氣象變化と生體反應

著者: 鳥居敏雄

ページ範囲:P.3 - P.9

A.まえがき
 氣管枝喘息,關節リウマチ等の症状が氣象變化と共に消長したり,ある種の患者が天候の變化を或る程度豫知できることは古くから臨床醫家に知られている事實である。氣象醫學の研究の系譜については增山1)2)の詳細な論文があるのでこゝではあまり觸れないことにする。ギリシヤ時代より知られていた氣象變化の特定症状乃至疾患誘發の經驗的事實に對して,近代醫學的な研究の基礎を與えたのはドイツのB. de Rudder3)である。彼はその當時天氣の解析,豫報などに有力な手段となつて來た氣團論的な考えを醫學に導入し,氣象病發生の原因を氣團交替の際の前線通過に歸した。
 アメリカのW. F. Petersen4)5)は特定氣團と疾病及び生體現象との關係を詳細に調査した。

米國の早産兒對策と、その研究調査方法を中心として

著者: 辻達彦

ページ範囲:P.10 - P.13

 早産の豫防及早産兒養護の問題が最近頓にその重要性を認識されてきたが,公衆衞生發達の指標とされている乳兒死亡の主要死因を見ると早産及それに關係する死因は乳兒死亡の約3割に達している。從つて,早産問題が大なる公衆衞生のテーマであることは今更説くまでもない。乳兒死亡對策が成功し,乳兒死亡率が出生千に付て30前後となつている米國では今後殘された課題として早産兒問題に熱心であるのは洵に自然な成り行きである。一方,吾國は乳兒死亡率漸く60臺を割つたとはいえ,未だ約20年のひらきが歐米先進國との間にあり,先に解決すべき幾多の問題が依然として山積している實状である。然しながら早産兒豫防の問題を取上げ,吾國として考慮施策することは早すぎるとも遲すぎることはまずあるまいと思われる。
 母子衞生の立場からこの問題をみると,臨床産科及小兒科にまたがり且從來兩者から幾分繼子扱いの傾向のあつた新生兒期養護の方法に關係し,又衞生行政の立場からみて自宅分娩が大部分をなす吾國の特殊性の故に,出産直後これに干與することは容易なことではない。著者は今年米國に於ける早産兒對策の實状を若干見聞する機會を得たので,2,3の實例を引用し,又基礎的調査研究方法のモデルを紹介すると共に,併せて吾國の母子衞生の立場から,對策の可能性に些か論及してみた。

身體の適應性

著者: 杉浦正輝

ページ範囲:P.14 - P.19

 Physical Fitness(身體の適應性あるいは身體能力)という術語は多く漠然たる意味をもつているが,一致した定義としては,ある特殊の筋緊張に對する適應性(adaptablity or suitabiliy)を意味する。筋緊張に對する正常な適應性は正常な生理的機能を必要とする關係上,P. F.(Pysical Fitnessの略)という術語は身體の生理的正常を意味し,健康状態をあらわすように用いられてきた。
 P. F. を,筋労作を必要とするある特殊の仕事を遂行するための能力と定義しよう。筋労作は力,速度,及び耐性により評價されるから,P. F. には種々の局面があるわけである。この逆の不適合(Unfitness)という術語もまた相對的なものである。たとえば,ある男が100kgの重さを持ち上げることが出來ないならば,彼は100kgあるいはそれ以上の目方を持ち上げるには「不適」であるが,100kgよりも輕いものならば,完全に「適し」ているのである。

一乳兒院に發生せる麻疹流行の予防について

著者: 川上敦子 ,   岡田博

ページ範囲:P.20 - P.25

1.緒言
 麻疹は乳幼兒傳染病中,最も感染力の強い疾患の一であり,且つ感染發症指數はde Rudder1)に依り95%と稱せられて居る事は周知であるが,殊に2年以下の幼兒の罹患した場合は種々の合併症を併發して重症に陥り易い。故に多數の乳幼兒を收容している乳兒院に之が發生した場合,とりわけ必要である隔離が實行不可能な場合が多く,多數の乳幼兒が一度に危險に曝される爲むしろ積極的に,曝露された全員に對し麻疹の豫防法を速やかに講じる必要に迫られるのである。
 從來豫防法としては,受動的免疫に依るNicoll,Conseil及びDegkwitz2)等の恢復期患者血清を用いる方法が確立されて居る。而し之は随時入手が困難の爲,現在一般には麻疹を經過した事の確かな健康成人血清が用いられているが,その30ccは前記恢復期患者血清の一豫防單位(3.5〜4.0cc)に相當すると云われて居る。又Mc Khann3)が胎盤よりglobulinを抽出し,同樣の效果があると云い,Cohn及び共同研究者3)は人血清からγ-globulinを分劃し,其の後之が麻疹豫防に特に效果的である事を確認した。

赤痢將來發生數の豫測

著者: 平山雄 ,   大野怜子

ページ範囲:P.26 - P.27

 さきに本誌上に報告した昭和26年度の赤痢發生數の豫測は,豫測數が第一推計(季節變動として過去3カ年平均を使用)では117,479,第二推計では(季節變動に減衰振動式より計算)では109,538なるに對し,實際發生數は92,810で,若干豫測を下廻つたとは云え,ほぼ近似の數字を示した。その週別發生曲線を詳細に検討すると,第1圖の如く,第二推計の曲線にほぼ從つている。今回は同樣の方法を用いて,最近4カ年の週別發生數を資料とし,昭和27年度赤痢發生數の豫測を行つて見た。
 ①昭和23年以降の週別發生數の對數をとる。

海外文献

除痛マスク

ページ範囲:P.9 - P.9

 患者の苦痛を即時除くという特殊なマスクが考案され,既に使用されている。此マスクの目方はゴム製で約16オンス程ある。其マスクの一端は小さい圓壔に連結され,此中にはTrileneという透明な靑色液が入つている。此マスクはDuKe Maskと呼ばれ,之を口に裝して呼吸すると疼痛は立處に消失し,患者が負傷して手足に施された厚い重い繃帶と取換えられ,排膿も極めて容易に行われ,新たに生じた激痛も取去られるのである。若し疼痛が再び始まつたならば患者は自分自身の手で容易に自己の口に此マスクを裝してTrileneを二三回嗅ぐと容易に痛みは消えて仕舞うのである。
 若し餘り嗅ぎ過ぎて意識不明になると,自分の手の弛緩でマスクは離れて意識を回復するのである。其爲にマスクは患者の手に鎖で連絡してある。

無菌生活の動物實驗

著者: 森島

ページ範囲:P.25 - P.25

 外界から侵入する細菌を絶無にしたら,生物はどうなるかの貴重な研究がNotre Dame大學の細菌學教室として有名なLobund研究所の主任Reyniers博士等によつて報告された。
 使用した動物は鶏,鼠,二十日鼠,兎,モルモツト,犬,猫,ハムスター猿,果實蠅及油虫等であつた。

時評

ヒドラジツド顛末記

著者: 豐川行平

ページ範囲:P.28 - P.28

 新藥出現には必らず一騒動持ちあがるもので,何等異すとるに足りないが,こんどのヒドラジツド騒動だけはいささか桁外れだつた。
 そもそもこのヒドラジツド狂躁曲が奏でられたのはニユーヨーク市衞生局擔當記者が,秘密裏に結核新藥の臨床實驗が行われているのに感ずき,その發表を強要した時に始まるのである。それと同時に毎日新聞特派員某氏がその事實を嗅ぎだし,臨床實驗の行われているシー・ヴユー病院に乘りこみ嚴重な警戒網をくぐりその病院にいた1日本人留學生をおびき出し,あの手この手で聞き出した記事を本社に打電した。他社に利用されることを恐れた特派員は留學生を罐詰にしていたことは想像に難くない。その記事は毎日新聞の特種として本年2月24日の朝刊の三面に大々的に掲載され,讀者の耳目をそばだたせた。この結核新藥は全く驚異的效果を有するから,これで結核病院も不要となろうといつた内容だから,藁をもつかまえたいという結核患者が騒ぐのは無理はなかつた。なかには眉唾と考えた者もいたが,續いて各新聞がわれ劣らずにこの新藥を取り上げるに至つたので,患者の期待はいやが上にも刺戟されたわけで,手術豫定の者はそれを拒否するといつた騒ぎになつた。

統計資料のページ

結核死亡統計

著者: 石田保廣

ページ範囲:P.29 - P.30

 昭和26年の結核死亡は93,654,人口10萬對の死亡率にてみると112.6であり,前年の昭和25年に比較すると28,115の減少がみられ,死亡率では23%減の數値を示している。昭和27年1月から6月までの上半期における結核死亡は41,045で昭和26年同期に比較すると約17%減である。この減少の傾向がそのまま昭和27年の後半期において續くなら,本年の推定死亡數は78,000内外となるであろう。この減少は20歳から30歳の青年層に顯著にあらわれている。これは感染或は發病の減少によるものと考えられるが他面發病者の致命率が低くなり,經過が慢性化してきたことも豫想される。
 年齡階級別結核死亡率にて觀察すると今まで,25歳〜29歳の年齡層において最も高率の死亡率を示すのが日本における結核死亡の特色であるとされていたのであるが,男性においては若年層における死亡率が年々減少すると共に50歳以上の高年者における死亡率の増加のため,昭和27年の前半期においては,第1表,第1圖に示すように男性においては最も高率を示す年齢は25〜29歳ではなく65〜69歳となつた。高年齡層において死亡率が高率になりつつあるという傾向は職後において觀察されていたのであるが,本年度においては,この現象が特に顯著になつた。

研究報告

横濱市港區内に發生した泉熱を伴う猩紅熱の一多發例に關する綜合調査研究成績

著者: 助川信彦 ,   時任直人 ,   松田心一 ,   宮入正人 ,   重松逸造 ,   浦田純一 ,   原實 ,   山下佳郞 ,   山口晋吾 ,   金尾秀發 ,   岩尾信治 ,   鍵和田滋 ,   兒玉威 ,   田中博 ,   吉田忠 ,   石川義雄 ,   和田節

ページ範囲:P.31 - P.37

I.緒言
 近年世人の關心からやや遠去かりつつある觀のあつた猩紅熱も,最近における泉熱の流行に關連して,再びわれわれの注目を引くに至つた。泉熱の本態に對する究明が進むに從つて,必然的に猩紅熱に對する再檢討が要求されつつあるからである。
 たまたま昭和26年11月より27年1月にかけて,横濱市北區日吉地區に猩紅熱患者14名の異常發生がみられたので,われわれ疫學,臨床,病原の名分野擔當者が協同して綜合的な調査研究を實施した。本例は以下述べるように,一部に泉熱の混在又は合併と思われる所見があつて,甚だ興味のある例と考えられるので,ここにその成績の概略を報告する。

猩紅熱樣疾患に對する保健所の調査

著者: 石川義雄 ,   和田節 ,   福岡文良 ,   淺沼力

ページ範囲:P.37 - P.41

 昭和27年5月から3ヵ月餘りにわたつて19名の猩紅熱患者が菊名地區に,6月12日から9日間に9名の泉熱患者が寺山地區に發生し淺沼がその調査を擔當した。
 今回の發生例に對し保健所は如何なる調査を行つて研究機關へ報告したか,又今後再びかかる疾患が發生した場合にはどんな調査をしようとしているかに就いて記載する。Ⅰ.症状に關する調査泉熱(以下Ⅰと略)2番目3番目5番目の患者(以下(Ⅱ)(Ⅲ)(Ⅴ)と略)に地元開業醫の屆出であるが其他に神奈川縣衞生研究所と淺沼の詳しい檢病で發見されたものであるが猩紅熱(以下Sと略)では淺沼が暇さえあれば小學校や患家を訪問調査していたため不思議と衞生教育が徹底し發熱や咽頭痛の小兒があると家族が先ず猩紅熱を心配してかかりつけの醫者をその日か遲くも翌日迄には呼んでいる。しかし發病が不明瞭で診定がちゆうちよされている向もありS10番目の患者(以下(10)と略)の如き淺沼が(4)宅へ培養の爲に行つた處(10)が怪しいと聞いて(10)宅を檢病した結果決定された。(19)も同じくグリッペと診斷されていたが淺沼が(18)の家族として検診した結果供かの所見に着目して横濱醫大小兒科へ紹介入院の上2日以上も精査されて決定している。Sの場合上述の樣に大部分の患者に開業醫の診察で入院しているから見逃されている輕症の2例以外に直接患者を觀察出來なかつた。

東京都麻布小學校における泉熱の流行例

著者: 松田心一 ,   宮入正人 ,   重松逸造 ,   水野俊夫 ,   田島助太郞 ,   原實 ,   山下住郞 ,   浦田純一 ,   中野英一 ,   加藤寬夫

ページ範囲:P.41 - P.47

緒言
 昭和27年3月12日,東京都教育庁保健課は港區麻布支所より港區立麻布小學校學童の缺席者數が3月8日より激増したとの報告を受けた。同日山下技師(東京都豫防課)及び水野は同校に急行,校醫神崎博士と共に疫學調査と缺席學童の臨床的診斷により泉熱の學校内流行と推定し,その規模も大きく地域も東京中心部で調査にも便なる爲,綜合調査計畫を樹て,著者等はその疫學部門を,臨床學的事項は豐島,駒込,荏原,豐多摩の四都立病院,病原學は豫研,北研が擔當する事になつた。ここにその疫學調査成績に就いて報告する。

--------------------

「公衆衛生」總目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら