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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生13巻1号

1953年01月発行

雑誌目次

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デンマークに於ける結核死亡率と結核対策

著者: 室橋豐穗

ページ範囲:P.3 - P.12

 ヨーロッパの北隅に宛ら人間の虫樣突起のような甚だ目立たない存在でしかない1小国デンマークに於て,昨1951年度の結核死亡率が遂に人口10,000対1.0という世界最低の値を示したことは,今年5月,同国が牛結核の完全撲滅に凱歌を奏したことと共に,まことに瞠目に値する輝かしい成果であると云えよう。此のような美事な成果を挙げ得た理由の1つとして,小国であるが故の国家としての団結或は共同作業の容易さという点が大きく取りあげられ勝ちであり,又事実それが重要な因子の1つであつたに相違ないが,同じ程度のヨーロッパ諸小国に於てさえも未だ達成しえない低い値に早くも到達しえたという事実は,之以上にもつと大きな理由が在ることを示すものであろう。此の国に於ける結核克服の成果が,決して一朝一夕にして容易に達せられたものでないことは勿論であり,19世紀末から一貫したプリンシプルの下に,結核克服に向つて国民全体の飽むことを知らない努力が続けられ,そして現在も尚,結核絶滅へ向つて,非常な努力が払われているという事実を知るならば,当然得べくして得た成果であると考えることが出来よう。その経緯を述べるに当り,先ず疫学的な而から眺めようと思う。記述の或部分は曩に報告した所(日本医事新報)と重複を免れないが,之についてはお許しを願いたい。

クロロマイセチンの耐性

著者: 小酒井望

ページ範囲:P.14 - P.16

 クロロマイセチン(CM)は,今日腸チフスその他サルモネラ症の特効藥として,又細菌性赤痢,百日咳,更に淋疾,尿路感染症等の治療藥として広く使用されている。然し日本ではまだ使用され出してから余り日数を経ていないので,明かに耐性と認められる菌を分離したと云う報告もまだ殆んどなく,臨床的に云つてもCMが全く無効であつた症例も余り報告されていない。腸チフス,赤痢にCMを使用して再発した症例で,治療前と再発時の菌のCM感受性を測定し,その間に差のない事から,此等の菌はCMに対して耐性となり難いと結論している人もあるが,各種の細菌の試験管内に於けるCM耐性増加は,ストレプトマイシン,サルファ劑と比べて緩徐ではあるが,やはり見られることが知られているし,又外国ではCM使用によつて菌の耐性の増加した症例が報告されている。私共も最近腸チフスに於けるかかる1例を報告した。
 私は私共の行つた試験管内実験と,人体に於ける検査成績を中心として,細菌のCM耐性獲得の問題を考えてみる。

隨想

著者: 齋藤潔

ページ範囲:P.20 - P.21

赤痢對策
 近年の赤痢の大流行はどうしたことであろう。折角総死亡率は10%を割り,結核死亡半減祝賀会の後に残されたのが,消化器伝染病の流行である。伝染病の中で一番先きに撲滅されるのが例であると赤痢が,最後に残されたのは何というてもふしぎなこであつて,他の文化国に見ない現象である。もつともRosenauの著書の新版にアメリカでも,赤痢の罹病率の上つている地方があると書かれているが,これは南部の文化のおくれた農村のことであろう。赤痢が僅かに,農村に残されて小さくなつているのなら,別に不思議はないが,わが国のように,大都会に,大いばりで猛威をふるつているということは一考を要することであろう。都市衞生当局が赤痢予防対策をおこたつているのではない。この他の伝染病の撲滅には,着々と成果を挙げているからである。
 赤痢に対する生物免疫学的な予防法が,いずれもその効果を期待し得ない過去から現在までの実状では,他国が予防に成功したのは主として都市の環境衞生施設の改善という集団衞生対策に従つたものであろうことは,何人も認めるであろう。

時評

シンポジアム形式の検討

著者: 佐藤恒信

ページ範囲:P.13 - P.13

 近頃,所々の学会に於て,シンポジアムの発表形式をとる傾向が増して来たようである。
 学会に於ける研究発表の形式が相も変らず8分,10分と云う小刻みな演題と2,3分の追加討論,そして殆んど人々の"お眼にとどめる"程度のあわただしい図表陳列? と云つたマンネリズムに陷つておりなんとかして新生面を開こうとする考えは何人の胸にも浮ぶところである。

座談会

アメリカの公衆衞生に何を学ぶか

著者: 高部益男 ,   田多井吉之介 ,   松本順一郎 ,   辻達彦 ,   平山雄

ページ範囲:P.22 - P.33

 高部 大体アメリカという国は広過ぎますね。「アメリカではどうですか」というふうな質問がよくありますが,少なくとも私が関係してきた範囲では,「アメリカではこうだ。」と概括的にいうことは相当危険があるんじやないかと前々から感じているのです。私はアメリカには12カ月しか居りません。その上ボストンで8カ月を学校で暮して,あとの4カ月は,東部のロードアイランドとか,ニユーヨークなどの五州の首府やワシントンDC,(連邦政府の首都),それから南にいつてテネシーとジヨージア,中部のデトロイト,アンナバー,シカゴ,それからロサンゼルスとサンフランシスコといつた風に歩き廻つただけです。8カ月の学校というのは相当無駄だと思つて行つたのですが,アメリカ公衆衛生の総論を知るのには,充分に役に立つたと思います。その後の旅行は,その御蔭か各論的にものを見たことになつた訳です。田多井さんはどのように歩かれたかということを何か一応お話しいただけるといいと思うんですが。
 田多井 私のオリエンテーションはペンシルバニア州の片田舎にあるバツクネル大学,そこに1ヵ月半いました。私達は最初3人で一緒にいつたわけですが,バツクネル大学へゆく前にニユーヨークに滞在する期間がありました。大体2週間,遊んでいては勿体ないという意昧で方々見に廻りました。

研究報告

齲蝕とその予防に關する実験的研究(第2囘報告)—弗化物の齲蝕細菌醗酵阻害作用について

著者: 帆足望

ページ範囲:P.37 - P.41

はしがき
 1940年B. G. Bibby & M. Van Kesteren1)はNaFの種々なる濃度が乳酸菌の酸産生に及ぼす影響に関する実驗を行い,弗素IPPMは細菌による酸産生を制限する事を報告した。又F. J. Mc Clure2))は,IPPMの弗素は唾液の澱粉分解作用に影響を及ぼさない事を証明した。1936年L. S. Fosdick & H. L. Mansen3)並びに1937年L. S. Fosdick,H. L. Hansen & G. D. Wessinger4)は口腔内細菌による醸酸機転につき説明報告した。其の際Yeastの役割を強調した事は注目に価する。今日の酵素化学的研究によると細菌の醸酸機転は未だ不明であると云われており,作用段階5)6)7)にしても11段階或は12段階と色々説かれているが,何れも筋肉の乳酸生成機転或は解糖作用から推定の域を出ていない様である。此の醸酸機転に際して弗素は,糖より乳酸になる分解過程に於けるHarden-Young esterよりNilsson esterとなり更にEnolaseの作用によりPhosphopyruvic acidとなる階程に於て,此のEnolaseに酵素毒として作用する事が明らかにされている。

東京都内公衆浴場の汚染状況並にクロラミン消毒試驗成績

著者: 斎藤功 ,   小林正武 ,   両角清 ,   大坪正一 ,   中山袈裟典 ,   川口京子

ページ範囲:P.41 - P.46

 公衆浴場の衞生状態に就ては,戦前から注意されており,調査も屡々行われているが、総ての事情が最悪であつた終戦後の各浴場の混雑と衞生状態の悪化は甚しいものがあつて種々の物議を醸し,遂に公衆浴場法の制定をも見るに至つた。著者等は斯かる情勢に鑑み既に1948〜49年度に浴場の実態調査を行い1)浴水1cc中の一般細菌数(以下単に細菌数と略称)が甚しきは数百万乃至数千万に達する事も少くないものを観た。終戦前後の浴場衞生上最も憂慮せられたものは矢張浴場に於ける伝染病の感染乃至媒介であつて,前者では性病特に淋疾,後者では発疹チフスの虱による媒介である。浴場脱衣室のDDT噴霧消毒は,後者に対する処置としていち早く登場し,現在では普及している。然し前者に対する積極的処置たる浴水及び浴室の消毒は現在迄行われなかつた。之には色々直接乃至間接の原因もある訳ではあるが,直接且つ根本的の原因は適当な消毒方法が従来は見出されていなかつたという事にあると思われる。今迄浴水の塩素乃至晒粉による消毒試驗は二,三の先人によつて試みられたが,2)3)4)浴客に対し有害な刺戟が強過ぎて操作に困難が多く実用性が認められずに今日に至つている。

労働時の温熱環境と皮膚温

著者: 倉田正一 ,   星幸男 ,   和久井健三 ,   船津雄三

ページ範囲:P.46 - P.49

 労働のための至適温度を求める生物学的な示標としては,従来,カタ冷却力,感覚温度,Eguivalent warmth等が用いられており,一方,身体の側から,体温,心臓機能,呼吸機能,エネルギー代謝率などをとりあげて,測定値個々の,或はこれらの機能の相互の関連を求めているのである。又近年は,Winslow等の熱平衡の理論的研究の結果を労働環境にとりいれて,標尺にしてゆこうとする試みがなされている(1)
 さて,皮膚温は内部環境温度と外部環境温度を区切るものであり,両者間に介在するものであつて,その変動は両環境からの影響を反映しているものにほかならない。

アンケート

私が厚生大臣になつたら…………

ページ範囲:P.17 - P.19

本アンケートは医界出身新代議士,編集委員,編集同人全員に問を出し,お答えをいただいたものである。(到着順)

統計資料のページ

結核の統計

著者: 石田保広

ページ範囲:P.34 - P.36

 前月号においては結核死亡統計について,最近のトピツクスを取り上げたが,今回は結核の罹患率,ツベルクリン反應とBCG,結核病床数と入院患者数について,簡單に解読を加えてみたい。
 第1表に昭和24年より昭和26年にいたる最近3カ年間の性別年令階級別の結核罹患率を示した。この数値は全国人口の約35%にあたる結核精密統計指定地域調査の集計によつて,全国における罹患率を推計したものである。指定地域の選定を保健所にまかせた為に,保健所への交通の便利な地域が選ばれている傾向があり,必ずしも全国を代表していないかもしれないが,全国的の罹患統計としては唯一のものであつて,充分に利用し得るものと信ぜられる。尚昭和27年6月より,このサンプル地域は全国を代表するものに改正された。

海外文献

年取る原因

ページ範囲:P.33 - P.33

 紐育州の立法委員会は英国オックスフオード大学内Nnffied老人病研究班の班長U.Korencheosky博士に老人成因の原因につき調査依頼のを為しその解答の要旨は下の如くであつた。
 年を取るということに就て基礎的な主要の事はまだわからない。然し第二次的の事乃至腺の欠陷,動脈硬変,心臓や,肝,腎,其他の臓器の退行変成等が挙げられている。しかし之等を挙げられたとて,之れが真の主要の原因とも考えられない。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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