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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生13巻3号

1953年03月発行

雑誌目次

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牛結核の問題—デンマークに於ける牛結核撲滅の跡を省みる

著者: 室橋豊穗

ページ範囲:P.3 - P.9

 1.牛結核は人間の場合と同様に,結核菌発見(8182)以前からの大きな問題であつた。R.Kochが結核菌の検出や培養に関する研究を発表し,之に人型及び牛型の存在することを指摘してから,結核に関する研究は,只に人間に就てのみならず,牛乃至他の家畜についても急速に進められるようになつたが,分けても,牛を主とする畜産農業を盛にやつている欧州一帯にかけては,之に対する研究と対策とが漸次,国家の意志によつて進められるようになつたのである。デンマークも之等の国々の一つであるが,先覚者B.Bangの一生をかけた研究と努力とが,国民殊に農業担当者の理解と政府の支持とを得て,着々とその効果を表はし,遂に,今年5月には,デンマーク政府をして「国内に結核牛1頭も存在せず」という声明を発表せしめるような輝かしい成果を結んだのである。デンマークの牛結核撲滅に対しては,如何なる反対にも屈せず,所信を一生貫き通したB.Bangの不撓不屈の努力に負ふことが甚だ大きいが,夫と共に夫を理解し推進する為に努力を惜しまなかつた農業担当者,殊に若い世代の人達の努力と,後年結成され,現在大きな組織となつている所謂協会作業組織(Cooperation)の理解ある協力とには,学ぶべき多くのものがあると考える。

アメリカの保健婦

著者: 三浦貞

ページ範囲:P.10 - P.13

 「アメリカの保健婦」という言葉で米国の保健婦を語るのはむつかしいのです。それは彼等が何よりも先ず看護婦であるからであります。此のことは米国の保健婦事業の始めから七十年に近い歩みの今日に至るまで,終始変らない根本的要素であり其の基礎の上に成長発展してきたのであります。
 1859年英国に始つた訪問看護事業は1885年頃より米国に取り入れられ,主として地区の婦人団体の代表的社会奉仕事業として貧民の看護を行つて来ました。従つて看護婦は其等婦人団体に雇われて働いていたわけです。

論説

SOS! SOS!

著者: 石垣純二

ページ範囲:P.2 - P.2

 この間高知と岐阜の県会が衞生部の廃止を決議した,と思つたら島根や岩手にも,同じ動きが見られるという。悲報踵をついて至るという感じである,予期しないことではなかつたけれど,歴史の大きな齒車が逆にまわりはじめたのだ。文部大臣が議会で堂々と「世界中を相手にして四年間戦つたのだ。日本国民はもつと誇りを持たなければ――」といつた二,三年前なら,それだけで追放間違いないという暴言を平気で述べたてる時代が来たのだ。今にどんなことが起るか,この辺で十分私たちは覚悟をきめねばならないようだ。
 こんど発表された行政整理の本多私案をみるとソ族昆虫の駆除や食品衞生をはじめとして,公衆衞生事業は軒並に槍玉にあがつている。要するに現代の政治家は,大して票にもならず儲かりもしない公衆衞生などには,何らの興味もないのだ。それは簡易水道予算一つを見てもわかる。今年のこの予算は一躍して三倍にも膨れ上つた。理由は簡単,去年水道をつくつてもらつた村の票の八割が,口を利いた代議士に出たからだ。今さらのように,靈験いやちこなのに驚いた連中が,こぞつて大蔵大臣をせつついたからだ。そして,東京の料亭は,陳情の町村長連の大群に埋まるという光景と相成つた。衞生部も厚生省もあつたものでない。郷土出身の自由党代議土への直訴なのである。簡易水道においてはじめて厚生省は,他の利権省なみに昇格したというべきであろう。

時評

抗酒藥の取扱

著者: 三堀三郞

ページ範囲:P.14 - P.14

 最近異色の医薬品として衆目を浴びているものに,抗酒薬とか嫌酒薬とか言われている,アンタビユース(Antabus)なるものがある。このものは化学的にはテトラエチル・チウラム・ダイサルフアイドなる化合物で,70年も前に合成されて,30年も前からゴムの硫化促進剤としてゴム工業方面に用いられているものであるが,数年前,デンマークのヤコブセンが偶然の機会から,このものを服用すると体内におけるアルコールに対する感受性が高まることを発見し,これによつてアルコール中毒症の治療法を確立したので,欧米では既に市販されているものである。
 ところで,最近わが国でもこれが製造の許可申請が厚生省に出されたので,日本における薬理並に臨床実験の結果,その効果の著しいことが認められたので,いよいよ許可ということになつたがさてこのものの取扱について一つの問題が生じたのである。

研究報告

原子爆彈による広島中央電話局の被害調査—特に爆撃時の居所と被害度との関係について

著者: 佐藤德郞

ページ範囲:P.22 - P.26

調査目的並に被調査対象
 爆撃当時在局した193名について人体被害状況と建築物との関係を知るために2カ月後と4カ月後に現地調査を行つた。
 被調査の対象は広島中央電話局である。該対象の建物は爆心の東南水平距離約510米より570米に在る三層鉄筋コンクリート建築物である。

松阪地方に於ける受胎調節実施状況(第1報)

著者: 掃部俊造

ページ範囲:P.28 - P.31

緒言
 昭和26年10月には,受胎調節普及要領が示され,同27年5月には,優生保護法の一部改正を見,保健所の優生保護相談所に於ける受胎調節の適正な方法の指導及び普及が強調されるに至つた。それで松阪保健所としても,この要望に応ずべく,本年4月より受胎調節用の器具,薬品を完備し,講演に,或は実地指導に活動を開始した。然し乍ら,この活動の效果を見る為には,指導前の受胎調節普及状況を知る必要に迫られた。それで管内35市町村の中,6カ町村を選んで調査を行つたのでその結果をここに,第1報として報告する次第である。

金澤市兼六中学校に於ける熱性疾患の集團發生に就いて

著者: 河村光平 ,   西本博 ,   野村潔 ,   土井保

ページ範囲:P.31 - P.34

緒言
 昭和27年6月金沢市兼六中学校の第3学年生徒に集団的に発生した一熱性疾患に就いて調査する機会を得たので,その疫学的観察に就いて述べて見ようと思う。

ツベルクリン反応に伴う異常局所反応の集團發生例に就て(第1報)

著者: 藤森岳夫

ページ範囲:P.34 - P.38

 日本の結核予防対策の一環として結核の集団検診は益益盛んに行われるようになり,我々第一線で此の仕事に従事している者はその実施に当り注意に注意を重ねている積りであるが,それでも時として意外な現象に当面し失敗を通して又新しく学んで行く。最近私は管内の某女学院に於る結核集団検診に際し,ツ反応部位に異常局所反応の多数出現した例に遭遇した。そこでその現象を疫学的に分析すると共に一,二の実験を試み或る種の知見を得たように思うので是に報告する。

井水の合理的消毒について

著者: 村田典行 ,   小槻松太郎

ページ範囲:P.38 - P.43

 今回所沢保健所管内の1地区20カ所を選定し,環境衛生事業の一端として,井水の継続的塩素消毒を実験したのであるが,その要領が適当である場合,大体所期の目的を達し得る事が認められ,その経験に基き所沢市の消化器系伝染病多発地区において,防疫作業の一として1地区30カ所の井戸に対し装置を設け消毒を開始した。これは井水が常時水道水程度の塩素臭と味の範囲において継続して消毒が果されている点は,従来の晒粉万能に依る消毒方法より数段進歩した方法であつて,普及徹底される可きである。又一般的井戸消毒についても,単に従来の方法のみを以つてしては消毒の普及と徹底が期待し得ないと思われるので,今回の実験成績と共に井戸の消毒について記してみる。

Bis-(5-nitro-fur furylidene)-acetone guanylhy dra zone(Panazon)の防腐劑としての基礎的及び応用実驗

著者: 柳澤文德 ,   齊藤亭 ,   小笠原龍雄

ページ範囲:P.43 - P.49

緒言
 食品の防腐剤に関する研究に就ては古来幾多の業蹟があるが,新しい諸種抗菌性物質,化学療法剤等相次いで発見せられるに及び,此等を応用しての防腐的処置も顕著な進歩を示した。然し未だ凡ての食品に有効な理想的防腐剤を見出し得ない。之は防腐剤として具有すべき条件が複雑多岐に亘るが為であろう。従つて各食品別に適応した薬剤を探し求める方向に研究が進められている現状である。当研究所に於ても兼てより各種薬物に就て防腐剤としての価値検討を系統的に研究して来た。
 フラン誘導体特にニトロフラゾーンは従来防腐が困難なる煉製品或は鮮魚等に効果があることが認められて来た。然しニトロフラゾーンは防腐剤としての最も問題視される毒性に就ては必ずしも安全性を強調し得るものではない。今回,富山化学工業会社に於て合成された,新フラン誘導体Bis-(5-nitro-furfurylidene)-acetone guanylhy dra zone(商品名Panazon)は,我々の現在迄の実験では,毒性が比較的低く現れる点に鑑み,興味あるフラン誘導体であると考へ,防腐剤としての検討を試みたので,大体の成績を茲に中間報告として記載する。既に化学治療剤として中村教師等2)の基礎的研究及び落合氏等3)の赤痢に対する治療報告があり,赤痢に対しては注目すべき効果を收めている。

学会だより

—中毒学会談話会—「青酸中毒シンポヂウム」「一酸化炭素中毒シンポヂウム」

著者: 野村茂

ページ範囲:P.15 - P.17

 戦後巷間に惡質な酒精飲料が氾濫し,メチル禍などという言葉が流布され,又,一方,戦後産業の復興と共に工業中毒への関心が高まりつゝあつた頃,幾人かの有志によつて発足した中毒学会談話会も,昭和23年3月に第1回の集りをもつてから,已に20回の会合を続けてきている。
 公衆衞生,産業医学,薬理単,薬学,法医学,農学,工学等の各分野の同学の士が,形式にとらわれずに打解けた討論を交すことを念願として生れた本会のユニークな雰囲気は,この間に,夫々他の分野からの知識の吸収に,又会員相互の共同研究に,己に少なからぬ実蹟を示してきている。

統計資料のページ

昭和26年度における保建所事業成績について

著者: 石田保廣

ページ範囲:P.18 - P.21

 戦後,衞生行政の中心が保健所に移り,公衆衞生の中核として保健所が発足して以来保健所数において増加し,昭和26年10月には742と増加し又施設の内容,職員数の増加,運営法の改善等が行われ,年々保健所事業成績の向上がみられた。したがつて公衆衞生への努力の1種の指数として保健所の事業成績を観察することは重要なことであるので今回は昭和26年保健所事業成績年報の数字を利用して,これに簡単な解説を加えてみたい。
 第1表に昭和26年における保健所事業成績件数の1カ月保健所1カ所についての平均件数を示し,比較参考の為に前年のそれもあわせて記した。前述の如く,保健所事業成績は昭和22年まではぐんぐん伸びて,前年の成績と比較すると,常にいちじるしい増加がみとめられているが,昭和26年においては昭和25年のそれと比較すると,必しもその件数においては向上していない。即ち特に減少のいちじるしい項目は医療社会事業取扱い件数,予防接種人員,性病接触者調査件数,食品及乳肉衞生等であり,増加の著明な項目は保健婦家庭訪問件数である。健康相談件数及び集団検診件数においては結核に関するものの増加がみられたが,妊産婦,乳児に関するものは減少している。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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