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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生13巻4号

1953年04月発行

雑誌目次

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百日咳をめぐる最近の進歩

著者: 山本郁夫

ページ範囲:P.3 - P.8

 麻疹と共に小児病のガンとも言われる百日咳の為に,吾国に於ては毎年5000〜9000の幼い命が犠牲になつている。患者数は多い年には100万を上廻るのではないかと想像される。百日咳の致命率(lethality)はなる程低いので,世の親達はジフテリアや猩紅熱こ対する程この病気に対しては恐怖心を抱いていない様である。しかし国民衞生の立場から言うならば,このように死亡率(mortality)の高い病気を,無為無策のまま放置しておくわけには行かない。勿論この問題は早くより小児科医によつて真劍に取上げられ,吾国に於ける百日咳研究の基礎はこのような人々によつて築き上げられ,この方面の優れた業績が多数発表されておる事は周知の通りである。しかしこれ等の研究も実を結ぶ事なく国は挙げて戦争に突入し,私共は勿論外国の事情を知る由もなく空しく時を過して来たのである。1944年頃までの内外百日咳研究の動向は小山8),Lapin14)等によつて詳しく綜説されているから,これ等を参照され度い。一方米国に於ては,百日咳ワクチンに関する広範な野外実験と,愼重な統計的分析研究の結果,ワクチンの予防効果が確認され現在広く一般に予防接種が行われている。終戦後吾国では連合軍総司令部の指示により,法律の規定する所に従つて百日咳予防接種が施行されるようになつた。

百日咳の疫学的研究—昭和24年より25年に亘つて流行した1農村に於ける調査

著者: 金子義德

ページ範囲:P.9 - P.15

 百日咳の疫学的調査はすでに幾多先人によつて行われている所であるが,百日咳の爆発的流行に関する報告特に離島辟村などにおける調査報告は極めて少ない。Stallybrass及びde Rudderの報告,わが国では小山の伊豆御蔵島,室橋等の伊豆三宅島の大流行の調査(2)があり,百日咳流行の機序について疫学的考察が行われている。しかしながら百日咳には果して先天性免疫が存在しないかどうか,不顕性感染の頻度は如何,などの問題については,疫学的にも極めて重要な課題であると考える。これらの問題についてたまたま百日咳の爆発的大流行を見た埼玉県高坂村乳幼児について,疫学的調査特に百日咳皮膚反応検査をも利用して詳細な調査を行つた。ここにその概要を報告する。

医師にかかつていない鈎虫寄生者の症状およびその作業能に及ぼす影響について

著者: 小宮義孝 ,   佐藤澄子 ,   相崎德治郞

ページ範囲:P.25 - P.30

 従来の鈎虫症の症状その他に関する大部分の報告は,主として病院及びその外来患者について調べられたものであるが,実際には,私たちの経験によれば,全く医師にかかることなくして日常の作業をいとなんでいる鈎虫保有者は,特にわが国温暖地帯の農村には,かなり多いと思われる。これらの人々の大部分はおそらく軽度の鈎虫保有者であり,かつ自分では鉤虫を保有していることを知らないのが大多数である。かような人々は一体どの程度の症状を有しており,またその作業能はためにどの位の影響を受けているのであろうか。そう云つた概略を知ろうとして行つたのが本調査である。

論説

学校衛生と保健所活動

著者: 奥野徹

ページ範囲:P.2 - P.2

 学校衛生は,学校という特殊な環境内にある教職員と学生,生徒或いは児童などの集団に就いての保健衞生の維持とその向上をはかることを目的として居るし,保健所はその管轄である一定地区を対象としてその地区内の一切の公衆衞生の責任を負とになつている。従つて学校という特殊な環境もうこその地区の中に存在する限り,その衞生問題に関しては,間接には,保健所活動の埒内にあることはいうまでもない。所が学校が文部省や教育委員会に監督され,保健所が厚生省や衞生部局の監督下にあることから,時に学校衞生というものを保健所活動から切り離なされた治外法権的存在でもあるかのような錯覚をおこしている人が見受けられるのは,甚だ遺憾なことである。衞生問題は「生きもの」なのだから同じ子供をつかまえてこれは学校,これは保健所と機械的に割り切ることがそもそも無理なのである。
 さて,学校にも大学から小学校まであるが,保健所活動と最も密接な関係にあるのは,小学校と中学校の学校衞生である。そこには,保健所地区内の一定の通学区域内に住む家庭から生徒や児童が集まつて来ているからである。

座談會

檢査技術者に関する問題

著者: 斎藤潔 ,   軽部彌生一 ,   小酒井望 ,   秋元壽惠夫 ,   佐藤德郞 ,   新井養老 ,   兒玉威 ,   染谷四郞

ページ範囲:P.16 - P.24

 衛生検査の技術者,臨床検査の技術者の間の調整,病院検査の中央化,新しい検査技術者の養成等が大きな問題であり,その成否が検査技術の発展の方向を規定することになつている現在両者に御集りを頂いて座談会を開催した。

時評

主任衛生管理者制度

著者: 山本幹夫

ページ範囲:P.31 - P.31

 衞生管理者制度が実施されて五年を経過した昨年八月,労働安全衞生規則が改正されて主任衞生管理者の制度が誕生した。法文上に現われた処を見ると,主任衞生管理者の任務は「他の衞生管理者を指揮し,衞生管理に関する事項を統轄する」とされ,衞生管理者がおかれている事業では従来の衞生管理者の他に一名づつ選任されることになつている。又主任衞生管理者の資格については,医師であることも,基準局長の免許を受けたものであることも必要がなく,「当該事業における衞生管理を主管する労務,厚生等の業務の職制上の責任者をもつてこれにあてることが出来る」と規定されている。
 主住衞生管理者が医師である場合は別として,医師であつて,一般の衞生管理者の様に試験も受けず,特別な資格もない状態でよいかどうかという点は相当問題があろう。衞生管理の仕事は労働衞生に関する特別な知識と技能と経験を要求するものであるからである。所が従来の国家試験そのものは,遺憾乍らそれ程程度の高いものとはいえず,数日間の講習の受講によつて合格する程度のものであり,識者や使用者の中にはこの試験を軽視するものがある程であつた。大会社の労務の責住者の中でも,この試験に合格して免許を受け衞生管理者に選住され,その主住者として,熱心にこの仕事に従つている人も時に認められたが重要なポストの人々の多くは,この受講や受験の面倒を甘受するものはほとんどなかつた。

研究報告

大阪市内某下水抽水所より発散する惡臭瓦斯の被害調査

著者: 相澤龍 ,   鈴木歌 ,   杉平公代 ,   中元寺典子 ,   田中美知子 ,   寺西敦子 ,   村上恭子 ,   平尾惠美子 ,   藤井佳子

ページ範囲:P.38 - P.41

 我国の都市下水道の不完全なことは周知の所で,之が解決は都市に於ける公衆衛生活動の重要課題である。大阪市の下水改良工事は明治27年着工以来今日まで約50年を経過して居り,下水処理場は津守と海老江の二箇所にあるが,此処に流入する下水は市中央部のもので,それは全市域の極小部分に過ぎない。市周囲部に向つて昭和12年以来第5期工事の一部を行つたが,之は戦争の為に打切られ,現在多数の人口を收容して居る市周囲部には排水施設が極めて貧弱な地域が非常に多い(1)。殊に淀川西岸の西大阪方面の如き低地帯は毎年浸水に悩まされるので,市は数年来応急措置として各所に抽水所を設け局所的にポンプによる下水排除に努めて来たのであるが,本調査の対象となつた地域は之に該当する抽水所である。

新型サルモネラ“Salmonella nagoya”

著者: 中島浩二 ,   内藤晶之助 ,   中谷林太郞 ,   福見秀雄

ページ範囲:P.41 - P.43

 1家族内に発生した3名の急性胃腸炎患者の糞便から検出されたサルモネラについて報告する。本菌は1951年9月29日に分離され,サルモネラとしての生物学的性状を備えており,抗原構造上C2群に属する新型菌と考えられる。人に対して病原性を有し,急性胃腸炎の原因菌となりうる。

Dyscrat icindexによる衛生状態の判定

著者: 大山保 ,   靑山光子

ページ範囲:P.43 - P.45

 衛生事業を計画するにも又事業の効果を判定する場合にも極めて重要な参考資料となるものが各種死亡率である。
 その第1にあげられるのが乳児死亡率である。しかしこれは満1才未満の乳児の死亡の状況を表わすものであり,それ以後に於ける各種疾病その他の原因による死亡の状況は乳児死亡率のみでは推察する事は出来ない。従つて単に乳児死亡率のみから全体の衛生状態を判定する事は完全とは云い難い。

ジフテリアの小集團発生からみた豫防接種の効果について

著者: 山下章 ,   石丸寅之助

ページ範囲:P.45 - P.47

 ジフテリア予防接種の歴史は古く,その効果についても多くの報告があり,著者の1人山下も曾て綜合医学(第5巻,第5号)誌上に発表したことがあるが,行政的に予防接種法によつて実施した対象について,その効果を明確にあらはす資料は少いようである。
 今回東京都大田区馬込幼稚園で,昭和28年1月28日から2月10日迄の間に患者14名を出した小集団発生があつたので,この集団発生において,出来るだけ詳細に予防接種の状況を調査したところ,少数ながら比較的まとまつた結果を得られたので,以下その概要を紹介する。

夜間高校生を対照とせる血液梅毒反応に就て

著者: 杉浦靜枝 ,   伊達富男 ,   早川博

ページ範囲:P.47 - P.48

1.緒言
 Toreponeum Pallidumの感染に依り惹起される疾患即ち梅毒は古くから知られて居る疾患の一つである。今次大戦後我国に於ける梅毒の増加は顕著なものであるが阪野氏は,その増加を年令別に観察し高年令層を除き各年令層共著明な増加を示すが,特に11〜20才の若年令層の増加度が21〜30才の好発年令層の増加と略等しいことに注目して居る。梅毒の如き疾病の年次的変動は平時は平衡状態を保つて推移しつつあるが社会状態の変動に伴つて感染の機会が増大する様な場合には新生患者が増加し而して若年令層にこの影響の強く現はれる事が推察される。余等は某高校夜学生徒約475名に対し集団梅毒血清反応を実施したが是等生徒は主に晝間職場に於て労務に従事し夜間学徒として苦学するものであるが調査した結果は血液ワツセルマン反応は全部陰性者なりしも誘発試験の意味に於て更に検討確認の必要あるもの数名あり。

映画

「生活と水」について

著者: 内藤幸雄

ページ範囲:P.32 - P.34

 水道をもたない町や村に,完備した簡易水道のつくられることをねがつてつくつたのが,この映画である。
 文化映画のつまらなさ,まして役所が後援しようとする映画の鼻もちならないものにあきあきしていた私達が,何とか普通の人々にわかりやすく面白い映画を,と取組んだのが昨年の正月。色々なシナリオを読んだり,松竹の某プロデユーサーの意見を拝聴したり,はては私達のいう所謂つまらない文化映画を何回となく繰返して見たりしているうちに,いつの間にか春もなかばとなつてしまつた。夏ともなれば例年の赤痢が今年はもつとふえるだらうという。早く,一刻も早くこの映画を全国に配布して,身の廻りの水をもう一度見直して貰わねば,とあせりつつも思うように仕事がはかどらない。

統計資料のページ

労働疾病統計

著者: 及川富士雄

ページ範囲:P.35 - P.37

1.まえがき
 昭和26年7月から1年間労働省実態調査の一つとして損失労働時間から見た労働者の疾病状況を調査した。目下その結果を集計中であり11月分迄しか集計が完了されていないので今回は中間報告という形に止めざるを得なかつた。何れ1年分の集計完了後にそれを一つにまとめて公表される予定である。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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