icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生13巻5号

1953年05月発行

雑誌目次

--------------------

日本に於ける有機燐殺虫剤パラチオンテツプ中毒問題

著者: 上田喜一 ,   石堂嘉郞 ,   高橋謙

ページ範囲:P.3 - P.10

 昭和27年6月本誌上(1)に新しい全国的な中毒問題として稲のメイ虫に卓効のあるパラチオン及ダニ,アブラムシ類に有効なテツプ等の新殺虫剤の紹介をしてから早や一年近くを経過し,再び春と共に3月中旬から農薬工場は毎日数十屯の生産発送を開始し6月からの使用期に備えている。幸い私共は農林省の委嘱により設けられた「新農薬の人畜に対する影響」に関する研究班の委員として此の問題に最も多く接触した者の一人と考えるので我が国の過去一年の経験を報告し,実際に指導に当る方々に御報告する義務があると考える。厚生省に於ても此の問題を重視されて来る5月を農薬中毒予防月間として農家に対する啓蒙運動を行う予定と聞いているのでその際の御参考になれば幸である。尚本稿では主として予防問題に主力をおき,治療の詳細に関しては別の機会(2)に譲る方針である。

赤痢の疫學調査方法について—(昭和27年3月神戸市内N造船所に発生した集団赤痢の疫学調査例)

著者: 國立公衆衞生院疫学部

ページ範囲:P.11 - P.16

疫学調査とは
 「疫学調査方法」と改つていうと,読者の中には何か特別の,新しい調査方法の如く考えられる方もあるかも知れないが,ここで私どもの述べようとしている「疫学調査方法」というのは,実は第一線の防疫を担当しておられる方々にとつては,日常茶飯事のことばかりであつて,ただこれらの方々が実際に赤痢又はその他の伝染病が発生した場合に,普段実行しておられることを少しく順序だててとりまとめたのに過ぎないのである。
 もともと疫学調査というのは,ある疾病又は事件の発生状況を集団的に観察して,その起り方や拡り方等を研究するとともに,その因つてきたる原因を明かにして,その疾病又は事件に対する予防,防遏対策を確立することを目的としているわけであるが,この場合調査に当る者の態度として特に強く要望されることは,あくまでも客観的に物事を判断するという態度を失わないことである。

時評

最近の集團食中毒について

著者: 石丸隆治

ページ範囲:P.17 - P.17

 昨年春から秋にかけてしばしば新聞紙上に「集団食中毒」の活字が見受けられ,集団赤痢とともに新聞だねの一つの流行を形成したかの如き感があつた。特に,修学旅行の学童に発生した場合,三段ぬきや五段ぬきで取り扱われ,近年事件が多発しているような印象を与えたようにおもわれる。今年もそろそろ食中毒の季節がやつて来たが,その現状はどうであろうか。
 集田食中毒の様相にも時代の変化がみられる。終戦後暫くの間は,配給主食類がその配給元で汚染され,それが配給された広範な地域にわたつて患者が発生したり,またメタノール入りの密造酒により,その販売系路にそつて患者が多発したような事例が多かつた。これに反して,近年は給食方法からみると学校給食・工場給食のような集団給食及びこれに類似した修学旅行等の旅館・仕出しによるものが多くなつた。また食品の形式では,弁当・折詰料理などが目立つており,なおこれらの原因食品としては魚介類及びその加工品特に魚肉煉製品が過半数を占めている。これは,食糧事情・輸送事情の好転に伴い宴会,団体旅行の機会が多くなつたことも一つの理由であろう。

座談会

「赤痢」をどうするか—今年の赤痢対策

著者: 小島三郞 ,   金光克己 ,   重松逸造 ,   小張一峰 ,   野辺地慶三 ,   松田心一 ,   豊川行平

ページ範囲:P.18 - P.30

 小島 従来赤痢の座談会なるものがいろいろな雑誌で,やられた。その内容と語る人は,時代を超越して大抵相似ている。と云つてもよくみるとセンスの相違など看得して文献的興味大である。私は今日の座談会が旧型を打破し,何等か赤痢の予防,治療,撲滅に貢献できるように,皆さん方と大いに話し合おうと思う。
 初めに金光さんからお話願いたい。

論説

第23回日本衞生學会総会に際して

ページ範囲:P.2 - P.2

 第23回日本衞生学会総会は千葉大学の谷川久治教授が会長,松村名譽教授が名譽会長ということで,来る5月6,7,8日の3日間に亘つて千葉大学講堂で開催されることになり,谷川教授以下その準備に忙殺されておられるとのことである。
 この会も年々盛会になり,聞くところによると,本年度の申込演題数は約270以上に及んだということである。千葉大学では会場の関係上どうしても200題以下でなければ,予定どおり総会が終らないというので,申込演題数の多い教室,研究所に依頼し,一部を紙上発表にすることとしたのである。演題が多すぎて一部を紙上発表としたのは,本会に限つたことでなく,昨年夏北海道で開催された日本公衆衛生学会でも見られたところである。かくの如く申込演題が年々増加することは,斯学のため慶賀にたえない次第であるが,総会の運営からいえば実に困るわけで,止むを得ず,演説時間を極端に制限したり或は紙上発表を強要したりすることになるのである。しかし,学会の目的使命からみれば,折角長年月情熱を傾けて行つた研究をわずかな時間で発表させたり,紙上発表させたりすることは,何といつても避けるべきことである。といつて,現状で申込演題数が今後減少するという見通しは全然ない。事実,わが国の衞生学,公衆術生学教室や研究所,保健所などの数から考えて,今後益々拍車がかけられるものとしなければならない。

研究報告

京都地方に於ける蠅の研究—(第1報)昭和26年度に於ける季節的消長—(1)各屬別消長

著者: 渡辺淸

ページ範囲:P.33 - P.35

1.緒言
 防疫学上近時蠅の研究が甚だ旺んとなり,昭和26年4月日本衛生動物学会に於ては全国的にこの消長調査に着手される事となつた。
 私も及ばずながらこの調査の一翼を荷わんものと,同年5月22日より当教室小林博士の御指導のもとに蠅の研究を開始した。

採便法の相違による赤痢菌檢出成績の差異

著者: 藤澤秀雄 ,   内田稔人

ページ範囲:P.36 - P.38

緒言
 現今の我国赤痢疫痢の防疫対策に於て,患者保菌者の早期発見隔離が第一要件であつて,菌発見率の向上はその益するところ大である。余等は勤務している鉱山に於て昭和22年7月より従来行われて居なかつた竹捧を用いて採便培養し,好成績を得たので茲に報告する。
 尚逐日に菌検索を行つている間に,赤痢菌とその他の腸内細菌との間に拮抗現象を想像させる興味ある例に気付いたので,些少考察を加えて見たい。

一地區に於ける生活保護世帶の受胎調節に対する態度

著者: 寺村倫子 ,   松本富貴子

ページ範囲:P.38 - P.41

緒言
 優生保護法が改正され新しく受胎調節の普及に関する条項が加えられるに至つた今日,政府は固より国民一般の受胎調節に対する関心は非常に大なるものである。然るに調節の実行程度に関しては今迄種々な調査があるが平均的にみて,都市25%,郡部20%,農村5〜15%と云われている。又受胎調節の実行は,諸外国に於ても同様である如く,日本に於ても兎角知識階級層に多く,その実行の最も望ましい階級に於ては極く僅かにしか普及していない。また子女の教育すら満足に出来かねる,否生活そのものに追われ勝ちな家庭では殆んど受胎調節は構じられていない様である。
 受胎調節の普及は母体の保護と,国民の質的向上の二つを主目的とするのであるが,たまたま後者を考える時逆陶汰の問題が考慮される。逆陶汰を防ぐ為には受胎調節指導の方針,方向にも充分な考慮が払われなければならないと考える。

アイスクリームの食品衛生學的調査報告(昭和27年度)

著者: 土平一義 ,   中村龍夫 ,   牧茂夫 ,   熊澤泰

ページ範囲:P.41 - P.42

緒言
 吾々は乳製品の食品衛生管理の一環として今夏名古屋市内のアイスクリームの検査を行つた。夏においてはアイスクリームはもう吾々にとつて欠くべからざるものになつており,又近年赤痢の多発にかんがみ,必需品にかはりつつあるアイスクリームの食品衛生学的調査は食品衛生取締りの上からも又指導の上からも意義なしとしない。それで敢て此の小篇を報告して識者の参考に供したいと思う。

井水檢査成績と赤痢患者の発生に対する考察

著者: 辻村啓

ページ範囲:P.42 - P.43

 飲料水の良否は腸管系伝染病との間に重要な関係があるとされ,其の良否は保健衛生上特に注意しなければならないと言われている。私共は前橋市及び伊勢崎地区の井水を検査し赤痢患者の発生と比較考察した。

昭和27年5月鐘紡大垣工場に発生した集團赤痢について

著者: 臼井治郞 ,   渡辺周一 ,   間瀨昇

ページ範囲:P.44 - P.47

1.はしがき
 昭和27年5月中旬より鐘紡大垣工場従業員とその家族の間に赤痢患者11名,病後保菌者(赤痢菌検出時は何等身体に違和はなかつたが2週間以内に下痢のあつた者)9名,健康保菌者153名(昨年12月以降で,今回赤痢菌検出時より2週間以前の期間において下痢,腸炎にて受診した者29名を含む)が発生したので其の概要を報告する。
 本工場は従業員876名をもつて毛織物の製造を行つているが患者,保菌者の多発したのは女子寄宿舎であつて,ここには従業員の約半数440名が居住していた。

食糧倉庫に於けるコナダニ類の大発生例について

著者: 飯田鈴吉

ページ範囲:P.47 - P.49

1.はしがき
 コナダニ類の害に関しては,従来人体内ダニ症(喰腎血蝨症)並に植物の球根喰害の面からは各種の報告がなされ,また近時食品害虫として食品衛生学上問題視されるようになつたが,本邦に於てはコナダニ類の農産貯蔵食品との関係については,さきに浅沼(1950)や佐々・浅沼・三浦(1952)の論議があるとしても,諸外国の例にみられるような大量発生の記録は残されていない。
 1952年7月機会があつてコナダニ類の貯蔵食品に於ける大量発生の実態を調査検討することが出来たのでここに報告する。なお本邦に於ても,梅雨期後に殆んど全国の貯蔵穀物について大量発生があるものと考えられ,しかも関係者の無智や無視から一般にはその驚くべき被害が全く知られていないと考えられるので,ここにあえて顕著な一例を報告して今後の参考に供したいと考えた。

統計資料のページ

昭和27年における伝染病届出数及び昭和28年の赤痢届出数の予測について

著者: 石田保廣

ページ範囲:P.31 - P.32

 昭和27年の法定伝染病及び届出伝染病の届出数及び人口十万に対する罹患率を第1表に示す。この数値は届出数であつて実際の発生数ではない。又疾病の種類によつては特に届出伝染病の中には届出の不良なものがあり,実際の発生数とは相異しているかも知れないが,届出率が年次によつて大きく変化するとは考えられないから,伝染病発生の動向の一端を伺い行政目的に使用するには充分に利用出来るものと考えられる。
 昭和27年の法定伝染病の届出数133,174.食中毒の届出数24,826.届出伝染病の届出数963,528.性病の届出数は223,853である。昭和26年より著明に増加を示した疾患は赤痢(19%増加),猩紅熱(20%増加),日本腦炎(58%増加)等であり,又減少の著明な疾患は腸チフス(25%減少),パラチフス(37%減少),流行性腦脊髓膜炎(19%減少)等である。結核の届出数は僅かであるが減少を示し,又麻疹,百日咳の届出数も非流行年の為か,昭和26年よりもそれぞれ68%,28%滅少がみられた。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら