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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生13巻6号

1953年06月発行

雑誌目次

特集 公衆衞生からみた癌問題

癌の発生

著者: 杉靖三郞

ページ範囲:P.3 - P.6

 癌の問題は,今や,征服されざる疾病のもつとも大きな存在として,世界中の学者が,懸命の努力をささげている大問題である。ことに癌がどのようにして発生するか,ということは,あらゆる分野の学者たちの協力によつて,研究がなされつつある,もつとも重要なテーマである。にもかかわらず,この癌の発生の秘密は,依然として神秘のヴエイルの彼方にかくされている。

癌の早期発見

著者: 緒方準一

ページ範囲:P.7 - P.9

 死亡診断書を基礎にした統計ではあるが,奈良県における癌の死亡率の高いことは衆知の事実である。詳細な数字については,藤井(本誌12巻1号),宝来,藤井,戸上(奈良医学雑誌31巻3号)が報告しているから,ここには再録しないが,次のようなデーターである。
 1)奈良県の癌死亡率の年次推移は過去30年来 人口万対10.0以上で全国平均より遙かに高い。

癌治療の現況

著者: 田崎勇三 ,   宮島碩次

ページ範囲:P.10 - P.15

まえがき
 癌は自然治癒がなく,転移も頻繁に起るという点で他の如何なる疾患とも比較にならぬ程惡性である。而も社会的に見ても極めて頻度が高く,アメリカでは死亡率の第二位を占め,我国でも昭和26年度には第三位にあり且つ漸次増加しつつある趨勢なので,その治療には全世界挙げて苦心している所である。従つてその治療法も恐らく他の疾患には比べものにならない程数多く又複雑である。茲に現今行われている治療法を種々な方面を考慮して詳細に述べる事は到底不可能な事なのでその要点又は傾向をのみ簡単に述べる。
 癌治療の根本方針は,今も昔の如く早期に発見し転移形成のない中に之を外科的療法によつて完全に切除する事である。併し癌は体中何処にでも出来るし,又手術可能な早期に発見する事は未だ容易でないので,すべての癌が手術の対象となるとは限らない。又手術が完全に行われたと思つても,尚残存細胞の存在を否定出来ない事は,斯る手術例から屡々再発が起つている事実からも明かであろう。此処に放射線療法の大きな役割が現れる。併し放射線療法を第二の手段と考える様な考え方は,その方面の進歩によつて次第に変つて来て,或る場合には手術よりも優位につく事が稀でなくなった。従つて癌治療の上では手術療法と放射線療法が現在最も重要有力な手段として相並んで考えられ,又相互にその欠点を補合つて使用されているというのが現状である。

職業性癌腫

著者: 久保田重孝

ページ範囲:P.16 - P.21

(1)
 一般の癌問題の中で,職業性癌腫の占める重要度は,唯その数だけから云えばそう大したことはない。確実に職業性の癌腫と云い得る症例は,今日までに日本では僅か20例内外しか報告されていない。
 それにも拘らず,職業性癌腫の持ついくつかの特殊性のために,別途の興味と関心を与えられていると云うのがその真の姿であろう。

米国における癌問題

著者: 平山雄

ページ範囲:P.23 - P.31

1.緒言
 現在,癌問題は,米国においては,最も重大な課題の一つになつている。米国の公衆衞生活動がこの癌問題をめぐつてその研究に,予防の実際にきわめて活溌な動きを示している事は,われわれにとつても大いに参考になる事である。従来,ややもすれば,日本では急性,慢性伝染病が尚相当の流行を示しているので,癌問題を公衆衞生の課題として本格的に取りあげるのは,時期尚早という意見に流され易かつたのであるが,最近に至つて,漸く機運熟したのか,研究,行政の各方面にこの癌問題に関する関心が力強く湧きつつあることは,喜ばしい事である。急性伝染病も赤痢を除いては,実際問題として昔日の流行の面影はない。その赤痢とても,最早峠を越したと見られている。わが国の国民病と迄いわれていた結核も,曾田医務局長の言を借りれば,「落日の勢」で死亡率の低下を示しつつある。尚患者数は多く,問題は多々残つていようが,何れにせよ,本年度の結核は死因順位第3位を占めると予想される現状である。これらの諸事実より見て,われわれは,日本においても,公衆衞生活動の新しい焦点として,癌問題を取りあげる事は,決して先走った試みではないと考えるのである。
 公衆衞生の立場からは癌問題をどのように取りあげて行つたらよいであろうか。癌の疫学的研究そして癌の予防活動と,その何れについても,全くわれわれにとつて新しい分野なだけに,先進諸国の足跡を一応学んで見ねばならない。

日本における癌死亡の統計的觀察

著者: 瀨木三雄 ,   福島一郞 ,   三神彦芳 ,   藤咲暹 ,   栗原登

ページ範囲:P.32 - P.64

はしがき
 近代公衆衞生の歴史を概観すれば,欧米諸国においても我国においても,まずコレラ・腸チフス・ペスト・痘瘡その他の急性伝染病に対する対策,或は産業の近代化に伴う人口の都市集中の結果もたらされる非衞生的な都市の生活環境に対するいわゆる環境衞生改善対策や産業衞生対策に始まつていて,医療及び公衆衞生の水準が年年向上するにつれて急性伝染病はもとより,結核・癩・トラコーマ等の慢性伝染病も次々と防圧されて来たのである。
 その結果は,極端な表現を敢えて用いるなら,「公衆衞生対策の重点が人生の出発点の時期である乳幼児対策と終末の時期である老令期の疾病に対する対策とにおかれるようになつて来た」と云うことができるであろう。勿論従来からの急性伝染病・結核・性病等の対策や産業衞生,一般環境衞生の対策,栄養問題等の重要性は今後も強調されなければならないが筆者等がここに取り上げたいと考えるのは従来比較的閑却視されていた老人性疾患に関する問題である。本稿はそのうちの「癌」について統計資料に基く論述を試み,従来の病理学的或は臨床的知見の他に公衆衞生的観点から検討を加える一つの足場を提供したいと考えてとりまとめてみたものである。

器官別,府縣別,癌訂正死亡率とその相関について

著者: 藤咲暹

ページ範囲:P.65 - P.65

緒言
 近年の予防並びに治療医学の目覚しき発達に伴う衞生状態の改善は著しいものがあるが,ひとり老年性疾患のみが重要な問題として取残されているの感がある。就中癌は文明各国に於ては第1乃至第3の死因として,これの医学的対策の必要性が強調されてはいるが,その発生要因については今なお推測の域を出ない現状である。癌の発生が各器官相互の間に如何なる関係を持つか,同一器官の男女における癌発生頻度がどの程度の相互関係にあるか,又出産頻度と女子性器癌の頻度との間には何等かの関連性があるか等を観察するために,死因統計より器官別癌死亡率の地域的相関性の考察を試みた。

論説

癌と公衆衞生

著者: 斎藤潔

ページ範囲:P.2 - P.2

 近年に至つて,世界の各文化国に於ては伝染病の減少が著しく目立つて来ている。わが国においても,急性伝染病は勿論,結核の如き慢性伝染病も一躍減少傾向をたどつている。公衆衞生における疾病予防の対象は,最近に至るまで専ら伝染病に限られていたのであるが,その理由は,伝染病は予防方法が一応明瞭に判つていた事,及び伝染病がきわめて広般に且激しく流行していたからである。上述のように,伝染病が最近に至つて著しく減少して来たとなると,たとえ早期発見以外に予防方法は判らなくても,伝染病以外の疾患で罹患率死亡率の高いもの,例えば,脳溢血,癌などが,公衆衞生活動の対象として爼上に上つて来る事は,理の当然であろう。最近,厚生省統計調査部の石田氏の発表した数字によると,悪性新生物による死亡は,昭和23年の7月には総死亡の4.9%であつたが,昭和27年7月においては,10.3%と約2倍に増加した。又,悪性新生物による死亡は昭和27年7月からは結核死亡率を上廻り,中枢神経系の血管損傷について,第二位の死因となつた。石田氏は,癌はこの統計の示す著明な増加によつて公衆衞生行政の当面の問題となつたと述べているが,全く同感である。
 最近50年間に,世界における各文化国では人口中60才以上の者の占める割合は,いづれも約倍となつた。

時評

日本の公衆衞生と癌問題

著者: 館林宣夫

ページ範囲:P.22 - P.22

 公衆衞生の目的とするところは,第一に人の寿命を延長して天寿を全うせしむることであり,第二に疾病を予防し,且つ速かに治療して身心を常に健康に保持することであり,第三には身心を鍛練して,強くたくましく作りあげ,活撥なる活動に耐え得しめるにある。
 身心を鍛練して健康を増進することは往年の体力法,現在の国立公園法等にややその片輪がうかがえるが,現段階に於て我が国公衆衞生の主目標とはなり得ないものであり,人類がここに主攻を置く如き状況になり得るや否や疑はしい。

研究報告

一農村における百日咳の疫學的觀察—家族内次感染率について

著者: 辻達彦 ,   杉原正造

ページ範囲:P.70 - P.71

 百日咳の疫学的現象の中で興味ある一つの事実は,処女地における侵襲の際は別として,家族内2次感染率が年長児になると逆に低下の傾向にあることである。その主因として,不顕性感染が考えられ,又調査法の不備即ち父兄の記憶が年長児には不正確の度をますこともあげられている。吾々は杉原が神奈川県向ケ丘村の百日咳流行時(昭和24年12月)に行つた調査資料を整理して本題に関する興味ある成績を得たので報告する。

第4報 日常食品の食品衞生學的研究—特に豆腐加工品の汚染調査

著者: 山崎義人

ページ範囲:P.71 - P.74

 当研究所に於て松山は豆腐の汚染度に関する検査法,汚染状況並にその原因或は防止対策について詳細に研究して既に学会に発表して来た所である。私共は更に柳沢助教授が系統的に検討している日常食品の食品衞生学的研究の一環として豆腐加工品に就ての汚染調査の研究が皆無であるのに鑑み,その点に就て検索した成績並に豆腐に関して2,3追加実験を行つたのでその概略を茲に報告する。

大阪市立田邊中學校プールに於ける水質の實驗的考察

著者: 四元正治 ,   野崎大 ,   吉田泰

ページ範囲:P.75 - P.81

緒言
 学童にとつて夏期の楽園であり,且つ心身の鍛錬と体力の増進の良き道場は実にプールである。然し学校当事者にとりて最も頭を悩ます問題は,その衞生管理と水の消毒方法である。
 本校に於て今回プールの竣工を見たので,この機会を利用して大阪府衞生部環境衞生課並に大阪府立衞生研究所の協力を得て以下に述べる実験により種々なる場合に於けるプール水中の遊離塩素の消長,一般細菌数の増減特に大腸菌群の最確数測定,硝酸,亜硝酸,過マンガン酸カリ消費量を実施し,これにより最も効果的な消毒法を見出すべく努力した。茲にその結果を報告し識者の批判を乞う次第である。これが他山の石ともなれば幸である。

最近3年間の妊婦血清梅毒反応陽性率

著者: 佐々木忠正

ページ範囲:P.82 - P.83

 先天梅毒は梅毒妊婦に必要にして充分な治療を加えることによつて,予防することが出来るが,その為には,すべての妊婦の梅毒血清反応検査を行うことが望ましい。
 我々の保健所では昭和24年8月以来,母子手帳交付の時に,他処で受けた者を除いて残らず梅毒血清反応検査を行い今日に至つているが,昭和27年7月迄の3年間に,管内全妊婦12267の81.4%に相当する9981例の検査を行つたのでその成績を報告する。

齋島住民の眼瞼形状並びに色神調査

著者: 中村照彦 ,   渡辺嶺男 ,   井上隆

ページ範囲:P.84 - P.84

 先にわれわれは斎島住民の耳垂の形状について報告した。(1)この報文では,同時に調査した眼瞼の形状と色神についての記載的な報告をする。

2537Å紫外線殺菌燈の室内消毒効果について

著者: 田中恒男

ページ範囲:P.87 - P.88

1 緒言
 2537Åの波長を有する紫外線に,殺菌効果の認められる事は,八田氏等1)の実験を始め,Rentschler2)3)他,多くの人々の一致した意見であり,最近,実用化されて来ているが,学校衞生,病院衞生の点でも,考慮すべき問題となつている。又,それに関係した実験もなされている。4)5)筆者は某病院待合室を利用して,その殺菌効果を,一般に行はれているカルボール噴霧法と比較して考究したので,此処に報告する。

昭和26,27年度名古屋市牛乳の汚染度調査報告

著者: 土平一義 ,   中村龍夫 ,   熊澤泰 ,   川口とみ子

ページ範囲:P.88 - P.91

1 緒論
 食品衞生法が布かれて吾々の機関に於いて牛乳の食品衞生学的検査を初めてから満2年になる。
 牛乳を飲用に供する習慣は吾国に於いてその歴史は浅く,一人当りの牛乳飲用量は欧米のそれに遠く及ばないが牛乳の栄養学的価値は大なるものがある。

ビタミンA及びD過剩投與の蛔虫感染に及ぼす影響(集団実験成績)

著者: 森下薰 ,   西村猛 ,   高田季久

ページ範囲:P.91 - P.94

緒言
 蛔虫感染とビタミンとの関係については,今日迄種々なる実験が行われて居るが,実際問題として尚不明な点が少なくない。VAについてはその欠乏は感染を容易にし,その存在又は過剰投与は感染を阻止するとされ(平石,1926,27:佐々木,1928:中島,1938,39),VBについては,その欠乏では著明でないが明かに感染が増加すると云われ(佐々木,1928),VCについてはその欠乏では感染が少なくなるが過剰では感染を高めるとされて居る(佐々木,1928)。VDについては,その単独の意義は尚充分明かにされて居ないが,VAとの関係に於て行われた実験がある。佐々木(1928)はラツテに於て人蛔虫を以つて実験し,VA及びVDの欠乏はVAのみの欠乏の場合と大差なく,VDを増加せしめても感染が高いと云い,中島(1938,39)は犬に於て犬蛔虫を以つて実験し,両者の一定量の比率では協力的に作用して感染を防止するが,VDを増加すると両者は桔抗的に作用し,蛔虫感染防止力を失うと報じた。
 以上は何れも動物実験に依る成績であるが,人体については,今日迄実験的な研究は殆どないと云つて良い。私等は人体に大量のVAを投与し,蛔虫感染に対する影響を知らんとする実験を企てたが,材料の関係上VDの伴うものを使用せざるを得ないことになつたので,結局VA及びVD投与の結果をみるための実験となつた。

環境衞生よりみた電子オゾン殺菌灯の効果

著者: 山口勇郞 ,   岩田良吉

ページ範囲:P.94 - P.96

 最近環境衞生上電子オゾンが重大な役割を演じつつあるが,印刷工場に於ける結核対策の一つとして暗室内勤務者の疾病予防に資する目的で電子オゾン殺菌灯による室内浮游菌の殺菌効果さ経時的に検索し興味ある結果を得たので茲に報告した。

海外文献

アメリカ・保健省の創設

著者: 内野仙一郞

ページ範囲:P.66 - P.69

 1953年の5月のはじめごろ,アメリカに「保健教育及び福祉省」ができた。初代の長官は,ホビー夫人(Mrs. Oveta Culp Hobby)である。女性の大臣としては,フランシス・パーキンス夫人に次ぐ2番目に当る。この新省H. E. W. は周知のように元の社会保障庁(Social Security Agency)が昇格したものであるが,庁の機構の雄大なことから,内容的には,すでに省的存在であつたと云われている。即ち新省の予算は1953年度において,10億7千万ドルと云う尨大なもので国防及び大蔵の兩省を除けば,最大の予算をもつものであり,スタツフの数も3万数千人に及んでいたのである。保健関係のための主管省としての保健省は,オーストラリア,ニユージーランドよりは古くはないが,イギリスでは既に1919年,国民健康保険National Health Insuranceができたときから仕事をしつづけており,いわゆる一流の文明国の中では,アメリカの保健省が最も遅い出現である訳である。健康を保険する制度,或は医療を保障するプログラムを国の法律で規定していないアメリカの実情が,この国における保健省の創設を遅らせたのであろうか。その裏を云うと,健康保険制度を樹立するために保健省ができたのであろうか? その答えは「No,」であるらしい。
 この間の事情と初代長官ホビー夫人のプロフィルを,いささか素描してみよう。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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