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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生14巻1号

1953年07月発行

雑誌目次

特集 最近の寄生虫問題

寄生虫予防と糞尿処理

著者: 兒玉威

ページ範囲:P.3 - P.7

 昭和27年8月日本公衆衞生学会(札幌),28年4月日本寄生虫学会(福岡),同年5月日本衞生学会(千葉)とこのところ腸寄生虫病予防と糞尿処理対策に関するシンポジアムと特別講演が相次いで催されたことは寄生虫問題においても根本対策を重視する気運が漸く識者の間にかもされてきたことを物語るものであつて,真に喜ばしい。たまたま日本の代表的都市の汚物処理状況を視察して帰つたWHO顧問のクラーク博士から「日本の文化都市建設のために汚物の衞生的処理に対し,できる限り協力したい」との朗報がもたらされたと紙上に報ぜられ,5月9日厚生省公衆衞生局の肝入りで公衆衞生院に各分野の専問家が相寄り「屎尿処理対策協議会」のようなものを設立し,我国の実情に適した綜合的屎尿処理の具体的方法について研究することになつた。ここでは最近の寄生虫予防及び屎尿処理に関する研究報告を整理し,発展性のある具体的研究について述べたい。

汎太平洋結核会議に出席して

著者: 高部益男

ページ範囲:P.8 - P.11

 去る4月10日の夜行で羽田を出発して,13日から19日までまる1週間フィリピンのマニラ市で開かれた汎太平洋結核会議に出席して,21日の夕刻帰京した。わずか11日間のことではあつたが,心理的にはかなりの旅行をしたように覚える。冬着でも肌寒く感ぜられた東京から出て,一夜過ぎれば,流汗淋漓のマニラで食物なども隔りが多いので,生理的に馴致する暇がないこと,国際的な雰囲気には相当馴れているつもりであつたが,太平洋に散在する国々から代表が集まつていたので,東京や米国などの体験のみでは,その集団の心理的構成の分析には不十分であり,またマニラ市民の日本人あるいは日本に対する感情というものが特殊な状態に置かれていることなどがその主な原因であると考える。幸にも,日本医師会から会長の田宮先生がオブザーバーとして参加せられたのと,去年東京で開かれたWHO(世界保健機構)の西太平洋地域統計ゼミナールに出席した数名のフィリピン代表と顔見知であり,又ハーバードの同級生が今度の結核会議の枢要な地位を占めていたことなどが,出発前の心理的緊張を緩和するのに役立ち,又事実現地に於いても大変に援助を受けたのである。

座談会

寄生虫に関する問題

著者: 小宮義孝 ,   長野寬治 ,   皆川和 ,   松村龍雄 ,   森島侃一郞

ページ範囲:P.14 - P.24

駆虫方法
 小宮 私に司会しろというお話ですが,今日は大体駆虫の問題を中心にして取扱つてゆこうと思います。ただし臨床的な駆虫と集団的な駆虫という問題があるわけですが,予防の面では集団駆虫ということがかなり重要だと思います。また駆虫をやつてもいろいろ,再感染の問題とかその他の問題で予防的効果もそう顕著には出ない場合がありますので,合せて使用上の問題も取扱つてみたいと考えます。
 まず初めに駆虫の問題ですが,これは蛔虫の駆虫と鉤虫の駆虫があり,実際は同じものもありますが,一応分けて論じた方がよくはないかと思います。まず蛔虫の問題を取上げてはどうかと思いますが。皆川さん,臨床駆虫の問題をお話しくださいませんか。

統計資料のページ

寄生虫統計

著者: 石田保廣

ページ範囲:P.25 - P.27

 寄生虫に関しては,小地域の調査はよく行われ又よく研究されており,貴重な発表も少なくないが,全国的な基礎における寄生虫の統計は少ない。
 次に示す資料は厚生省報告例によつて,都道府県衞生部より報告された寄生虫検査の成績である。その正確性については,必ずしも満足が出来るものとは云いえないが,全国的の資料はこの他にはなく,方法によつてはある程度利用し得るものと思われる。

論説

世界衞生への歩み

著者: 曾田長宗

ページ範囲:P.2 - P.2

 ○去る5月5日からジュネーヴにおいて世界保健会議Wored Health Assemblyが開かれている。いうまでもなく世界保健機関WHOの年総会で5月23日まで約3週間続けられ,日本からは自分のほか厚生省広報連絡課長の斎田氏,薬務局の川嶋企業課長,公衆衞生局の小谷保健所課長が出かけて来ている。これに当地ジュネーヴの佐藤総領事及び星領事にも加わつて頂いて日本代表部を形成しているわけである。
 ○初日から総会議長の選出や各種委員会の構成について議論百出であつたが,結局シリアの衞生大臣カーター博士が総会議長に選ばれて,64参加国の代表がこれから幾多の重要問題を討議することとなつた。すでに第2日目から本年度技術討議の題目として取り上げられた結核,梅毒,腸チフス及びパラチフスについて各国の経験が語られ,意見の交換が行われているが,世界各国の特殊事情に応じた公衆衞生活動の展開は,人種や宗教や政治的見解の相違をこえた,人類共通の敵に対する進軍のさまを見るようで,その戦線の一端に加わるものの張り合いと責任の重さをしみじみ感じさせられる。

時評

医師実地修練と保健所

著者: 齋藤潔

ページ範囲:P.12 - P.13

 終戦後のわが国教育制度に大変革が行われて,数年を経た今日,各方面に安定を欠いて,動搖が見られている際に,わが国学制80周年の記念式典が盛大に行われている。
 わが医学教育制度に於ても,未だ落付くところに来ていないで,同様の惱みがつづけられ,今後幾多の経験と工夫と理論の討議とが行われねばならないであろう。ここに数年の経験の後に,実地修練制度についての欠陥が現われ,各方面の注目をひいている。世上にはこのインターン制度の廃止を叫んでいる向きもあるが,厚生省も医師国家試験審議会も改善しつつ存続する方針をとつているようである。そして改善の要点は,修練生の身分,修練生の生活費,修練機関の整備と受入施設修練の内容,指導能力等であり,更に根本的には学校に於ての医学教育中に修練期間を包含させることの可否などである。医師国家試験審議会実地修練部会委員会に於ては,これらの項目について各方面の意見を参照しつつ審議が行われた。筆者は公衆衞生の修練を代表する委員として東京都中央保健所長奥野博士と共に委員会に参加したのでここにその経過を報告すると共に,保健所に於ての修練のあり方について所見をのべ,保健所職員各位の御批判を得たいと考えるものである。

研究報告

群馬縣下某村に於けるレプトスピラ症について

著者: 北岡正見 ,   井上裕正 ,   小林一郎 ,   山口健男 ,   秋田喜美

ページ範囲:P.30 - P.33

まえがき
 群馬県下の平野地域にワイル病の侵淫地のあることは,古くから知られていた。毎年政府発行の死因統計(1)によると,群馬県では1930年から1942年までの13カ年間に合計301名(男261名,女40名),また1947年から1949年の3カ年には24名(男22名,女0)がワイル病に罹患し死亡している。しかし群馬県下のワイル病については,嘗て北岡(2)が内勢多郡及び内佐波郡下のワイル病の顕性,不顕性感染を調査研究した以外には殆んど調査報告がなく,等閑に附せられていた。
 偶々高崎保健所管内の農村,特に中川村,新高尾村等にワイル病患者が発生し,しかも患者が近年増加してきたとの報告に接し,之が予防対策を樹てることになつた。そこで先づ患者数の最も多い中川村を対象とし,過去13カ年間の患者数及び死亡者を調査し,その所見を検討してみた。

日本住吸血虫に関する研究—Trypan-blueによる日本住血吸虫症の皮内反応に就て

著者: 横川宗雄 ,   田中利男 ,   田島嘉雄

ページ範囲:P.33 - P.36

1.緒論
 Leuis(1916)(1)は,Trypan-redがAbrinによりおこされたedemaに特に急速に浸透する性質に着目し,これを実験動物の即時型皮内反応の研究えの応用を提案したが,その後Ramsdell(1928)(2)(3)は,Trypan-redの代りにTrypan-blueの青色に著明に着色することを報じた。
 私たちは昭和24年来,日本住血吸虫症の皮内反応に関する実験を行つて,本症患者及び,本症に感染した馬では本反応が著明に出現することを認めたが(4),その他の動物特に家兎及び海猽等の如く菲薄な皮膚を有するものでは,抗元注射部位の腫脹のみにより判定することに甚だ困難を感じていた。偶々私たちの協同研究者の一人である田島の提案により,上述のRarnsdellの方法を日本住血吸虫症感染家兎における皮膚反応え応用して,果して此の方法で行つた場合は,患者や感染馬における様に特異的にあらわれるかを実験した。

寄生虫卵殺滅劑に関する基礎的研究—虫卵の発育に関する統計学的考察

著者: 林滋生 ,   德永考一

ページ範囲:P.36 - P.39

1.はしがき
 虫卵の発育に関しては,既に甚だ多数の,且つ精細な報告がなされている。しかし発育の要因,促進及び抑制現象,或は殺卵剤の作用等を調べる際に多数の卵を観察すると,しばしば遭遇することであるが,個々の卵は必ずしも同じ発育状態を示さない。従つて検査対象を一つの集団として,その発育度を知る事が必要になつてくる。今日までの研究で,この集団的観点に立つ,適切な取扱い方をしたものは殆んどない。△ここでは一つの試案を犬鈎虫卵をつかつて行つて見た。

山口縣一炭鉱に於ける鈎虫症に関する一觀察

著者: 川本脩二 ,   三谷和合 ,   飯田孝雄 ,   松村眞三

ページ範囲:P.39 - P.41

 1880年,E.perroneitoが鉱山従業者に多く見られる貧血症が,鈎虫の坑内に於ける経皮感染によつておこる事を説いて以来,之は各国に於て認められたが,我が国に於ても1925〜1927年吉田,門馬,松下の詳細な研究以来,幾多の研究が行われている。
 吉田,門馬,松下は九州,山口,北海道12の炭鉱にて何れも坑内夫が坑外夫より鈎虫の感染が濃厚である事を認め,之を坑内に於ける経皮感染によるものであると結論している。但し山口県及び北海道に於ては,その差が九州程著明でないが,前者は海底炭鉱なる為の坑内水の食塩による抑制,後者は北海道に鈎虫少き事と坑内夫の被服の整備によるものと言つている。黒田(1949)によると九州,東北北海道,30鉱で鈎虫は坑内夫の方が多く,特に九州ではそれが著明であり,北海道では一般に感染率は低いが多少坑内夫に多く,東北では差を認めない。三好他(1951)は山口県宇部市の炭鉱地区では,炭鉱従業員に特に鈎虫が多いと云う事実は認められない。之は鉱道が比較的短く,設備並に作業状況よりみて,坑内の鈎虫蔓延を助長する野糞や素足作業等の少いことが理由としてあげられようと言つている。坪郷他(1952)によれば東北の一鉱山に於て坑員は家族より鈎虫感染率が高度であるが,鈎虫の坑内感染については述べていない。

富山縣八尾町に於ける鈎虫の分布種類及び寄生者の症状について

著者: 今園義盛 ,   中條惟基 ,   富士田猛 ,   三原庸太郞 ,   淺野淸子 ,   平野志数子 ,   井上秀子

ページ範囲:P.41 - P.44

 当教室に於て昭和25年及び26年夏期富山県八尾町に於ける鉤虫寄生者につき種々調査を行つた。同調査中病状に関するものは第21回日本寄生虫学会総会に「富山県八尾町に於ける鉤虫寄生者の貧血度及び病状について」として報告したが,今回更に追加補綴し茲に報告する。
 昭和24年始めて小学生及び一般希望者の検便(塗抹法)を行い,鉤虫寄生者は小学生20%,一般希望者39%,町としては高率を示す事を発見した。昭和25年夏期より年一回全町民の検便駆虫を続け,此の間鉤虫の分布,種類及び鉤虫寄生者616名につき其の病状を調査し次の如き結果を得た。昭和25,26年の検便は矢尾板氏法によつた。

米子市に於ける屋内鼠とその寄生虫

著者: 森下卓郞

ページ範囲:P.44 - P.46

1.緒言
 鼠族研究の必要性はその有する所の疫学的重大性であつて,諸種悪性疾患の機能的並に機械的伝播をなせるものなれば,その研究が予防医学上緊要なる事は今更茲に云う迄もない。鼠族の調査研究は従来海外諸地域に於て亦本邦内地の諸地方に於ても数多くの報告があるが,当地方では高木,宝意両氏の報告(昭和21〜22年)が唯一つあるのみで詳細は尚明らかでない。亦日本衞生動物学会では昨年鼠族研究班の結成が計画され全国的に研究を実施する事が要望せられている関係上,私は其の責の一端を担うと共に当地方に於ける鼠族の綜合的研究の一部として研究を開始したのである。本篇に於ては米子地方に於ける屋内鼠に就て,その分類,各種の数量的関係に就て述べ,妊孕状況,住血寄生物,外部寄生虫,内部寄生虫に就て順次報告する所存である。調査した期間はⅧ/1951からⅦ/1952に至る1カ年間であるがⅣ/1952は或る事情に依り研究を中止した。

標本調査法による某農村住民の蛔虫卵保有率調査

著者: 田中正四 ,   渡辺嶺男 ,   岩永知勝 ,   福原照明

ページ範囲:P.47 - P.49

 農村にかぎらず,寄生虫卵保有率の調査は一般的な常識として全数調査が尊重されて来た。しかしながら,従来の調査の結果では全数調査とはいつても,有意選択的な大数調査が殆んどそのすべてであつて,たまたま全数調査である場合にはその調査に莫大な労力,時日,費用を必要としている。
 もとより,寄生虫卵保有率の調査は治療としての各個人の駆虫を前提としてはじめて完全な意義をもつものであるから,終局的には必ず全数調査が行われなければならない。しかしながら,侵淫状況を推定し,駆虫に要する薬品の見積り或は費用の概算をなし,更には寄生虫予防のための公衆衞生学的施策の資料として行う予備調査は,最少限度の労力,日数,費用により,必要の精度でなされることが望ましい。

随筆

オバケの話

著者: 長尾貞一

ページ範囲:P.28 - P.29

 電車の中で,或る宗教関係の著書の広告を見た時ふとオバケを連想して,おかしくなつた。
 此れは我々が仕事の上で,よく出会う問題に関係があるからに相違ない。何か信仰に凝つて,療養指導を拒否する結核患者に出会うことは,そんなに珍しいことではない。そんな患者と話していると,その人の後に,これを操つているオバケの姿がボーツと見える様な気がすることがある。だからそれほど病的な連想とは思わない。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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