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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生14巻2号

1953年08月発行

雑誌目次

特集 高血圧と公衆衞生

公衆衞生からみた合衆国における循環器病の諸問題

著者: 田多井吉之介

ページ範囲:P.3 - P.7

 外因性の急性疾患は,おもに乳幼児や靑年を侵す伝染病を主体とするが,これらの予防と治療は,驚異的な進歩発展をとげている現状にある。これは,とくに近来その効果をあげつつある予防的公衆衞生対策および有効な諸抗生物質剤の発見とその速やかな臨床的応用によること言をまたない。したがつて,いわゆる先進諸国の衞生統計には,これらの影響が顕著にあらわれている。こころみに合衆国の出生時平均余命をしらべてみると,1900年には47才であつたのに,50年後の1951年には,男子で67才余,女子で71才余となつている。このように半世紀間に寿命が20才以上も延長した原因は,まつたくこの予防と治療における画期的発展によるものである。
 しかしながら,この大きな成果のかげには,いたずらに喜んでばかりいられない新しく根強い傾向がひそんでいるのである。それは,人間の寿命の延長という現実から必然的にもたらされる老人性慢性病による長期間の無能力化である。その損失は測りがたいほど大きいのであつて,慢性病による負担は,個人的にも集団的にも,急性疾患からおこる死亡より遙かに大きな悲劇の源泉となりつつある。

ヨーロッパの産業労働事情特に産業衞生関係について

著者: 桐原葆見

ページ範囲:P.8 - P.12

 ヨーロッパの最近の産業労働事情について,その社会的並に経済的情勢一般については省略して特に公衆衞生,産業衞生に関連する問題で特徴のあるものについて述べる。全体の印象は,労務管理にも,職場教育にも,研究にも,あらゆる所にヒューマニズムの精神がにじみ出ていることを深く感じた。

賣春禁止法案をめぐつて

著者: 山本二郎

ページ範囲:P.27 - P.32

 最近,内灘,浅間等の駐留軍演習場の問題,更に「基地の子」「日本の貞操」等の所謂基地物を契起として,駐留軍関係売春問題が世間の注目を浴び,それに関聯して,今迄塞ぐともなく目を塞いでいた通称赤線区域の売春問題にも,マツカーサーの公娼禁止令以来再び眠りを覚されようとしている。
 この時に当つて,去る3月の国会に提出され審議未了となつた「売春等処罰法案」を中心にしてその動向を探り,併せて諸外国の売春対策を参考にし乍ら,今後のこの法案の行方を考えて見るのも意義あることと考えられるので,以下本問題にメスを加えて見たいと思う。

座談会

高血圧の諸問題

著者: 斎藤俊保 ,   大島硏三 ,   斎藤十六 ,   渡辺定

ページ範囲:P.13 - P.25

高血圧の頻度
 斎藤(俊) 皆さん御承知のように,1昨年からそれまで第1位だった結核の死亡率が2位になつて,中枢神経の血管損傷による死亡が第1位になり,その後もますますその傾向が顕著になつております。これはいろいろな学問的な問題がありましようが,高血圧の結果による脳の出血というものが大部分を占めております。そこで渡辺光生,1っ高血圧症の頻度とか分布といつたようなことについてお話し願いたいと思いますが。
 渡辺 その前に,脳溢血が日本に多いというか,脳卒中が多いことですが,斎藤(俊)さん,脳溢血と脳軟化を混ぜたものをどう表わすかという点ですが。正確に言うと脳溢血といえば脳の出血だけになります。そこで脳卒中を,一応脳溢血と脳軟化を一緒にしたものということでスタートします。

論説

公衆衞生と高血壓

著者:

ページ範囲:P.2 - P.2

 私は保健所で血圧を測るなどということには賛成できない。その理由は4つある。
 第1に,高血圧症とか動脈硬化症といつたものの診断は,本来総合的なものだ。血圧だけいくら正確に測つても意味がないし,仮に眼底検査だけいくら上手になつても仕方がない。総合的な診断技術や施設の向上ということは保健所では困難である。向上してわるいことはもちろん無いが,本来の公衆衞生の犠牲の下に行われる公算が大きい。

時評

医師の診斷技術と施設

著者:

ページ範囲:P.26 - P.26

 戦争中の日本の技術には,個人の磨きに磨いた神業的名人芸に頼るきらいがつよかつた。末期に海軍の将校の訓練を引うけさせられた私の友人が驚いた。敵の飛行機の機型を地上で識別するのに,少しも系統的な訓練法がなく,単なるカンの修練に近い方法が取られていたことだ。彼はそれに科学的な組織的訓練法を導入しようとして努力しているうちに終戦になつた。
 大体,日本人は名人芸が好きである。日本刀の鍛錬法などがそれだ。科学的な分析と企画によつて,ある程度日本人の誇るカンでさえマスプロが可能である。むしろ名人のカンよりは,大量生産による準名人の正確性の方が能率的であるし,カンを一切要しないほど機械化された方が,一そう合目的である。

研究報告

某工場製品検査レ線室のレ線散乱状態の調査とその対策の一例

著者: 佐々木雄次郞

ページ範囲:P.42 - P.44

まえがき
 レ線等の放射線或は広く放射性物質の使用は次第に範囲をひろめ,特に欧米では工業上にも広く使用され,之に伴う放射線障害の危険を増しつつある。その対策,従業員の健康管理も亦医学に課せられた問題となつて来た。放射線の許容量,防禦方法の基準は,第6回国際放射線会議(1950,ロンドン)で国際勧告案が作成され,我国でも内務省令や日本医学放射線学会の勧告案がある。種々の場合の身体に受ける放射線の安全量や防禦方法が定まっているといえよう。職業的に全身に,僅少量でも連続長期に放射線に露出される場合,その影響は先ず血液像に現れる。造血臓器が放射線感受性が高いからである。如何なる限度の変化が注意を要するかも後述の如く基準が定められている。従業員の身体にうける放射線量を知る為には,一般にフイルムバツチ又は蓄電器型電離槽を携行せしめて,実際受けた,作業中のレ線量等を知る事が出来る。之の成績に基き作業時間や方法を改善,安全を計らねばならない。勿論用うる放射線の性質,使用方法で夫々その危険度に差があり,之等を考慮,使用現場の状況を調査し,適当なる対策を講ずべきであろう。

空気中有毒物恕限濃度の簡易測定法

著者: 福山富太郞 ,   渡辺愛子 ,   佐藤德郞

ページ範囲:P.45 - P.47

 私達は先頃から空気中の有害ガス濃度の測定法について発表したが,今回はアニリン其の他芳香簇アミン及びクロム酸の測定法について記述する。

齲蝕とその予防に関する実驗的研究(第4回報告)—安門及び尿素のブイヨン稀釈法による齲蝕細菌上発育阻害作用に就いて

著者: 帆足望

ページ範囲:P.47 - P.50

1.緒言
 弗素問題と共に最近急激に脚光を浴びたものにammonia ion利用の齲蝕予防薬(練製・液剤・錠剤・ガム)がある。此の種の研究は米国に於て1934〜1935年C. J. Grove & C. T. Grove1)が齲蝕免疫性の人の唾液と齲蝕罹患性の人との唾液の化学的成分を測定した所Ca,P,C1等は両者間に差異を認めず,ammonia含有量に於て前者は後者より多量のammoniaを含有することを発見した。そしてこのammoniaが乳酸菌の発育を抑制し,齲蝕免疫性の人の唾液は罹患性の人の唾液よりも早い速度でammoniaを形成することを報告した。
 次いで此の事実に立脚して1940年R. M. Stephan2)は30%尿素溶液を,1942年E. C. Wach & others3)はureaquinoneを洗口剤として応用し,その中和・抗菌作用の他に尿素の滲透拡散性による歯垢の溶解清掃作用の高いことを立証した。1946年,R. G. Kesel & others4)は齲蝕活動と人唾液中齲蝕細菌に対する拮抗性物質との相関性について系統的研究を行つた。その結果唾液中拮抗物質の乳酸菌発育阻害作用はammonia nitrogenであることを証明した。此の事実から炭酸安門が同様の効果を有し,且つその作用は単にアルカリ度の為でない事をも実証した。

統計資料のページ

昭和27年簡易生命表について

著者: 石田保廣

ページ範囲:P.33 - P.36

 最近当部において計算した,昭和27年簡易生命表を中心とし,過去及び諸外国の若干の資料と比較し簡単な解説をしてみる。
 第3表に日本における歴代の生命表死亡率(qx)をしめした。1891〜1947までの7回生命表はそれぞれの年に行われた国勢調査人口によつて計算したものであるが,1948,1951,1952のものは簡易生命表である。1950については第9回生命表として計算されるはずであるが,未だ計算に必要な国勢調査人口の集計が公表されていない。生命表の死亡率は,御承知の通り,例えば20才の死亡率は20才の者のうち21才に到達しないで死亡する割合をしめしている。

ルポルタージユ 現地ルポ

水害と防疫—小倉市を中心に

著者: 毛利広

ページ範囲:P.37 - P.41

 水害があつてからもう2週間が過ぎた。浸水の激しかつたところを歩いてみると,まだ浸水家屋の軒の前には,はき出された泥土や泥水につかつた腐つた畳や,こわれた家具が,散乱と積重なつて山をなしている。なんとも形容のしにくい惡臭が街路に満ちている。罹災者は疲れ果てた表情で,ものうさそうに今日も泥を運び出している。水は驚くべき沢山の泥を街にも家にも運んで来た。水が退いてみると,道路も庭も家の中も泥でいつぱいであつた。おそろしくきめの細かい泥は,どんなところにも入り込んでいた。机の抽出も箪笥の抽出も水と泥のために未だにあかない。抽出を壊わして,中の物を見ると全部泥に浸つている。どうにもしようのない泥である。復旧作業は1日も休みなく続けられているのであるが,市民の家から運び出されるこの泥の山は未だにかたづかない。水害前の清潔な町になるのは何時のことであろうか。総人口22万のうち被災者79,564名,死者確認12名,行方不名8名,総世帯数49,147のうち家屋全壊30戸,同流失14戸,同損壊109戸,床上浸水15,000戸の被害と言われる福岡県小倉市の場合,水害の翌日から馬車11台,トラツク8台を動員して1日約162トンの泥を運び出し,現在までに2,268トンの泥土を処理したが,まだ被害地の泥の3分の1にも達しない状態である。これに被害各会社,工場が自家の自動車などで処理した泥土を合算すると莫大な泥である。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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