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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生14巻3号

1953年09月発行

雑誌目次

特集 精神衞生

精神神経病の最近の治療

著者: 白木博次

ページ範囲:P.3 - P.14

 精神神経病といつても,筆者は主として精神医学を専攻しており,また紙数もゆるさぬので,精神病については筆者が手近に経験しえた疾患群のみにかぎりたい。
 最近すくなくとも東大神経科外来をおとずれる精神神経病患者が激増の一途をたどりつつある事実からまずのべてみたい。第1図に示すように,終戦直後の昭和21,22年度は別としても,その後の増加率は戦前の2倍或は3倍にも達しており,しかもその数は新来患者のみについてである。これは精神神経病患者の絶対数の増加か,患者が神経科をおとずれることを躊躇しなくなつたことか,または保険制度の普及に起因するかといつた議論は別としても,諸種の精神神経病に対する治療法の進歩が大きな役割を演じていることには疑はない。しかし現在,それらの治療法は果して完全かつ理想に近いものといいうるであろうか? 答は否である。試みにわが国の精神病院の病床利用率をみれば(第1表)いまさら説明するまでもなく,病床は年次増加をみるにかかわらず,超満員の現状にあるということができる。このことは,病床の絶対数が実在の患者数に対して,問題にならぬほどすくないことにその主要な原因を求めうるとはいえ,なお治療法の不完全さにもとずく,病床廻転率の低さにより大きく起因しているといえよう。

双生兒研究からみた人格の問題

著者: 井上英二

ページ範囲:P.15 - P.18

1.医学における人格研究の意義
 人格という問題は,古くから心理学でとり上げられてきた問題である。最近になつて医学でも,人格の問題の重要性がようやく認められ,心理学の立場とはかなり異つた観点からする人格の研究が行われるようになつた。人格という言葉の意味について,ここで定義づけることは困難である。しかし,人格という言葉が到る処で濫用されている現在,おおよその概念の輪廓をのべておくことは必要であろう。
 医学には体質という概念がある。これはやはり定義づけることは困難であるが,ある刺戟に対する反応の個体差と,種々の反応の間にみられる連関,ひいては1つのまとまりをもつた反応の体系という意味をもつている。

兒童の精神衞生

著者: 高木四郞

ページ範囲:P.19 - P.23

1.はしがき
 児童の精神衞生は今日の精神衞生の中心課題であつて,「精神衞生」というともつぱら児童だけが問題となるかのごとき観を呈しているほどである。それはなぜかというと,児童期は精神がその発達の途上にあり,性格が形成されつつある時期であつて,精神衞生の実践を最も必要とする時期だからである。乳幼児期から学童期へかけての育児・しつけ・教育のしかたの如何によつて,将来の精神の健康度が決定されるといつても過言ではないのである。したがつて精神衞生の実践が最も効果を発揮し得るのは児童期であり,これが精神衞生において児童期が重要視される理由である。
 精神衞生は人も知るごとく,1908年,米人ビーアズ(Clifford W. Beers)によつて始められた社会運動がそのはじめであり,爾来学理的にも実践的にもアメリカ合衆国が発展の中心となつてきたものである。したがつて精神衞生の基礎理論となつているのは,アメリカで発達をとげたいわゆる力動精神医学(dynamic psychiatry)である。今ここで力動精神医学について詳しく述べる余裕はないが,一口にいえばそれはアドルフ・マイヤー(Adolf Meyer)の精神生物学(psychobiology)及びフロイド(Freud)の精神分析等の理論を根幹とし,その上に発展して来たものである。

論説

日本の精神衞生当面の問題

著者: 斎藤鐐一

ページ範囲:P.2 - P.2

 戦後,入院を希望する精神障害者が著しく増加してきた。そして各精神病院とも入院患者で満員の盛況である。昭和26年4月以後,入院患者数は定員病床数をはるかに突破して参り,そのように圧縮入院をしてもその收容力を増加せざるを得ない状況においせまられてきたのである。この傾向は年とともに益々著しく,病床の増加する率をはるかに超過して入院を希望する患者が激増してきている。もうこれ以上には,許可された範囲に定員を超過して收容しようにも收容しきれない段階に立ち至つている。文明の発達とともに精神障害は益々増加するといわれているが,戦後日本において,精神障害が増加したという確証は残念乍ら見あたらない。しかし,時代の変遷に伴う増加は別としても,東大内村教授の下で戦前行われた実態調査を基礎として推定すると,日本においては,精神分裂病,そううつ病,てんかんの患者のみで約60万人という数字が得られる。この数字と比較して,余りにも入院可能病床数の少いのに慨嘆せざるを得ない日本の状況を,関係者の,或は国民の理解がたらないためと簡単に片付けられるのみでは済まされないものを感ずる。精神病の発生後における対策ですら,誠に貧弱すぎるというのが日本の実情である。

時評

反社会性と精神病質

著者: 新井尚賢

ページ範囲:P.27 - P.27

 精神病質とは異常人格であつて,その異常のために社会が悩まされるか,あるいは自分自身が悩むものである。したがつて,社会的危険性の多い場合は主として前者である。精神病質は疾病でなく持続的な人格の状態である。
 このような反社会的な人格が遺伝的なものであるかどうかは,1卵性および2卵性双生児の例について詳細な比較研究が行われ,前者であることを肯定する豊富な資料が得られた(Lange,Stumpfl,吉益等)。したがつて,遺伝素質と密接な関係があると考えられている。一方歴史的にみると極端な素質説として,生来性狂罪者Delinquente natoの説があつた(Lombroso 1876)。すなわち,全犯罪者の3分の1を占める,いわゆる生来性犯罪者なるものがあり,かれらは,一定の身体的および精神的表徴を有する特有な人類学的類型であるというが,このような,環境に全く無関係な宿命的必然性を以て,犯罪者となるというようなことは到底,考えられない。

隨想

文明生活と精神衞生

著者: 竹山恒壽

ページ範囲:P.28 - P.29

 人間の生活が形式的にも内容的にも進化してゆくことは,精神衞生の上からいつても良いことのように思われる。しかし,文明Civilizationとは文化Culturのことではないから,生活の外形的な面での進化が強調されて,内容が伴わないことが多い。形式は新しく内容のともなわないところに,文明の誤用による弊害がうまれる。また,逆に理念のみ先走つて,非文明的な生活形式を守りつづけている場合もある。低く暮し,高く思うという場合で,これは現実適応度の低さを語つているものである。一般に,精神生活の向上は物質生活の向上と比べて,微々たるものであるから,文明生活とは現実的な生活形式の進歩を意味するものであるらしい。人間の生活が文明的になること,それは精神衞生的に望ましい結果だけを生むものであろうか。
 文明社会に於て,精神衞生的に改善された部分は,勿論,数多くある。そのよい例は梅毒に基く進行痲痺が近来激減していることである。進行痲痺のように,梅毒の治療法なり予防法が進歩するという単純な原因によつて,発病率が減少するものは,問題が簡単である。しかし,近代生活の形式そのものが起因となり得る幾多の精神不健康状態が存在することも忘れてはならない。これらは将来も増加の一途をたどるであろうし,「文明病」と名づけられて,いよいよ大きくとりあげられることになるであろう。

ルポルタージユ

—多角的,社会的な研究機関—国立遺伝学研究所を訪う

著者: 酒井

ページ範囲:P.24 - P.26

 ここ国立遺伝学研究所は,東海道線三島駅で下車し,バスに数分乗つてからゆっくり歩いて15分程,人家から離れた,少し小高い丘の上にある。この建物は旧中島飛行場を改築したもので,現在使用しているのはその本館である。
 古ぼけた石門の左に,板の上にスミで書かれた研究所名はすつかり朽ちて,判読するのに手間どるほどである。森閑と静まりかえるなかを玄関までおよそ100m,サクサクと砂利をふむ音があたりに響く。

第3回綜合醫学賞入選論文

食品防腐剤の研究—ニトロフラン系及びキノン系の抗菌機作と防腐力並に生体臓器親和性について

著者: 八田貞義 ,   靑山好作

ページ範囲:P.30 - P.53

1.まえがき
 わが国では食物保存の技術及び施設が質量ともに不充分なことに加えて,国民的な嗜好,因襲は加工食品を一層複雑多岐なものとしている。これに気候的な高温多湿の悪条件は日常食品の完全確保を比較的困難なものとしている。したがつてわが国での防腐剤の研究は,重要な疾病の原因究明,治療薬完成の研究と比肩し得る重要な意義を有する国家的研究課題といえる。
 しかして食品防腐剤は,①一定の条件で添加すれば標示通りの効果が常に確実に得られ,②添加によりその食品の品質或は価値に悪影響を興えず,かつその使用方法が容易であって③毒性はないか極めて低く,使用量を誤らない限り長期に亘り使用しても人体に害を与えないものでなければならない。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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