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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生14巻4号

1953年10月発行

雑誌目次

特集 最近の栄養問題

食品分析表の再検討

著者: 有本邦太郞

ページ範囲:P.3 - P.5

 標題のようなことについて書けという依頼をうけた。恐らくこれは厚生省が実施している国民栄養調査に使用している標準食品栄養価分析表についてのことであろう。
 この成分表は今から4〜5年前,当時の経済安定本部にあつた全国民食糧及栄養対策審議会の専門委員会で編さんされたもので,このことは該分析表のはじめにも記載されている。

医科大学における榮養教育内容について

著者: 岩田昌一

ページ範囲:P.7 - P.10

まえがき
 戦後公衆衞生はすばらしい発展を示しきたり,治療医学から予防医学,予防医学から保健医学へと,理論とその実際が,劃期的に進展しきたつたが,近時栄養問題はこれら公衆衞生の分野の中重要な地位を占めるに至つた。
 既にWHOはその決議項目の題目の1つとして栄養を取りあげ,又FAOは各国民の栄養水準の向上を目ざして,食糧問題の解決をはかろうとしている。即ち世界人類の福祉をはかるには,食糧問題の解決が何にましても先決事であると信ぜられている。それにも拘わらず今なお世界各国民殊に米食民族といわれる東洋民族の中に,著しい食糧不足及び栄養飢餓が存することは誠に遺憾である。然も世界人口の著しい増加は,いよいよ食糧栄養問題の重大性を加重している。かかる事柄は,対岸の火災ではなくて,食糧不足に悩み莫大な食糧輸入をしている我が国にとつても,足下緊急の問題であらねばならない。一般に生活水準の低い東洋民族は,健康及び肉体上の点においても,国際的にはほとんど問題にされない程低い位置にある。東洋から20数カ国参加したオリンピツク大会の成績は,東洋の星であつた日本をはじめとして見事に惨敗に終つた。この原因については,米食より来る欠陥即ち健康及び体力の根本的要素である栄養の低劣が,その決定的支配をなしたものと考えられる。ここに東洋民族の被搾取,被圧迫,どれい的,植民地的性格の因果関係を考えざるを得ない。

岩田昌一氏の論文を讀んで(1)

著者: 吉川春寿

ページ範囲:P.10 - P.13

 岩田昌一氏の論説はまことにその通り,これにつけ加えるべきことは多くはない。日本人の生活環境が欧米諸国民に比べてはるかに低位にあることはいかに詭弁を弄してもおおいがたい事実であつて,ことに食生活の貧弱さについては甚しいものがある。日本人の体格が劣等であること,死亡率が高いこと,結核とか動脈硬化症等とかの,罹患率の高いこと等,公衆衞生学的に統計をとつて見てはつきり現われる欠陥は主として国民栄養の欠点に原因するといつても過言ではあるまい。この様なところから考えても,医科大学にとうの昔に栄養学講座というものが設けられてあるべきことは明らかであるのに,やつとこの1,2年になつてはじめて,その講座がつくられるようになつた。
 医学部の栄養学講座はどうあるべきかということに関して岩田氏は甚だひろい内容をこれにあたえているが,私の考えとしてはそれほどまでにひろげることが現在すぐに必要かどうか,またそうすることが現在有効であるかどうかについては疑問をもつている。というのは,現在の医科大学の目的,或は教授内容は,昔からの伝統をそのまま受け継いで治療医学に専らである。なるほど,戦後,おそらくは米国のサジエスチヨンによるのかと思われるが,各医科大学に公衆衞生学講座というものはできた。

岩田昌一氏の論文を讀んで(2)

著者: 島田敏夫

ページ範囲:P.13 - P.15

 食生活は文化の進むと共に発達し且複雑化する。昔各地に分散した人々はそれ等の地域に発達した食生活を好むと好まざるに関らず余儀なくされ,現在の知識よりすればそれは栄養学的に不充分な且つ偏在した満足の下に生活したとものと考えられる。栄養学的に不完全であつたが故に,屡々個人的にも国家的にもその消長が劇しく変動したことは想像される。最近になつて彼等が外襲に対する,殊に食糧不足の場合全ての面に於ての抵抗性を各々敏速且容易に比較出来ることが容易になつたので,それ等劣勢の原因が長い歴史を経て習慣となつた食生活の相異に大きな影響を受けていたことが明瞭になるに及び急速に食生活の学問である栄養学が注意されたのはむしろ当然である。殊に戦後は我国に限らず全世界の人々が栄養学の必要を痛切に感じてきた。そこで一栄養学をつの体系を持つた学として取扱い人類の福祉に貢献させようとした事と必然性の結果であり,又これに依て従来の医学教育の盲点をも解消しようとしたものであるといえる。それ故にこそ遅蒔きながら医学教育の過程に栄養学講座を設けることになったのである。然れば栄養学を医科大学に於て如何なる内容を以て教授されるべきかが問題となる。この時に当り岩田氏の医科大学に於ける栄養教育の内容に就ての論文を読み,誠にその構想に於て,又具体的の分類に於ても全く同感であつて,将来は勿論現在に於ても氏の構想に準した栄養学が教授されることが望ましい。

論説

食生活改善運動に望む

著者: 船田文子

ページ範囲:P.2 - P.2

 昔から“しやもじを渡す”という言葉があるのを見ても分る通り,家庭内の主婦の第1の役目がその家族の食事の世話である。姑のすることを見習つて,手伝つている間は,自分の生家の風習と比較したりしてかなり批判的な嫁も,数年間の習慣の中に,いっか夫やその肉親の嗜好に溶け込んでしまつて,さて自分が息子の嫁にしやもじを渡す頃ともなれば,そうでなければならぬかのようにして毎日の習慣を守り抜こうとする。一面から見ればこのようにして日本の家族制度の美風は守られて来たのではあるが,その反面生活の改善はなかなか行われなかつたのであろう。
 人は習慣の力ほど恐しいものはないと思う。ことに食事については,それが本能の問題であり日に3度繰り返すことなので,一寸やそつと理論や奨励に攻められても容易に受付けるものではない。食生活改善の攻め道具はたつた2つしかないと思う。その1つは美味しいということ,第2は安価に手に入るということだと思う。もしそれが富裕な人達相手の場合は,おいしいということ唯1つである。調理の簡単なことも大きな魅力ではあるが如何に手がかからなくとも,高価では普及しないし,味が悪くては何とも致し方ない。

時評

ビタミンとミネラルの亂用問題

著者: 柳金太郞

ページ範囲:P.6 - P.6

 近年ビタミン類の種類が増加し,その生理的作用も開明されるものが増加するにつれて,世人のビタミンへの関心は益々増加し,加うるにミネラル殊に微量元素に関する知見が急速に進歩したことに促されて,ビタミン類とミネラルとを併合した綜合製剤が続出する傾向にあり,広告術の発達と相俟つて盛にその重要性と効果とが宣伝されて来たようであるが,人間心理の弱点は常に新を追い奇を求めるのが常であり,殊に病弱者や老人は生への執着に駆られて兎角それらを乱用する傾向のあるのは自然であり,又医師の中にも無批判にビタミン類の高単位によって患者の歓心を買つたり,自己の收益を増加したりせんとする傾向も絶無とは言えないので,この問題を一応反省して見るのも徒爾ではないと思う次第である。
 先ず乱用と言う言葉の意味を吟味する必要があるが,これは通常不必要な程度の使用に対して用いられるのが常であつて,それが果して有害であるか否かの問題は必ずしも含まれておらないようである。そこで先ずビタミン類に関して考えて見ると,今日多くのビタミンについてその生理的必要量が明かにされており,一旦疾病に罹つた場合と雖もこの必要量の数倍から精々十数倍を使用すれば治療の目的は達せられるのが通例であるから,それ以上を一時に使用することは不必要の部類に属するのである。

隨想

新中國の医学教育見たまま

著者: 二戸源治

ページ範囲:P.30 - P.33

 私どもは子供のころから現在の新中国を「支那」と呼び,中国人を「チヤンコロ」といつて軽蔑することを教えられてきた。しかし1949年10月,新中国が建設されてから,わずか3カ年あまりの間に政治,経済並に文化の各方面にわたつて,驚くべき大変化を起しています。世界的に有名な植民地であつた「支那」は,今やソ連の次に位する程の民主主義の独立国として,世界中の民主主義国家から,その独立を認められているばかりでなく,非常に敬愛されるに至つたのです。独立後わずか3,4年の間に,何故このような進歩,発展をとげたかという理由は又別の機会に研究するとして,私は現在の中国のありのままの姿について,しかも医科大学の教育の状況について,私の知つている範囲でかいて見たいと思います。

座談会

学校給食の現状と將來

著者: 速水決 ,   岩倉武嗣 ,   茂木專枝 ,   尾崎嘉篤 ,   関武雄 ,   北條茂子 ,   靑村久子 ,   長谷川泉

ページ範囲:P.16 - P.25

給食の推移と現状
 長谷川 「公衆衞生」が特集主義に編集を切りかえまして,今度の号は「最近の栄養問題」というテーマを設定いたしました。その一環として「学校給食」の問題をとりあげ,本日の座談会が計画されたわけでございます。学校給食は終戦後の特別な要請から問題となり,現在見るような実績をあげているわけでございますが,よく検討してみますと,今後改善してゆかなければならない問題を多くはらんでいると思います。その意味で本日は実際の仕事に当っておられる現場の方々や関係官庁の先生方に御出席いただきました。先ず現状分析からはじめて,今後のあり方や改善の具体案などにつきお話いただければ幸に存じます。最初に文部省の岩倉課長さんからお話願います。
 岩倉 私は昨年の3月からこの仕事を担当致しておりますが,どうも世間一般は給食のことがほんとうには分つていないんじやないかという気がします。実は私自身も幾人も子供を学校にやつて給食を受けておるんですが,給食の仕事を担当してからはじめて分つてきたわけなんです。そこでどういう点が分っていないかといいますと,終戦後非常に尨大な物資を米軍等の協力によりまして貰つた。

統計資料のページ

國民榮養の変遷

著者: 大磯敏雄

ページ範囲:P.26 - P.29

1.国民の栄養調査
 凡そ1つの国民を対象として,1人1人が1年を通じて,一体どの位の食品を消費しており,その栄養的な内容が如何なるものだろうかという所謂栄養調査なるものは,我国に於ても,極く小規模な,しかも局部的なものは早くから企てられ実施されて来たが,調査範囲をうんと拡大して,国民全体の食物摂取の状況とか,進んで国民の栄養状態まで明らかにしようという栄養調査となるとなかなか大がかりとなるので,そう容易には行われなかつた。
 然し,このような面倒な調査であつても,国民の保健対策や,食糧政策の上から企画すべき計画や,国民生活と直接に結ぶ行政の面から考えればこれは極めて重要な企てであつて,このような目的からすれば,やはり国の仕事として大規模に取上げなくてはならない。

研究報告

学童の食事調査—食品の嗜好状況について

著者: 東義夫

ページ範囲:P.34 - P.36

1.緒言
 戦後窮迫せる食糧事情から漸次改善され,今や栄養問題は量から質へと移行しつつある。最近の食事調査に関しては厚生省,及び各府県に於て実施されている。現在小学校に於ては全国的に給食が実施されていて,その目的として栄養の補給,食事に関する道徳心の養成,好き嫌らいの絶滅等があげられている。
 堺市健康教育研究所嘱託の関係から堺市の小学校児童6年生約2000名について好き嫌らいの実態を調査したのでここに報告する。

台灣の公衆衞生を見る

台灣に於ける衞生事情

著者: 王洛

ページ範囲:P.39 - P.47

1.序
 台湾は今自由中国の樂園である,反共抗俄(露)の基地であり,中国大陸民衆への光明を放つ燈台であり,軍事的,政治的,将又経済的中心でもある。第2次大戦後,台湾は再び中国に帰屬してから最早や7歳の星霜に垂んとす。茲に此の間の台湾に於ける衞生事情の変遷に就て報告し,大方の御参考に供したく思う。

最近台湾で発生した狂犬病の統計的觀察(1948-1952)

著者: 曾沢永 ,   董晋榮

ページ範囲:P.48 - P.52

まえがき
 台湾には過去60年間(1888年〜1946年)殆ど狂犬病の発生報告がなかつたのであるが,最近同病が島内に発生し1948年6月17日から1953年4月10日までに549名が台湾省政府衞生処に報告された。
 我々は1952年12月31日までの535名について各県市衞生院の援助のもとに調査した。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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