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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生14巻5号

1953年11月発行

雑誌目次

特集 最近の性病問題

軟性下疳菌類似菌(靑木等)に就いての説明

著者: 靑木義勇

ページ範囲:P.3 - P.8

 非淋菌性尿道炎に関して執筆を求められたが,我々(靑木,河合,中村,白木,原田)が佐世保市の街娼に就いて調査し又分離した菌は,それが尿道炎を起すという確証を附された時始めてこの標題下での記述が許されるのであつて,我々の現在の知見では如何とも為し難い。ただこの菌は,たとえ尿道炎に無関係なものとして葬り去られるとしても,軟性下疳菌類似菌として性病の診断に確かに一つの意義を持つている。この意味で既報日本医事新誌,第1491号,昭和27年11月及びYokohama Medical Bulletin, Vol. 3,No. 5, Oct. 1952)の要点を再記し,その後の状況や知り得た各地の類似事態にも触れたいと思う。
 佐世保の米海軍基地の一部に性病治療所V. D. Dispensaryなるものがあり,如何なる径路でここに患者が送られるかは知らないが,遊んだ米兵の一部が入所せしめられ検査や治療を受ける。淋菌は発見されない,梅毒は否定され,Frei反応も陰性,それなのに―大部分は尿道からであるが―軟性下疳菌を見出す症例が増えたと先方は称する。有病の場合直ちにcontact reportが発行されtracingが行われ,感染源容疑の女の保健所出頭となる。

梅毒の治療をめぐつて

著者: 樋口謙太郞

ページ範囲:P.9 - P.14

はしがき
 『梅毒はついに消滅した』といえばそんな『馬鹿なことが』と反問されるに決まつている。しかし現在新鮮梅毒は全くみられないことは事実である。サルバルサンの発見当時これにてTherapiamagna sterilisansの理想は実現したとし,厄介な梅毒はこの世の中から消え去るだろうとの期待が持たれたが,実際には決して減少せず,ことに今次大戦の直後の蔓延は著明にして,なかんずく惡性顕症梅毒の多発がみられた。それにもかかわらず昭和25年頃より漸次減少して来た早期顕症梅毒は昨年末より本年にかけてはその1例にも遭遇しなくなつてしまつた。伝染源を調査しても新しい感染を認めない。かかる事実は公衆衞生的に非常に喜ばしい現象であるが,われわれ梅毒の研究を担当するものにとつては真に新鮮梅毒が消滅したものであるかどうかに疑を抱き,さらに今までかつて見られなかつた減少の理由について関心を深くするものである。
 また現在残存し,われわれの日常治療の対象となつている晩期潜伏梅毒では血清反応の陰転困難な症例即ちいわゆる抗療性ないし抗血清反応性梅毒が多く治療に手こずるものであるが,かかるものの意義と処置法についてしばしば質問を受ける。ゆえにこの辺の消息を需められるままに,駆梅療法の沿革ならびに最新療法の概説に附記して簡単に解説しておきたい。

梅毒血清反応の比較実験について

著者: 石坂公成

ページ範囲:P.15 - P.20

緒言
 Wassermannが梅毒血清診断法として所謂ワツセルマン反応を発見して以来,梅毒血清反応に関しては数多くの改良が加えられてきた。勿論本反応の理論的根拠については未だに解決されていない点が多いのであるが,実用的見地からみれば現在梅毒血清反応なくして梅毒の診断を下す事は不可能であるといつても過言ではないであろう。従つて本反応術式の優秀か否かは直接,梅毒の診断は勿論,梅毒予防対策上極めて重要な問題となつてくる。所が所謂梅毒血清診断法として用いられている術式は,我が国に於けるものだけでも相当数に上つて居り,しかもいずれが優秀かは殆んど無批判に用いられてきた。従つて梅毒血清診断法の中,優秀術式を選択する事は梅毒予防対策の上からも極めて重要な意義を有するわけである。所で斯様な試みは既に相当以前から国際連盟に於て行われていたのであるが,我が国に於ては未だに行われた事がなかつた。
 そこで昭和22年に厚生省薬事審議会,生物学的製剤等小審議会,性病専門部会の申し合せに従い,始めて梅毒血清診断法の比較実験が行われ,爾来昨年迄8回にわたり優秀術式の選択が行われた結果,大凡我が国現行の梅毒血清診断法中優秀なものを選択する事に成功したので,以下その経過についてのべてみたいと思う。

論説

第8回日本公衆衞生学会印象記

著者: 橋本正巳

ページ範囲:P.2 - P.2

 今回の公衆衛生学会は,空前の盛観であり,話に意義深いものであつた卒直にいつて,おそらく,医学のみならずいかなる分野の学会でも,今回の本学会ほどその規模が雄大であり,綜合企画のみごとなものはないのではないかと思われたほどであつた。
 これはいうまでもなく,斯界の信望を一身に集めていられる三木岡山県知事が学会長であり,開催地が公衆衞生行政のホープ,しかも,全国から足場のよい岡山県であり,更に時恰も世界の公衆衞生発展の途上,WHOの西太平洋地域委員会が東京において開催された直後でもあり,いわば,天の時と地の利と人の和が奇しくも具わつて今回の盛況をもたらしたものといえよう。私は,本学会には第1回より毎回出席の幸運に恵まれた一人であるが,そのめざましい躍進ぶりに感激を覚えざるを得ない。限られた紙面ではあるが,以下に二,三の印象を述べてみよう。

時評

性病

著者: 呵々

ページ範囲:P.21 - P.22

此間,吉原病院の雪吹院長さんがこんな話しをしておられた。「吉原の女を治療して充分に癒しておいてですね,一人だけ客を取らせておいて様子を見るんですよ。すると女の21%が発病する。つまり遊びに来る男が100人おれば,21人が性病をもつている勘定になりますね。驚ろきましたな。性病を蔓延さすのを商売女だとばかりきめつけるのはどうですか。男がこの調子ですよ。尤も,それや,大もとはといえば商売女かも知れませんがね」
 ここで私は,遊興準備室スイステムを提唱したい。何のことはない。遊びに来る男の身体検査室である。顔を見られるのが嫌と云うことであれば,尾籠な話しであるが,"そのもの"ずばりだけを検査してもよい。合格者にはパスポートを出す。ただ一寸困るのに梅毒の血清試験であつて,結果が解る迄一週間は,御本人を感染の危険から守るために,準備室の隣りに附設した簡易宿泊所に御投留願うと云うことになるかも知れない。

随想

保健文化賞受賞の感想

著者: 酒井谷平

ページ範囲:P.39 - P.40

 筆者は先きに第一次大戦後,今から35年前欧洲に遊び,彼の地の温泉を見学したのでありますが,それ等の温泉が我が国に於けるものに比し,質量ともに著しく貧弱であるにも拘らず,規模の宏壮,建築の華麗なるに一驚を喫すると同時に,其の研究,設備の十分に行き届き,自国民ばかりでなく,外国の求厚生省,求療病者から樂しく愉快に利用されているのを見て,羨望の眼をもつて感歎したものであります。以来,我が国の温泉もかくあるべきであるとの信念から,朝野にアツピールして,先ず温泉業者,交通業者を主体とせる社団法人日本温泉協会を,つづいて同好の学者を主体とせる日本温泉気候学会を創立して,著書に講壇に,其の研究の重要性と,設備の改善を高唱し来たのでありましたが,時運の然らしめるところとはいえ,其の研究の進歩,設備の改善と同時に,其の利用が年々共に隆盛に赴き,今は全国に数万戸の温泉旅館を見るばかりでなく,十数カ所の温泉研究所,数カ所の温泉病院,数千カ所の温泉厚生寮が設立され,国民の保健,療病に多大の貢献をなしつつあることは,筆者の頗る欣快とするところであります。尚この上は筆者の多年の願望である国際温泉場が設けられ,世界各国民が厚生療病のため我が温泉を利用するようになれば,私の本懐之れに過ぎないのであります。
 此処で今回の保健文化賞受賞を機とし,筆者の温泉医学に貢献せる業績を回顧して見たいと思うのであります。

グラビヤ

公衆衞生展覧会より

著者: 山本

ページ範囲:P.42 - P.43

 今度の公衆衞生学会を機会に郵政省,岡山県,厚生省及び日本公衆衞生協会の肝入りで岡山市で開催された公衆衞生展覧会は,充実した内容と規模の大きさから言つても,学会の成果に一段と輝きを益したものでした。その個々の内容は到底述べきれませんが,会場で撮られた写眞の中から一部引用させて頂きました。
 ここで私の感じた全般的た感想としては,従来の衞生展覧会に比して,文字展より絵図写眞展へ,平面展より立体展への力強い胎動が更に一歩前進したことに大きな意義が感じられました。取材の範囲を見ても,ぎりぎり一杯の衞生と云う概念を乗越えて,例えば生活改善運動に衞生の足場を求めて,民衆の"生活そのもの"の中にザブリと喰込んでいつている状態を見ても,従来その例を見ないものでしよう。企劃,アイデイアの面についても斬新な趣向と工夫がこらされておりますが,ただ,中には一つの画面の中に余りに大くの内容を盛込もうとしたために,全体がゴチヤゴチヤして,焦点がぼけてしまい,"観客に訴える力"の減殺されていたのも見受けられました。この点選んだ写眞の中にはありませんが,逆に例えば,"これが癌だ"と云う様な模型は横にかかれた早期診断と云う言葉と相俟つて,簡明直載に訴えるより優れた力を持つているのではないでしようか。

研究報告

都内一集娼地区就業婦の梅毒罹患に関する調査

著者: 田中英

ページ範囲:P.45 - P.46

緒言
 これまで感染源としての所謂集娼或は散娼の有梅率については幾多の報告がみられるが,集娼又は散娼としての業に就いている者の梅毒罹患についての報告は,見当らない様である。集娼又は散娼であつても先天性の梅毒を除いては,いずれも後天的に罹患するものであることは言を俟たない。
 そこで,私は都内の公娼以来の一集娼地区の就業婦について,就業時の梅毒血清反応が陰性であつたものを対照として,之が梅毒罹患に関する調査を行つたので,その成績を報告する。

性病患者の実態調査—第1報(性病の屆出率について)

著者: 小原菊夫 ,   伊東弘祐 ,   山田達男

ページ範囲:P.47 - P.48

1 序言
 性病患者の届出数は,全国では昭和23年,東京都では22年を頂点として漸次減少し,昭和26年には全国270,857人,東京16,377人,昭和27年は東京15,990人となつている。しかし,この数字から直ちに性病罹患率は出てこない問題は,診療をうけた患者の何%が届出られたかにある。
 それについて,山下(1)は,所沢地区における調査に基いて,性病患者の48%が届けられたと報告している。また,一方,北見(2)は,理論的に性交可能男子の5〜18%が淋病に罹患していると推定している。

淋疾に関する伝染源発見について

著者: 藤倉喜久夫 ,   杉山哲次郞 ,   幡野永由 ,   麻生和雄 ,   山田義男

ページ範囲:P.49 - P.50

 戦後我国に於いて内外の特殊な事情により,性病に関する問題が,最も大きな社会問題の一つとしてとりあげられるようになつた。特にその中でも淋疾の罹患率は最も大であり,我国民の公衆衞生上,極めて寒心に耐えない所である。
 一般に伝染病防疫の第一段階として採りあげられる問題は,その伝染源対策であり,就中患者及び保菌者の発見確認である。本疾患の患者は外見上健康な者と殆ど変りなく,又その自覚症状も軽微或は皆無であり,自己の患者又は保菌者たることを全く知らないものが相当に多い。更に又本疾患の病原体は他の消化器系伝染病の場合と異り,その培養,鑑別,同定が極めて複雑困難なことのために,直接塗抹染色検鏡検査により容易に発見出来る急性期のものを除いては,その診断は常に確実に行われているものとは限らない。即ち血液寒天,血清寒天,腹水寒天或はその他の合成培地が多くの先人により考案応用せられているが,それらを用いて培養した結果は必ずしも一定しない。甚しき場合は検鏡所見に於いて明かに陽性の症例に於いてすら培養試験陰性に終ることが屡々知られている。このような事情のために,従来確定診断の方法として培養所見の確認という事がとなえられているにも拘らず,実際上はあまり広く行われていないのが実状である。

シンポジアム

街娼・飮食店・旅館・温泉を中心としてみた性病予防—第8回公衆衞生学会

著者: 根山博 ,   山本二郎 ,   大野宰 ,   田部道子 ,   高橋了介

ページ範囲:P.23 - P.38

 司会 これから性病予防のシンポジアムを開催さしていただきます。
 性病の予防は,結核の予防とともに,公衆衞生部門におきまして現下の大きな問題の一つでございます。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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